まさかの再会
ヘンゼルさんに連れられて俺達が引き合わされた人物。
それは――。
清楚さすら感じさせる正統派ロングスカートのメイド服に対して、不釣り合いともいえるドタプン♡とした重量さを感じさせる二つの胸部のふくらみ。
横から見ても分かるくらいに整った顔立ちと、ほのかな赤みががったロングヘア―に一房の青いメッシュの前髪をした一人の女性。
気づくと俺は、彼女の名前を呼んでいた。
「キキーモラさん!!――良かった。無事にこっちに戻ってこれたのか……!!」
それは紛れもなく、俺達と一旦別れて外にある“ナハバツ”の町へと単身向かっていたはずのキキーモラさんであった。
俺やオボロでは、このシスタイガー大森林にかけられた『プレイヤーや転倒者を閉じ込める結界』から抜け出す事が出来なかったため、モンスターであるキキーモラさんに、使い尽くしてしまった回復アイテムなどの調達を任せることとなったのだ。
この拠点を防衛していた他のプレイヤー達に差し入れしていた彼女だったが、俺の声に気づくと驚いた表情のままこちらへと振り返る。
「リューキ様、それにオボロ様……!?良かった、無事に『スマイル遺跡』という場所からは戻ってこられたのですね……!!」
そんなキキーモラさんに俺が返事するよりも早く、オボロが物凄い速度で飛び掛かるかのように彼女へと抱き着く。
「もう、それはこっちのセリフだっての!一人で行くとか本当に無茶なんだから……!!とりあえず、本当にお帰り。キキーモラさん!」
そんなオボロの言葉に少し涙ぐみながらも、キキーモラさんが笑顔とともに答える。
「――ハイ、キキーモラ無事に『ブライラ』へと帰還しました。……リューキ様、オボロ様……!!」
「ピ、ピ、ピ~ス……」
横で名前を呼ばれなかったヒサヒデが若干悲しそうな声を上げていて可哀そうだが、今回ばかりは女性二人の抱きしめ合う場面に水を差すわけにはいかないので仕方ない。
俺はヒサヒデに無言で頷いてから、すぐに抱擁し合うキキーモラさんとオボロへと称賛の拍手を送る。
……でもやっぱり、キキーモラさんは若干ヒサヒデに対して反応が冷たい気がするな。
同じ鳥系(?)のモンスターだからか?
それとも、やっぱり清楚系メイドとしてはヒサヒデみたいな自身の巧みな腰使いを武器にするようなノリは受けつけないのだろうか?
いずれにせよ、同じ山賊団の仲間として活動していく以上、そこら辺の話を聞く必要がありそうだな……。
「もう、ヘンゼル様も本当に人が悪いです!……リューキ様に呼ばれるまで、私は本当に皆様が戻ってこられたことを知らされていなかったんですよ?ですから、凄く驚いてしまいました……」
「ハハハッ、それは本当にすまなかったね。ただ、こういうのはサプライズでやった方が、喜びも倍増するかな?と、思ったんだけどな……」
「ヘンゼルさん、流石に今回はアタシ達もキキーモラさんもみんな命がけだったんだから、それはブッブ~!と言わざるをえないです!」
「ピ~ス、ピ~ス!!」
「ハハッ、ありがとうヒサヒデ。……どうやら、この場の僕の味方は君だけのようだ……」
そんなヘンゼルさんの発言を受けて、ドッと場が沸き立つ。
現在、この“ブライラ”の広場では、オボロとヒサヒデが自分達の特上天丼をこの場にいる皆に分け与えたりしながら、思い思いにその味を堪能していた。
現在進行形で賑わっている光景を尻目にしながら、俺は自身が先ほどまでいた方角を見つめる。
そんな俺を見かねたのか、オボロが咎めるようにこちらへと呼びかけてくる。
「ちょっと、リューキ~?今はこれ以上気にしたってしょうがないじゃない。アンタもそんなところで一人辛気臭い顔していないで、ヒサヒデが分けてあげるから、一緒に天丼食べときー」
……現状を理解しているはずなのに、あまりにも俺の心境を理解していないとしか思えないオボロの発言。
それに対して、キッ!と睨みを返しながら、俺はオボロへと答える――!!
「馬鹿野郎!!俺はわざとじゃないとはいえ、救出したばかりの犬神 秋人をあの遺跡に置き去りにしちまったんだぞ!?――もしも、生きてここに帰ってきたら、絶対にアイツにブッ殺される!!」
それこそが、俺が“特上エビメダル”でゲットしたはずの自分の特上天丼を地面に落下させる原因にもなっている俺の悩み……。(ちなみに、俺が落とした天丼は線引きミミズがモゾモゾと何やら取り込んでいる。……本当に食えるのか?)
流石に秋人が死ぬようなことになったら、罪悪感も半端ないし……それ以上に、アイツが無事にここへと辿り着いたら、俺は確実に命を落とすだろう。
「……おまけに皆、表面上は楽しそうにしているけど、ラプラプ王が敵に捕らえられたことを伝えたときは流石にショックを隠し切れない様子だったし、内心かなり心配しているだろうからな……こればっかりは、な……」
ヘンゼルさんもらしくない茶目っ気を見せている辺り、ラプラプ王や犬神 秋人の事で悩んでいるにも関わらず、帰還した俺達を元気づけようとしてくれているのかもしれない。
ハァ~、自分の認識不足やら実力不足だってのは分かるけど、こうまで何もかも上手くいかない事だらけだと、流石に誰にともなくモヤモヤをぶつけそうになってくるし、そんな自分の心境に自己嫌悪ですわ……。
こんな心境で人と接していたら、さっきのオボロとのやり取り以上に、ロクな振る舞いが出来なくなるのは自身の経験上なんとなく分かっていたので、俺はみんなの輪から離れて一人になろうとしていた――そのときだった。
「悩んでおられるのは分かりますが、空腹のままだともっと考えもまとまらずに、気持ちも落ち込んだままになりますよ。……リューキ様」
そんな言葉とともに、スッ……と横から、天丼が入った器と木製のスプーンが差し出される。
確認するまでもなく、これを差し出してきたのはキキーモラさんだった。
見る必要はなかったけれど――少し驚きながら、そちらを見た俺に対して、キキーモラさんが優しく微笑みながら、語り掛けてくる。
「――少しだけ、お話をしてもよろしいでしょうか?リューキ様」




