第47話:ミーシャの金核
「………………」
「その沈黙はyesと受け取るぞ」
俺がその名を告げた瞬間、眼光鋭く俺を見据える爺さん。加えて、そこにはただならぬ殺気が込められていた。
「……………お前、どこでその名を」
「そこまでです。今すぐその殺気を引っ込めなさい。さもなければ…………」
「どうなるか、分かりますよね?」
「もう少し長生きはしたいだろ、爺さん」
「っ!?」
「やめろティア、アスカ、ドルツ。爺さんは何も悪くない。抑えろ」
俺へと向けられた殺気にいち早く反応したのが上記の3名だった。そして、ティア達よりも少し遅れて後のメンバーも同様に武器に手をかけていた。しかし、彼女達の行動を諌めることはできても決して責めることはできない。ティアの教育によって仲間達は組織の長に刃が向けられれば、自然と反応するようになってしまっている。まぁ、そもそもティアの教育がなかったとしても俺が何かされるのは感情的に許せないらしく、俺が反応しなければ誰かが代わりに動いてしまうようだ。何でも立場上、俺が舐められてはいけないとかで。
「「「了解」」」
俺の言葉に潔く武器を下ろすティア達。それによって、爺さんはホッと一息ついた。あと首まで数cmというところまで武器が近付いていたのだ。それも当然だろう。
「悪かったな」
「いや、こちらこそ悪かった。つい反射的にやってしまった……………しかし、それにしても恐ろしい者達だ。こちらにもしその気があったなら、一瞬であの世だったろうな」
「アンタの殺気もなかなかのもんだ。この中でいうとシャウやモロクよりも上…………サクヤと同じくらいか」
「いや、なに…………昔取った杵柄だ。かつては冒険者をしていてな」
「そん時のランクは?」
「Sランクだったと思う」
「どう考えてもそんなもんじゃないぞ。シャウですら、Sランクだが、その実力はSSSランク以上ある………………爺さん、何者だ?」
「ただの武器屋のジジイだよ。お前さんの求める者とは別人のな……………ましてや、稀代の天才鍛冶師など到底……………」
そう言って、しらばっくれようとする爺さんに俺は再度、金のメダルを差し出してこう言った。
「このメダルにはアンタの名が刻まれている。そして、それを持った俺がここにいる……………これがどういうことか分かるだろう?」
「………………」
「過去のアンタに一体何があったかは知らない。だが、俺達は条件を満たして、こうしてアンタに会いに来た。とっくに察しはついているんだろう?」
メダル同様、全ての金鎧を取り出して爺さんの目の前に広げて見せた。すると、爺さんは瞬きをすることもなく、ジッと金鎧を見つめた。
「……………はぁ。やはり、どんなに振り払っても過去からは逃げられんか」
「……………」
それから爺さんは少し目を瞑ると何度か、ため息を吐いて気持ちを落ち着けた後、俺へと向き直った。
「嘘をついて悪かったな。お前達の言う通り、俺の名は"クニミツ"………………武器屋の店主であり、元は鍛冶師をしていた…………そんでここにある金鎧の製作者だ」
「改めて、俺はシンヤ・モリタニだ。よろしく」
「ああ、よろしく」
そうして握手をしてみるとまるでクニミツの手から彼の生きてきたこれまでの軌跡が伝わってくるような、そんな気がした。
「さて……………お前達の目的は分かってる。金鎧のことを聞きに来たんだろう?」
「ああ。4つ全てを集めたはいいものの願いが叶うような気配がしなかったからな。そんな時、ある者から"製作者であるクニミツを訪ねるといい"とアドバイスをもらった」
「……………それが一体誰なのかは聞かないでおく。だが、まぁ、そいつのアドバイスは的確だ。なんせ、このままだと金鎧の効力は発揮されないからな」
クニミツは優しい手つきで金鎧を1つずつ丁寧に見ていく。どうやら、ちゃんと自分の名が刻まれているかを確認しているらしい。
「このままだと?」
「ああ」
クニミツは全ての金鎧を確認し終えるとゆっくりとテーブルの上にそれらを並べてから、俺の目を見つめた。
「4つの金鎧………………そこにあるものを合わせてようやく、その効力は発揮される」
「あるもの…………?」
「ああ」
直後、クニミツはどこか遠くを見つめるように目を細めて物憂げな表情になった。
「"ミーシャの金核"と呼ばれるものだ」




