第39話:パンドラの匣
「なんだか、凄い話を聞いちゃったね」
ビオラが物憂げな顔でそう言う。海底都市から脱出した俺達は少しの間、ビーチに佇みながら、引いては押し寄せる波を見つめていた。本当は気持ちを切り替えて、さっさと最後の金鎧を探しに行くべきなんだろうが、生憎とすぐにそんな気分にはなれなかった。
「……………パンドラに落ちてきた雷はもしかして」
クロガネが悲痛そうな表情で俺を見上げてくる。彼女もこう見えて、馬鹿ではない。それまでのやり取りから、おおよその検討はついているはずだ。しかし、認めたくはないのだろう。頼むから否定して欲しいとその顔には書いてあった。
「お前の想像通り……………神だ」
「っ!?」
「パンドラが話した内容はよっぽど奴にとって不都合なものだったらしい………………ふざけた奴だ」
「で、でも、神はその……………一般的には崇拝されるぐらい偉くて素晴らしい存在なんじゃないちゃきか?あんなことをしてくるもんちゃきか?」
「神といっても色んなのがいるからな。それこそ、下級〜上級まで様々で性格も違うし、数もどれだけいることか」
「ず、随分と詳しいちゃきね」
「……………まぁな」
俺が答えるまでに一瞬、空いた間をティア・アスカ・ドルツは見逃さなかった。おそらく、彼女達ならば、その理由も分かったことだろう。
「とにかく、この旅で色々なことが分かってきた。そして、今考えうる最悪のケースとしては次の金鎧探しを神に邪魔されてしまうこと、そして俺とアスカ・サクヤがこちらの世界に転移したことにその神が関わっていること……………この2つだ」
「えっ!?私も!?だって、私は…………」
俺の言葉にサクヤが驚く。その驚きは最もだ。彼女のは俺とアスカとはパターンが違っているからな。
「確かにサクヤは"勇者召喚"でこちらにやってきた。普通に考えれば、神に介入の余地はないだろう。しかし、パンドラから聞いた話の中の神は随分と無茶苦茶やっている。ならば、召喚した者達に気付かれることなく介入することもできなくはないと思ってな」
「なっ!?」
「もし、そうだとしたら、神の意図が分からん……………まぁ、それを言ったら俺とアスカをこちらの世界へ来させたのも同じだが……………それよりも」
俺はそこで一同を見回すとこう言い放った。
「奴はミスを犯した。自分の所業を…………世界の秘密を話されただけでなく、"パンドラの匣"という最終兵器までもが俺に渡ってしまったんだからな」
「……………シンヤさん」
「ああ」
ティアが向けてくる視線の意図、それを理解した俺はこう答えた。
「この世界のほぼ全てが分かった……………エピローグは近いぞ」
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「くそっ!あの馬鹿亀が!!特にこちらを害する存在ではないと思い、生かしておいてやったのに」
あぁ、忌々しい!それに雷を落とすのが遅れてしまったせいで人間の小僧に奴の記憶が渡ってしまったではないか………………ん?いや、待てよ。
「ふんっ。そうだ。別に小僧達が今更何をどう知ったところで何かできる訳ではない………………私は一体何を焦っていたんだ。たかが、人間という矮小な存在じゃないか。そんなのが私にとって、脅威となるはずもない」
よし。そうと決まれば、引き続きのんびりと眺めていようではないか………………私の子の子孫達が辿る行く末を。




