第40話:不自然
「ここが最後の金鎧がある場所か」
そこは結界によって、守られた場所だった。とはいっても海底都市に張り巡らされていたものとは訳が違う。あれは魔物が都市へと入ってこないようにする為のものではあるが、外から都市の存在は確認できた。しかし、目の前のこれは外界からこの場所の存在自体を隠す為のものだった。よって、普通の者であれば、この場所の存在自体に気が付かず素通りしてしまうだろう。仮に気付いたとして、これほどのレベルの結界を突破するにはそれ相応の力が必要となる。この中だとビオラやクロガネはもちろんのこと、セーラ・モロク・シャウロフスキーは弾かれてしまうだろう。サクヤでギリギリといったところだった。だが、問題はそんなことではない。
「そんな場所が何故、地図に載っているんだ?」
あのリックとかいう冒険者から貰った地図にはこの場所がはっきりと記載されていた。ということは前任者はこの結界の存在に気が付いたということになる。いや、それだけではない。この先に金鎧があるということを知っているということはここを突破したということの証明でもあった。どういうことだ?確かにセーラ・モロク・シャウロフスキーは幹部ではないし、"十長"程の実力もない。にしてもこの世界の基準でいえば、間違いなくSSSランク冒険者を凌駕する実力を持っている。であれば、だ。別に慢心するつもりはないが、俺達以外でここを突破できる者がいたということか?仮に突破できたとして、何故そいつは金鎧を持ち帰らなかったんだ?
「不思議ちゃきよね〜………………まぁ、それで言ったら、今までのもそうなるけど」
「ん?どういうことだ?」
「だって、地図に記載するってことは実際にそこに辿り着いて、確実にあると確信した場合ちゃきよね?だったら、火山とか海底とか、あんな危険なところに行ける人がいたっていうのも俄かには信じ難いちゃき。それにはっきり言うけど……………」
「?」
「あのダンジョンでリョウマと実際に会ったのはシンヤ達が初めてちゃき。余はずっと刀の状態だったけど、ちゃんと状況は把握できていたから、間違いないちゃき」
「っ!?」
俺はクロガネの言葉にまるで雷に打たれたかのような衝撃を覚えた……………そうだ。何故、今までそんなことに気が付かなかったのか。
「クロガネ、ありがとう。お前のおかげで良いところに気が付けた」
「そ、そうちゃきか?ま、まぁ、余は凄いからな」
「ああ。ありがとう」
「っ!?……………こ、このぐらい当然のことちゃき……………ボソッ」
俺はクロガネの言葉を受けて、頭の中でまとめたことを仲間達へと告げた。
「おそらく、クロガネの言ったことは本当だろう。指定難度SSSとかいう場所へと行ける者が果たしてどれだけいる?ましてや、俺達はその場所で対話で以て金鎧を差し出してもらった。今までの傾向から察するに向こうは差し出す相手を選んでいる。とすると、前任者はその場所へと辿り着いたはいいものの、受け取ることが出来なかったということになる」
「そういう人もいるんじゃないでしょうか?炎竜"ディザスター"の言によれば、火山を訪れたのは私達が初めてではないという口ぶりでしたが」
「ティアの言うことも一理ある。しかし、海底都市のことを思い出してくれ。あそこで俺達はパンドラが異空間から取り出した金鎧を受け取っているんだ。つまり、その時点で俺達はパンドラから認められたということになる」
「なるほど。海底都市に金鎧があるかどうかはパンドラに認められて異空間から取り出してもらう以外で確認できない。つまり、前任者は認められたはいいものの、金鎧を受け取らなかったということになる……………と。確かに不自然ですね」
「ああ。さらにクロガネからの追加情報によれば、前任者はリョウマと出会ってすらいないことになる。以上のことを踏まえた上での結論だが、前任者は金鎧がある場所へと直接赴くことなく、その在処を何らかの方法で知っていた。だが、そんなことがあり得るのか?こうなるとリックの話自体……………いや、奴の正体自体も怪しくなってくるな」
「「「「「……………」」」」」
俺の言葉にティア達は黙り込んだ。どういうことなのかを一生懸命、考えているのだろう。
「まぁ、悩んでいても仕方ない。とりあえず、最後の金鎧を受け取りに行こう。もしかしたら、俺達の疑問もいずれ晴れるかもしれないしな」
そうして、結界を解除してから、その場所へと入る俺達。全員が入ったことを確認した俺は新たにより強力な結界をかけた。ちなみに俺達の疑問だが、それは近いうちに第三者によって明かされることとなったのだった。




