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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
〜After story〜

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第38話:ロストテクノロジー





「シナリオ通り?」


「ああ。神は大昔……………それこそ、私が生まれてくるよりもずっと前から、この世界を創造し、人や魔物、ありとあらゆるものを生み出していった。とはいってもそうしたのはほんの最初だけ。後はこの世界の者達が自分達の力で一体、どこまで暮らしを発展させるのか静かに見守っていた。そんな中で神にとって、不都合なことが起こった。それは一部の行き過ぎた文明だった。本来、神の想像していたペースを越えて、どんどんと栄えていく国や都市、街……………これは完全に神の想定外だった。このままいくといつの日か、自分の手が噛まれてしまうかもしれない……………それを危惧した神は」


「神は?」


「各地の栄えた文明を消すことにしたのだ」


「「「「「っ!?」」」」」


パンドラの言葉に俺達は理解の範疇を超えて絶句していた。


「そんなことが許されるのか?」


「知らん。だが、神のやることに許すも許さないもないだろう」


「自分が生み出しておいて、手に負えなくなったから、消す?随分と自分勝手だな。まるで飼えなくなったペットを捨てる奴と同じ発想だ」


「あくまでも自分はキッカケを与えてやっただけ、さらには生み出してやったんだから、あまり出過ぎた真似はするなという意思表示なのだろう」


「どこまで勝手な奴だ。生み出された奴もそうだが、その子孫達はもっとそんなこと知らねぇよって状態だろ」


「もちろん、そうだ。最初に生み出された者達にも神によってなどとは思いもしていないし、自覚がない。"自分達にはちゃんとした親がいるが、魔物に殺されてしまった"という洗脳を神が施していたからだ。そして、生み出した魔物側にも"親が人間に殺された"と洗脳を施した。その結果、どうなったかというと人間と魔物は互いに争い合ったのだ。思えば、お前達が今している"冒険者"の始まりはここからだな。あぁ、魔物が今でも襲いかかってくるのもこの時の名残りだな」


「……………」


「話を戻そう。そうして、神は栄えた国や都市、街などを色々な形でこの世界から消していった。この都市のように海の底に沈めたり、他にも自然現象に見せかけて次々と消していった。それこそ、この文明を次の世代が継承することができないようにだ。ちなみに今、各地に点在する"ダンジョン"と呼ばれるものも実は国や都市が姿を変えられたものだ。そうして、失われたかつての技術は"ロストテクノロジー"、文明が"ロストカルチャー"とそれぞれ呼ばれ、今ではこのこと自体を知っている者も数が限られている」


「……………何故、そこまで知っている?」


「言ったろう?私は千年生きていると……………だが、まぁ、そうだな。これも言っておこうか」


「?」


「私はかつて"人"だった。かつて栄えた文明で暮らしていた私は神の制裁の余波をその身にくらい、このような姿に変えられたのだ。だが、そのおかげで私は難を逃れ、今こうして、ここにいる。その時、私は思ったのだ。私がこのような形とはいえ、生き残ったのには何か意味があると……………そうして、私は悠久にも似た長い何月を重ねていたのだ。私の持つ全てを託すべき人物が現れる、その時まで」


そう言って、パンドラが目を瞑るとその身体が淡く光り輝き、次の瞬間、そこから何かが飛び出してきた。


「これは"パンドラの匣"だ。私の見てきたこの世界の記録が全て詰まっている。できれば"金鎧の胴"だけではなく、これも持ち帰って欲しい」


パンドラは真剣な表情でそれを俺に差し出してくる。だが、俺はすんなりとは受け取らず、最終確認をすることにした。


「本当に俺でいいんだな?」


「ああ。シンヤ、お前程の適任者はいない……………私は強くそう思うんだ。何故かは分からないが」


「…………分かった。ありがとう」


俺は礼を言うと"パンドラの匣"を手に取った。空中に浮かぶそれは虹色に光る球体でフワフワとしており、まるで触れたらすぐにでも消えてしまいそうな儚さがあった。そして、俺が手に取った瞬間、それは俺の身体へと吸い込まれていった。


「よし。これで私の役目は終わりだ………………そして、その生涯も」


「っ!?」


パンドラが俺達に向けて微笑んだ直後、どこからか雷が落ち、それはパンドラの身体を貫いた。


「パンドラっ!!」


俺は名前を叫んだが、その身体はとうになく、おそらく雷によって跡形もなく消されてしまったのだろう。パンドラがいた場所には焦げ跡があるだけだった。


「っ!?何だっ!?」


「「「「「っ!?」」」」」


俺達がその光景に呆然としていると今度は直接、頭の中で声が聞こえてきた。


"これだけのことを喋ったんだ。私が消されるのは当然だろう…………すまない。お前達も知ってしまったから、もしかしたら……………しかし、抑えきれなかった。ようやく巡り会えた待ち人に私はここしかないと思った。シンヤ達ならば、もしかしたら……………と"


それは懺悔のような嬉しさのような……………いや、それだけじやない。様々な感情が入り混じったものだった。


「気にするな。俺達は知れて良かったと思っている…………あと、お前に会えてな」


"はははっ。それは私もだ…………どうやら、この都市を守っていて正解だったようだ。ここに来てくれて、ありがとう"


「こっちこそ、ありがとう。それから、お疲れ様…………ゆっくり眠りな、パンドラ」


"ああ……………今日は少々疲れたからな……………少し…………眠るとする……………かな"


それを最後に声が聞こえてくることはなかった。その後、俺達はその場を離れ、潜水艦で海上を目指した。そうして俺達が都市を出た直後、張り巡らされていた結界がなくなり、海水がそこへ一気に流れ込んでいった。下を何度も見ることはしなかった。俺達が目指すべき場所は上と決まっていたからだ。








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