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身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです  作者: 廻り
本編

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13/24

同じ事を思って

 レストランへ到着し、エントランスホールで最初に目に飛び込んできたのは、天井からぶら下がっているオブジェでした。


 貝殻を装飾したもので丸く形作られていて中に灯りが入っているのか、ほんわかした光に包まれていてとても綺麗です。


「初めて来た者は皆、これに圧倒されるのですよ」

「私も驚きました、とても素敵です」


 あのオブジェはホタテの貝殻とサンゴでできているのだとエド様が教えてくださっていると、お出迎えで待機していた支配人が近づいてきました。


 挨拶を終えると、ホールの内装についての説明がありました。

 ここは海の中をイメージしているそうで、オブジェは気泡を模しているそうです。


 私がイメージしていた海の中とはずいぶんと違うので、心の中で笑ってしまいました。


 夢の中では木が生えていたりお花が咲いていたり、魚も人間のような動きをしていたのですから、夢の中のエド様はさぞ驚かれたことでしょう。



 支配人自ら案内してくれた個室は、お庭が見えるとても素敵なお部屋でした。

 壁には大きな水槽が埋め込まれていて、色とりどりのお魚が泳いでいます。


 エド様が注文している間も、私はその水槽に視線が釘付けになってしまいました。

 子供みたいではしたないと思われそうですが、目が離せないのです。

 今ばかりは子供っぽい容姿を、最大限に活かしたいと思います。


 エド様は注文を終えると、苦笑しながら「水槽を見ましょうか」と言ってくださいました。


 これらのお魚は南の暖かい海に住んでいるそうで、見た目が良いので観賞用にしているそうです。

 南の領地ではこのお魚を飼うことが、富裕層としてのステータスのようです。

 とても可愛らしい形をしたお魚ばかりで、私も南に住んでいたらきっとお父様におねだりしていたことでしょう。


 ずっと見ていたい可愛らしさなのですが、飲み物が運ばれてきたので席に戻りました。


 エド様はあまりお酒を飲まれないそうで、私と同じくジュースを飲まれていました。


 お酒に弱いのではなく、良い睡眠を得るためにはお酒は飲んでいないほうが良いのだそうです。

 王族は夢に関する特別な魔法があるため、皆様もお酒はあまり飲まれないのだとか。


 エド様の魔法は国の役には立たないものだと言われていますが、それでも夢を見ることは大切なようです。


 運ばれてきたお料理はどれも見たことがないもので、あまりの美味しさに驚いてしまいました。


 野菜とホタテを和えたものはホタテがとろけるような美味しさで。

 ロブスターのスープは濃厚な甘さがとても美味しく。

 ホタテを焼いたものは貝殻がお皿になっていて見た目も可愛く、バターの風味とホタテの甘さがとても味わい深かったです。

 ロブスターを半分に割ってグリルで焼いたものは、こんなに弾力のある食べ物は初めてではないかというくらいプリプリで美味しかったです。


 最後に出てきたホタテとロブスターのトマトクリームパスタは、本日の総仕上げに相応しい全てが詰まった美味しさでした。


「こうして誰かと一緒に食べる食事は、美味しいですね。その相手がアイシャなのですから、至上の喜びと言っても良いでしょう」

「エド様、おおげさです……。いつもはどうされているのですか?」

「自分の区画で一人で食べることがほとんどです。執務に追われた後の食事が一人なのですから、わびしいものです」


 お城は王族それぞれに専用の区画が割り当てられていて、そこで私生活から執務まで全て(まかな)えるようになっているそうです。


 エド様は私が帰った後、いつも寂しくお食事をしていただなんて思いませんでした。


 こちらへ来る時の馬車でとても楽しそうにしていられたのは、そのような理由からだったのでしょうか……。


「……なんて、アイシャの同情を誘ってまた一緒に食事をしたいと思っているのですが」

「え?」

「また一緒に食事をしてくれますか?毎回レストランというわけにはいきませんが、城の食事もここに負けないくらい美味しいですよ」

「あの……、私で良ければいつでも」

「本当ですか?いつでと言われたら、毎日誘ってしまいますが」

「……はい、とても嬉しいです」

「ありがとうございます、アイシャ。僕もとても嬉しいです」


 エド様と毎日お食事ができるなんて、それではまるで夫婦のようではありませんか。


 ……落ち着いてください私。

 過度な期待と妄想は禁物です、現実に戻ってください。


 そっそうです、お食事をして帰りが遅くなるのでしたら宿題の心配をしなければなりません。


「エド様、お願いがあるのですが……」

「なんでもどうぞ」

「お食事をすると帰りが遅くなりますので、今日みたいに宿題をさせていただけるとありがたいのですが……」

