第52話:望み
「だいぶ話が脱線しちまった……………悪いな」
「いや、俺達にとっては全て必要な話だったさ」
「……………そうか」
俺の返答に笑みを浮かべたクニミツは"ちょっと待ってろ"と言って、奥に引っ込んでいった。一方のリクはクニミツが戻ってくるまでの間、俺達に対して謝罪と礼の両方を口にしていた。俺達が気にするなと声を掛けると涙を流しながら、必死に目を擦っていた……………この様子を見るにビオラの言っていたことは本当のことだったようだ。
「待たせたな……………うん?何だ、お前泣いてんのか?」
「う、うるせぇ!俺は泣いてなんか」
「ふんっ!どうだかな!」
「なんだと!!」
「お、おい!よさないか!さっき、ぼくの言ったことが」
「ビオラ、ストップだ」
「っ!?」
再び始まった2人の言い合いを仲裁しようとしたビオラを俺はすかさず止めた。彼女にとって、これはさっき見せた喧嘩となんら変わらないものだと思ったのだろう。しかし、実際は全くの別物だった。今、目の前で繰り広げられているこれは戯れているような……………分かりやすい言い方をすれば、些細な痴話喧嘩のようなものだったのだ。
「そこまで言うなら、決着つけるか?鍛冶の腕で」
「ふんっ!家を飛び出して以来、全く打ってない錆びついた腕なんかで勝負になるか」
「言ったな?じゃあ、証明してやるよ!俺の腕が衰えてないってことを」
「ストップ。そこまでだ」
だが、流石に数分は長すぎる。目の前で理不尽に聞かされる身にもなって欲しい。そう思った俺は制止の声を掛けた。
「「お、おぅ。すまん」」
「…………ビオラ、こういうことだ」
「…………なるほどね」
「「おい!こういうことって、一体どういうことなんだよ!!」」
「それでこれが例のミーシャの金核とやらか?」
サラッと2人の言葉を無視した俺はクニミツが机の上に置いた金鎧と同じ煌めきを放つ小さな玉を見て、言った。
「……………ああ。そうだ」
すると、ちゃんと気持ちを切り替えたクニミツは深く頷いた。
「本当にいいのか?貰っても」
「シンヤ、それにお前の仲間達にならば託せる。これまで多くの者達を見てきた俺の勘が囁いている………………それに実際にお前らと接して分かった。これ以上の適任はいないってな」
「……………分かった。有り難く頂戴する」
そう言って俺は机の上の金核を持ち、金鎧へも と近付けた。すると、その瞬間……………
「「「「「っ!?」」」」」
眩いばかりの閃光が金鎧から放たれ、その場を一様に染め上げた。そして、それがどのくらい続いたか。気が付けば、光は収まり、俺達は目の前の光景を見て絶句した。
「我は炎と鍛冶を司る神"ヘーパイストス"である。汝ら、多くの艱難辛苦を乗り越え、金鎧及び金核を揃えし者と見受ける。ここで今一度問おう………………汝ら、金鎧及び金核を託されし者で相違ないな?」
目の前に突然現れた者……………それは自己紹介にもあった通り、神そのものであった。パッと見は俺が元いた世界にあった金剛力士像のような出で立ちをしており、そこから感じる力は存在を証明するに十分値するものだった。
「そうだ」
「ふむ。汝が代表者であるか……………なるほど。この力は…………そうかそうか」
「?」
「まぁ、よい。して、汝らの望みは何だ?」
そうして俺へ淡々と問いかけてくる神。俺はその問いに対して、迷うことなくこう答えた。
「ここにいるビオラ……………とその中にいるセキレイという者を別々の人間として生かしてくれ」




