第37話:海底
「「「「「お〜〜〜っ!!!!!」」」」」
和やかな海中遊覧を終えた俺達が辿り着いた海底……………そこには巨大な都市があった。軽く建造物を見て回っていると苔がびっしりと生えていることが分かり、さらに経年劣化の具合から、この都市が長い間、海の底に沈んでいることが容易に見て取れた。
「「「「「………………」」」」」
俺達は到着時の第一声以外は一切口を開くことなく、ゆっくりと都市の中を歩いて回った。ここにはかつて栄えた文明があり、暮らしがあったはずだ。俺達はそれをただただ静かに感じ取り、ここで生きてきた人達へと想いを馳せた。ちなみに潜水艦をしまい、歩いている理由は単純だった。ここは海中なはずなのだが何故か、海水が一切なく呼吸ができた為だ。それにこの都市の中は外に張り巡らされた結界により、魔物が入ってこれない為、俺達は何も気にすることなく進むことができたのだった。
「それにしても一体、ここは何なんだろうね」
ビオラが不思議そうに訊いてきた為、俺ははっきりとこう答えた。
「それはこの先にいる奴に聞けば、分かるだろ」
そう言って、俺達はこの都市の中で最も大きな建造物である城へと向かったのだった。
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「何用だ、侵入者達よ」
王の間へと足を踏み入れるとそこではシーサーペントなど比にならない程、巨大な亀が待ち受けていた。そんな亀にからは俺達を鋭い視線で見据えてくることから、こちらに対する敵意のようなものを感じた。
「勝手に邪魔してしまい、すまない。俺達は別にお前に危害を加えようとやってきた訳ではない。もちろん、この都市をどうこうするつもりもない」
「それは分かる。なんせ、ここはこの世界で最も危険な海底だ。道中でも手強い魔物がうじゃうじゃといる。そんな中を掻い潜り、わざわざやってくるなど正気の沙汰とは思えん。余程、強い目的があると見える」
「俺達がここへやってきた理由……………それは"金鎧の胴"を探す為だ」
「…………探してどうする?」
「できれば、持ち帰らせてもらいたい」
「…………ふっ。なるほど。どうやら、お前達はただの侵入者という訳ではないようだ。アレの価値が分かり、さりとて悪用しようとはしていない……………そんな顔をしているな」
「分かるのか?」
「ああ。もう、かれこれ千年は生きてる。だから、人を見る目は確かだ」
そう言って、静かに瞳を閉じる亀。それはまるで遠い過去を思い出しているかのように感じられた。
「よかろう。お前達ならば、安心してアレを託せそうだ」
「恩に着る」
「いやいや。私もお前達のような存在をここでずっと待っていたんだ………………っと、ほれ」
亀が何かを念じると突然、何もない空間から金色に輝く鎧が現れた。そして、それはどう見ても"胴"の部分だった。
「これを頼む」
「では、ありがたく頂戴する」
俺は亀から"金鎧の胴"を受け取り、即座に異空間へと保管した。
「そうだ。自己紹介がまだだったな。私の名は"パンドラ"。まだ、この都市が海の底に沈む前から生きている耄碌亀だ」
「俺はシンヤ・モリタニ。そんでこいつらは俺の仲間達だ」
「よろしく」
「ああ……………1つ訊いてもいいか?」
「何だ?」
「この都市は何故、海の底にある?」
「それは……………神の怒りを買ったからだ」
「神の怒り?」
「700年ぐらい前のことだ。この都市はかつて、とてつもない技術力と魔法により、栄華を極めた。それによって、人々の暮らしは豊かになり、各地から集まった多くの移住民が溢れ、その噂は世界へと駆け巡った。しかし、彼らは行き過ぎた。人々の欲望は収まることがない。一度の満足では足りず、次から次へと多くを求めた結果、争いが起き、調和が乱れ、挙句の果てには戦争が起きかねない事態にまで発展してしまった」
「……………」
「それを嘆き、悲しみ、怒り、憂いた神は罰として、大雨を降らせ、海を喚び、この都市を海の底に沈めてしまったのだ……………という風にその後の人々へは言い伝えられていった」
「……………何ともはっきりしない言い方だな」
「結果はともかく、過程が違うからな」
「?」
そこで深呼吸をしたパンドラはゆっくりとこう言った。
「実はこの都市が海の底に沈んだのは……………神のシナリオ通りだったのだ」




