第44話:アカシック・レコード
「俺に対して、一度でも敵意を向けた者が死んでしまう呪い……………?」
「思い出せ。これまでシンヤに絡んできた数々の不届き者はどうなった?しかもそれだけではない……………スニクとかいう里の門番ジェイド、ラゴン夫妻、そして何より………………お前さんの妻だったリース」
「っ!?」
「こやつらは全員、お前さんと友好的な関係になった者達だ。しかし、同時に一度でもお前さんに敵意を向けてしまった者達でもある。門番ジェイドはお前さんが里を訪れた時に、ラゴン夫妻はお前さんが息子を討とうとする時に、リースはお前さんと初めて会った時に……………敵意の大小や期間は問わず、どんなに小さく一瞬でもお前さんにそれを向けてしまえば、その者は死ぬ」
「じゃあ、何か?あいつらは皆、敵に襲われて死んだがそれも運命だったと?」
「ああ。まぁ、過程はその時によるが死ぬという運命からはどうあっても逃げられん。だから、これまでに絡んできた冒険者や組織は皆、死を遂げているだろう?まぁ、ほとんどお前さんらが直接手を下しているが、それをせずともいずれはそうなっていたんだ。で、その最たる例がお前さんの父親だ」
「親父が……………?」
「お前さんと父親はお互いに覚悟を持って戦いに臨んだ。その際に実戦を想定していたから、敵意を向けていたことになる。最終的にお前さんの父親は固有スキルの使いすぎで亡くなってしまったが……………」
「もし、それで生きていたとしてもいずれは死んでいたと?」
「そういうことになる」
「っ!!何だ、そのふざけた呪いは」
「お前さんの考えている通り、この呪いは相当にふざけている。"自身に敵意を向けた者を自動的に呪い殺す"……………戦いを生業とする者ならば、喉から手が出る程、欲しがりそうなものであろうが、そんなものが発動せずともお前さんの力ならば、敵を殲滅することなど朝飯前だろう。だから、メリットは一切ない。問題はデメリットの方だ。万が一、敵意を向けてきた者と和解し、仲間になった場合でも呪いは発動してしまう。そして、現状……………それを止める術はない」
「………………」
「この世界ではな」
「っ!?まさか」
「ああ。お前さんの想像している通りだ」
アカシックは温和な笑みを浮かべるとゆっくりと頷いた。全く……………とんでもない爺さんだ。
「お前さんならば、可能だろう」
「言ってくれるな。俺はただの人間だぞ」
「嘘つきも大概にせえ。その存在感を隠せる訳かろうが。お前さんも神じゃろう?それも……………これはまさか、最高神か?」
「分かるのか?」
「ああ。とはいっても流石にこの世界では制限が掛かり、実力は上級神程といったところか?まぁ、そもそもこの世界でも最高神の力が使えれば、金鎧探しなど一瞬……………そればかりか、不可能なことなど一切ないだろうな」
「ああ。俺に掛けられた呪いとやらも最高神の力ならば、消せるだろう。まぁ、こればかりは言っても仕方ないが」
「だな……………お、そうだ。これを」
そう言って、アカシックが差し出してきたのは光り輝く本だった。
「これは禁断の書物…………通称"アカシック・レコード"と呼ばれるもんだ。ここにはワシの知りうる限りの全てが載っている……………ぜひ、受け取って欲しい」
「…………分かった」
俺が受け取ると同時にその本は自然と俺の身体に吸い込まれていった。
「……………なるほど。これは良いものを頂いた。ありがとう」
「礼には及ばん。こちらこそ、ありがとう。ここを訪れてくれて」
優しそうな笑みを浮かべ、そう言っていたアカシック。ところが、次の瞬間、苦しそうに胸を抑え出した。
「ぐっ……………やはりか」
「どうした!?」
「すまん。どうやら、神はワシに対してもある呪いを掛けていたみたいだ」
「呪い?」
「ああ」
苦悶の表情を浮かべながら、静かに立ち上がったアカシックはこう言った。
「侵入者を排除せよ…………というな」




