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イェルドの発言を少し意外に思ってしまう。
「もっと早く――――最初にエドさまと話したときに聞いたのではないですか?」
しかし、イェルドは首を横に振った。
「まさか。エドウィンがそんなに不用心なことをするはずないだろう? 彼は余計な情報なんていっさい漏らさない狡猾な男なんだから」
狡猾と言われたエドウィンは、面白くなさそうな顔をする。
それでも、その辺の事情を教えてくれた。
――――ビアトリスが誘拐された当初、そのことを知ったエドウィンは、誘拐事件がイェルドに関するゲームのイベントではないかと思い、すぐに彼を訪ねたという。
予想は当たり、イェルドの元に誘拐犯から脅迫状が届いたが、内容はイェルドの王位継承権の放棄を求めることのみ。ビアトリスの居所につながる情報はなにもなく、考えたエドウィンはゲームをよく知るエイミーの元に行こうとしたそうだ。
「彼女はヒロインだからね。きっと誘拐事件イベントのことも知っていると思ったんだよ。事と次第によっては多少手荒な手段を取っても洗いざらい吐かせるつもりだった」
しかし、そこにイェルドが立ちはだかったのだ。
そのときのイェルドは、異世界転生や乙女ゲームのことなどなにも知らない。
そんな彼から見れば、エドウィンのしようとしていることは無関係なエイミーを巻きこむことに他ならなかった。
「しかも手段を選ばず尋問するって言うんだよ。見過ごせるはずがないよね」
行く手を阻むイェルドと争っている場合ではないと判断したエドウィンは、真実をイェルドに伝え彼に協力を頼むことにしたそうだ。
「苦渋の決断だったけれど、人手はひとりでも多くほしかったからね」
そこまで話したところで、エイミーが声を上げる。
「とても信じられないって言っていたイェルドを説得したのは私なのよ! ちょうどそのタイミングであなたからの手紙が届いたから、エドウィン殿下とイェルドに手伝ってもらって、誘拐犯の仲間を捕えたの。その後も隠れ家や秘密の脱出口に案内したんだから! いっぱい感謝してよね!」
今泣いたカラスがもう笑う。
元気いっぱい自分の功績を主張するエイミーに、ビアトリスの心はホッとした。
たしかに彼女のおかげで助かった部分があるのは間違いない事実だ。
だからビアトリスは「ありがとう」と頭を下げる。
「どういたしまして!」
ビアトリスとエイミーは、目と目を見交わして笑い合った。
とたん、エドウィンはビアトリスを、イェルドはエイミーを自分の方へ引き寄せる。
「私の方がスウィニー男爵令嬢よりたくさん頑張った」
無駄に張り合うのはエドウィンで、
「そんな可愛い笑顔をむやみに振りまかないで。閉じこめたくなって困る」
独占欲全開なのはイェルドだ。
どうやら二人とも同性の友人であったとしても焼きもちを焼いてしまうらしい。
「エドさまが私のために誰より努力してくださったことは、よくわかっていますから」
「閉じこめたら一生笑ってあげないわよ!」
それをなだめすかしたり、怒ったり。ビアトリスもエイミーも忙しい。
二人の少女は隙を見て、もう一度目と目を見交わした。
(――――お互い面倒くさいキャラを選んじゃって、たいへんよね)
互いにそう思っていることを確信しながら、ビアトリスは心の中で呟く。
それでも二人の心の中に後悔は欠片もなかった。
ビアトリスは、心から愛する人の隣にいることを自ら選んだのだ。
エイミーもきっとそうだろうと確信するビアトリスだった。




