第５０話：偽名

「リク？おかしいな。俺は＂リック＂と名乗られたはずなんだが」

「………………」

クニミツの発言に疑問を抱いた俺がそう呟くと気まずそうな顔を見せたリック。彼は少し経つと俺達へ向かって頭を下げた。

「すまない…………実は偽名を使ってた」

「……………理由は俺達に話してくれたあのことと関係があるのか？」

「ああ……………シンヤ達に説明した通り、俺はそこにいるクニミツの息子で以前、大喧嘩をして、ここを飛び出した。それからだ。俺はリックと名乗るようになった。クニミツの息子だと思われるのはなんつーか……………癪だったからな」

「嘘だな」

「なっ！？ほ、本当だよ！さっきもちゃんと説明しただろ！？」

「確かにそこの部分は本当だろう。しかし、動機はまるで違うな………………おそらく、自分が本名を名乗ったせいでクニミツが狙われてしまうのが嫌だから…………だろ？」

「っ！？」

「そもそも初めて会った時から色々とおかしかったんだ。まず、お前の登場はタイミングが良すぎた。まるで、俺達がソルトの街の冒険者ギルドを訪れるのが初めから分かっていたかのようだった」

「そ、そんなのたまたまだろ」

「いいや、違う。お前は俺達が来るのが初めから分かっていた………………なんせ、ビオラに金鎧の情報を与え、俺達の元へ向かわせたのはお前なんだからな」

「っ！？」

「えっ！？シンヤ、どういうこと！？」

俺の言葉に驚くリクとビオラ。そんな彼らに対して、俺は話を続けた。

「ビオラはソルトの冒険者ギルドを出た時、＂リクに会ったことがあるような気がする＂と俺に言っていた。もし、それが本当のとことで実はお前に金鎧の情報を与えた張本人だとしたら、どうする？」

「え、でも…………顔が少し違うような気がするんだけど」

「もし、それが変装だとしたら？もしくは髪型や装い、何か一つ変えるだけでも人の印象は変わる。だが、纏う雰囲気だけは誤魔化しが効きにくい……………ビオラが引っかかったのはそこなんじゃないか？」

「……………うん。シンヤの言うことも一理あるかも」

「そして、リク、お前が寄越した金のメダル……………これは金鎧を製作した際に出た材料の余りの部分で作ったと言っていたが、かなり身近な関係者でもなければ、普通はそんなの手に入らないだろ」

「……………」

「あと、発言もおかしかったな。お前は金鎧について説明する時に＂あんた達、冒険者の間でもそうそう知られていない＂と言った。そこは本来ならば＂俺達＂と言うべきところだろう？お前も冒険者なのだから……………なのに＂あんた達＂。これは無意識のうちに自分を省いていることになる。まぁ、そりゃそうだよな。なんせ、冒険者でもないのに冒険者だと嘘をついているんだからな」

「っ！？本当にすまない！！騙すつもりはなかったんだ！！俺は」

「落ち着け。そんなの分かってる」

「へ？」

「お前からは悪意を感じなかった。だから、俺達は大人しくお前の話を聞いたんだ」

「……………そうだったのか」

「ああ」

そこで一旦、言葉を切った俺は少し間を置いて、こう言った。

「お前の目的はただ一つ。クニミツの……………親父の作った金鎧を取り戻したかっただけなんだろ？」

「っ！？」

その瞬間、リクの表情は悲痛なものへと変わった。