第55話:無能神
「来たか、人の子よ」
「よぉ、ストーカー。会いたかったぞ」
現在、天界の中層に俺達はやってきていた。ちなみに天界の上層を別名で"神界"と言ったりもする。そして、そんな俺達の目の前には例の神が偉そうにこちらを見下ろしていた。
「何だ、その口の利き方は!!こちらは神!不敬であるぞ!!」
身長はだいたい3メートルぐらいといったところだろうか。とてつもない美貌を放っている。これはいわゆる女神と呼ばれる存在だろう。神は力の大きさによって、身長や放つ神気が変わる。上級神が皆、10メートルぐらいで放つ神気もとんでもなかったことを考えるとこいつは……………
「1つ訊く。神界って、行ったことあるか?」
「ほぅ?人間の癖して、神界を知っているのか?珍しいこともあるもんだ………………まぁ、いい。冥土の土産に教えてやる。神界とは上級神の方々が住まわれる地。そんな地に私のような中級神がおいそれと行ける訳もなかろう。一応、天界の上層という括りではあるが、そもそも場所自体が天界のさらに上に位置する。だから、こことは切り離して考えねばならないだろう」
「その上級神とやらは強いのか?」
「強いなんてものではない。あの中のたった1人でもこちらに牙を向けてくるようなことになれば、果たして天界がどうなってしまうのか」
「ふ〜ん」
「……………あれ?でも、待てよ。そういえば、最近多くの上級神が何者かによって消されてしまったというのを聞いたような」
「無駄話はそこまでにしようぜ?で、お前が俺達をここに呼んだ理由は?」
「ふんっ!そんなの決まっておろう!金鎧のことでだ」
「ん?何のこと?」
やっぱりか。
「惚けるな!あれは本来、お前達人間ごときに扱える代物ではないんだ!!それを全て集めてしまうとは…………あの世界の人間であれば、到底手に入れられないような場所に保管しておいたというのに」
「んなの知らねぇよ。あれは正真正銘、1人の偉大な人間が作り出したものだ。それを後出しジャンケンのように駄目だ何だと言う権利が何故、お前にある?大体、お前の管理が杜撰だから、そんなことになったんだろうが。自分の無能さを棚に上げて、他人に偉そうに文句つけてんじゃねぇよ」
「なっ!?な、な、なんという言い草!!こ、この私が無能だと!?」
「本当のことじゃねぇか。現に俺達が何者なのか分かってねぇし。ここでは序列が絶対なんだよな?」
「は?一体、何の話をしているんだ?」
「ケツの穴の小せぇ奴だな。金鎧?ぐらい許してやれよ」
「ケッ!?」
「で?お前は俺達をどうしたいんだよ?」
俺の言葉にコロコロと表情を変えていた神はその瞬間、一度動きを止めてから、静かにこちらを見据えてきた。
「お前……………私が異世界からあの世界へと送り込んだ人間か?」
「気付いてなかったのかよ」
「当たり前だ。一々、そんなの覚えていられるか。神は忙しいんだ」
「へー」
「思い出したぞ!お前、シンヤ・モリタニだろう?そうか!こいつが!」
「久しぶり」
「今、初めて会っただろうが!旧知の仲な訳ないだろ!」
「で?それが何か?」
「随分、色々と引っ掻き回してくれたもんだな。そんなお前が金鎧を……………ちょうどいい。お前を始末すれば…………」
そこまで言ったところで俺は刀を鞘から抜き、目の前の神にその切っ先を向けた。
「奇遇だな。俺もお前を始末したいと思ってたところだ」
と同時にそれぞれ武器を構えるティア達。
「そうすれば、解けるんだろ?俺に掛けた呪いが」
その瞬間、神の視線が鋭く俺を射抜いてきたのだった。




