第54話:再び天界へ
「世話になった」
「いやいや、こちらこそだ」
「本当だよ。親父が色々とすまんな」
「なんだと!!」
「はんっ!本当のことじゃねぇか!」
あの後、俺達はしばらく色々な会話をした。そうして、落ち着いた頃合いを見計らい、こうして店を出たのだ。ちなみにリクが店内に入ってきた瞬間、結界を張った為、ヘーパイストスの姿は外の者達には見られなかったので安心である。
「じゃあ、俺達は行く」
「……………会いに行くのか?」
そう言葉を放ったクニミツの表情はまるで今後の俺の行動を予見しているかのようだった。
「よく分かったな?」
「俺にも声が聞こえたんでな……………そんでシンヤの性格ならば、まず間違いなく向かうだろうと思ってな」
クニミツはニヤリとした笑みを浮かべながら自信満々に言った。俺はそれに苦笑を浮かべて、こう返した。
「大したもんだな」
「年の功だ。まぁ、長く生きていると色んなもんが見えてくる」
「俺にはまだそんな境地には至れそうにないな」
「当たり前だ。はっきり言って、力や知恵ではお前に到底勝てそうにない。というか色んな分野において、お前は他人よりも才能がある分、勝てる奴はほぼいないだろう。しかし、歳を取ったからこそ得られるもの……………これに関してはいくら才能があろうとも若ければ得られない。つまり、負けてたまるかってことだ」
「俺は勝負しているつもりはないんだが?」
「がっはっは!人生は何でも勝負よ!だからよぉ」
そこで一旦、間を空けてからトーンを落とした声でクニミツは言った。
「気、抜くなよ?」
「ああ。そのつもりだ」
それから、まもなくして俺達はミツクニを発った。道中でビオラとセキレイとは別れようと思ったのだがどうやら、彼女達も俺達に着いてきたいらしく、一緒にフリーダムまで向かうことになった。そして、フリーダムに到着した俺達はしばらくの間、思い思いの休日を過ごすことになったのだった。
―――――――――――――――――――――
「神に会いに……………ですか?」
「ああ」
サクヤからの質問に愛刀を鞘へと戻しながら、答えた。フリーダムのクランハウスへ戻ってきてから、だいぶ休息を取った俺は次の行動に移ろうとしていた。
「以前、説明したと思うが俺達のステータスに記載された〜神の加護…………例えば、ティアでいうと"獣神の加護"だな。この獣神というのは獣神ケルヌンノスとして天界に実在している。それだけでなく、俺の母であったり、俺達が戦った上級神など…………神には色んなのがいるんだ」
「はい」
「で、今回会いに行くのが俺をこの世界へと導いた神だ」
「っ!?」
「どうやら、奴は相当ご立腹らしい。金鎧の一件がどうにも気に食わないようだ」
「……………大丈夫なんですよね?」
「ん?」
「無事に帰ってこられるんですよね?」
今にも泣き出しそうな程、不安な表情のサクヤ。俺はそれに対して、不敵な笑みを浮かべて言った。
「俺を誰だと思ってる?……………安心しろよ。お前ら、残して死なねぇから」
俺は静かに立ち上がるとサクヤの頭を撫でてから、部屋を後にした。後ろを振り返りはしなかったが、サクヤの視線が背中に突き刺さっているのは肌で感じることができたのだった。
「1人では向かいませんよね?」
クランハウスの扉を開けるとそこにはティア達、幹部以上の面々が勢揃いしていた。おそらく、俺のやりそうなことを事前に予測して集まっていたのだろう。全く……………出来る部下を持つと苦労するとはこのことだな。
「このメンバーはあの時以来だな」
「クーフォ達にここを任せると言ったら、寂しがるどころか使命感に燃えていました」
「そうか………………本当、俺は優秀な仲間達に恵まれたな」
「その台詞、フラグが立ちそうなんでやめて頂けますか?」
「言っておくが、俺は死ぬつもりないからな?」
「ええ。もちろんですとも。私達もシンヤさんを最優先に動きますから……………あなたに危険が及ぶようなことがあれば、迷わず私達が盾となりましょう」
ティア達のその表情は真剣そのものだった。だから、俺はその意思を無碍に出来なかった。
「死ぬなとは言わない………………どうなるか分からないという覚悟で以って、ついてこい」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
それはただのシンヤ・モリタニとしてではなく、クランマスター、シンヤ・モリタニとしての命令だった。そして、これが俺達にとって、最後の大戦となるのだった。