「構いませんよ、では城に来たら先に宿題を終わらせるのを日課にしましょうか」

「はい、ありがとうございます」


 これで安心してゆっくり夫婦ごっこ……いえ、お食事が楽しめそうです。


 「皆もこれからは早く帰ることができて、喜ぶでしょう」とエド様は苦笑されました。


 私が執務室にいるとエド様の処理能力が五倍になると、側近に言われたそうです。

 そのようなお話いつの間にされていたのでしょう、宿題に集中していたので全く気がつきませんでした。


 あっという間に書類の山を片付けられていたエド様はとても素敵でしたので、それが私の効果だと言われると嬉しくなってしまいます。



 デザートを食べ終える頃には、外は真っ暗になっていました。


 お庭には灯りが灯っていて、とても幻想的な雰囲気になっています。

「庭を散歩してみましょうか」とエド様が言ってくださったので、お庭へ出てみることにしました。



 病み上がりなのでと、エド様は着ていた上着を私の肩にかけてくださいました。

 エド様の暖かさが伝わってきて、それだけで幸せな気分になってしまいます。


 灯りはエントランスホールのオブジェと同じく貝殻で作られていて、近くで見てもとても綺麗でした。

 道に沿って灯りがいくつも灯っていて、まるで星空の中を歩いているような気分です。


 道の横には池があり、東の国から運んできたという金色のお魚が泳いでいました。

 お日様の元で見るととても美しいようで、この次はランチに誘ってくださると約束してくれました。

 金色が光りに当たると、エド様の髪の毛のようにきれいなのではないでしょうか。とても楽しみです。


「エド様、今日は素敵な場所へ連れて来てくださりありがとうございました」

「アイシャが思いのほか喜んでくれているようで良かったです。水槽に釘付けになっていたアイシャは、とても可愛らしかったですよ」

「も、申し訳ありません……」


 改めて言われると、自分の行動が恥ずかしくなってしまいます。


 エド様は「僕も初めて来た時は、アイシャと同じでしたよ」と思い出すように苦笑されました。


「海の魚は人間のように歩くのだと思っていたので、とても驚きました」

「エド様もですか?私も幼い頃はそう思っていました」


 私はさすがにこの歳なので泳ぐものだとはもう知っていますが、エド様はきっと幼い頃に来られたのでしょうから、さぞ驚かれたことでしょう。


 同じ勘違いをしていたことがとても可笑しくて笑っていると、エド様は後ろから包み込むように私を抱きしめました。


「アイシャと同じことを思っていたなんて、嬉しいです」

「わ……私もです、エド様」


 抱きしめられることに慣れてきたとはいえ、このように雰囲気の良い場所では緊張してしまうのですが……。


 しばらく黙っていると、エド様が先に口を開かれました。


「アイシャ……。先日の夜会では、悲しい思いをさせてしまいすみませんでした」


 なんとなく避けていた話題に、鼓動が急に激しくなりました。


「いえ……。私こそ取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」

「アイシャが心配していたように、僕には婚約の打診がいくつも来ていたのですが、王命で全て断り今後一切受けつけないと周知させました。ですから、アイシャが心配するようなことはもう起きません」


 国王陛下が、それをお認めになったのですか?

 エド様は結婚適齢期だというのに、なぜ……。


「僕はこれからも、アイシャと会い続けたいのです。アイシャの憂いはいくらでも晴らしてみせますから、これからも会い続けてくれますか?」

「はい……。とても嬉しいです」

「ありがとうございます、アイシャ」


 国王陛下まで巻き込んで私の憂いを晴らしてくださったにも関わらず、エド様が望むことはただ私に会いたいだけだなんて。

 わざわざそのようにしてくださらなくても、エド様のお立場ならご命令すればいくらでも私をそばに置けるというのに。


 それに、さきほどお食事をご一緒にするお約束をしたばかりなのに、また同じようなお約束を取りつけるだなんて、エド様はご自分に自信がないのでしょうか。

 それとも、私の言動がエド様にご不安を与えてしまっているのでしょうか……。


 私もエド様とずっと一緒にいたいのだと、明確にお伝えしなければと思いました。


 ぐっと拳を握ると、エド様の腕の中でくるりと半回転して彼を見上げました。


「エド様、いつまでも私をおそばに置いてくださいますか?」


 これで少しでもエド様のご不安を取り除くことができれば良いのですが……。


 祈るように両手を組み合わせて見つめていると、彼のお顔がどんどんと赤く染まるのが暗くてもわかりました。


 彼は「はい……」と短く答えると、恥ずかしそうに視線を逸らされました。

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◆作者ページ◆

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