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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
〜After story〜

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第48話:ミーシャ






「"ミーシャの金核(いさん)"?」


「ああ」


「何だ、それは」


「まぁ知らないのも無理はない。このことを知るのは俺を含めて数人だけだからな。金鎧の効力は絶大だ。故にそれを巡って争いが起こるのは必至。だからこそ、俺は金鎧を全て集めさえすれば、願いが叶うという嘘の情報を流した。最終的に金鎧を手に入れる者がとんでもない悪党だった場合、願いを叶えられてしまってはどんなことになるか分からないからだ……………それと」


「?」


そこで再び、物憂げな表情を浮かべたクニミツは静かにこう続けた。


「ミーシャを護る為でもあった」


「ミーシャ?」


「"ミーシャの金核(いさん)"の製作者であると同時に金鎧の製作者でもあるエルフの女性だ」


「じゃあ、金鎧は共同製作だったという訳か」


「ああ。俺1人では到底成し得なかったよ。彼女と一緒に少しずつ作り上げ、仕上げにある魔法を施してもらったんだ。そうして、金鎧は完成した」


「だが、製作者としての名はクニミツだけしか公表されていないだろう?」


「………………それもミーシャを護る為だった」


「………………」


「金鎧のことを知った者の中で良からぬことを企む輩は絶対に出てくる。その時、製作者にミーシャの名があれば、きっと彼女は狙われてしまうだろう。だから、俺1人が矢面に立つことを決めた。金鎧について、嘘の情報を流したのもそうだ。金核はミーシャが1人で製作したもの。それも必要だとバレれれば、たちまち彼女は狙われてしまうだろうからな」


「ちなみにその人は……………」


「とうの昔に亡くなっている」


「悪い」


「いや、いいんだ。久しぶりにあいつの話が出来て、俺も嬉しいからな」


嘘を言っている訳ではないということがクニミツの表情から読み取れた。その後、クニミツは軽くため息を吐くとこう言った。


「ミーシャは…………………金鎧を狙う賊の1人に殺された」


「っ!?」


「その日、俺はちょいと仕事で出掛けていた。だから、(ここ)にはミーシャしかおらず、彼女に店番を任せていた。まぁ、店とはいっても当時は武器屋なんかじゃなくて鍛冶屋を営んでいたんだがな。主に武器の修理や製作の依頼を承っていて、そこそこ人気もあった。そんでミーシャ1人に店番を任せていた日、タイミング悪く金鎧を狙う賊が襲撃してきたんだ。それで彼女は必死に金鎧を守ろうとして……………」

   

「………………」


「俺は最悪の事態を想定して、常日頃から彼女に言っていたんだ。"賊が襲撃してきたら、迷わず隠れるか逃げろ"と。それに対して、彼女も頷いてくれていたからこそ、俺は安心して仕事に出掛けることができていた。しかし、彼女は責任感が人一倍強かった。おそらく、賊が店内で金鎧を探し回っている最中に俺のことが頭に浮かんだんだろう………………目撃者の証言では賊に対して、両手を広げた彼女はこう言ったらしい……………"あなた達の求めるものはここにはありません!だから、今すぐここから立ち去りなさい!!"と」


「……………強くて優しい人なんだな」


「ああ。だが、その時ばかりは彼女のそんな性格を恨んだりしたものだよ。大人しく俺の言った通りにしてくれれば、あんなことには……………俺が仕事から戻ると彼女は店の中で見るも無惨な姿で倒れていた。俺はそれを見て、しばらく動けなかった」


「………………」


「金鎧なんて俺にとっちゃ、どうでもいいんだ!!盗られたところでもう一度、作り直せばいい!!だが、だがっ!!命は失ってしまえば、もう……………ミーシャはもう戻ってこないんだ」


その時のことを思い出しているのか、深い悲しみと怒り、後悔など様々な感情で揺れるクニミツ。彼の気持ちを全て理解できる訳ではないが、俺は心の底から、何かが湧き上がってくるのを感じていた。


「結局、俺の計らいなんて何にも役に立たず、ミーシャは帰らぬ人となった。残ったのは彼女が最後まで隠し持っていた"ミーシャの金核(いさん)"、ただ一つ。そこからだ…………俺が鍛冶屋を辞めて武器屋を始めたのは」


「……………今更なんだが、そのミーシャという人は」


ほとんど予想はついていたが、俺は確認の為にそう訊いた。すると、クニミツは優しそうな笑みを浮かべてこう答えた。


「ミーシャは…………俺の妻だ」







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