第34話:炎竜の条件
「条件?」
「ああ」
炎竜は真剣な表情で俺を見つめてくる………………どうでもいいが、安全だと分かった瞬間、炎竜の身体を指で突いている馬鹿2人が邪魔だな。
「この籠手は相当、名のある職人によって作られたもののようだ。見ているだけで何故か、引き込まれそうになるし、何より物凄い力を感じる」
「……………」
「我がこれを見つけたのは本当に偶然だった。その日、我は珍しくここを離れ、空を飛んでいたのだ。すると、地上でこの籠手を巡って諍いを起こしている男達を見かけた。やがて男達は話し合いでは解決できないからと力で決着をつけようとし、そのまま相討ちとなって全員死亡してしまったのだ」
神妙な表情でそう言う炎竜はどこか遠い過去へと思いを馳せているかのようだった。
「事の一部始終を見ていた我はその現場に降り立ち、遺体を口から吐いた炎で火葬した。そして、また争いの種になってしまってはいけないと思い、これを住処へと持ち帰ったのだ」
「……………そんなものを何故、俺に託そうと思うんだ?これを俺が持ち帰ることで再び、争いが巻き起こるかもしれないんだぞ?」
「そこで条件があると言ったのだ」
その時、炎竜は身体を大きく震わせた。居住まいを正したかったのではなく、おそらく身体が痒かった為だろう………………約2名のせいで。
「条件は2つだ。1つ目がこれを持ち帰っても絶対に無闇な争いは起こさないこと。まぁ、こうして目の前で接していて、お主達ならば大丈夫だと分かるが、万が一ということもある」
「無理に奪おうとする輩が現れた場合の反撃は?」
「構わん。そもそもそんなことをすること自体、向こうが悪いのだからな」
「了解」
「そして、2つ目……………残りの金鎧も全てお主達が集めてくれ。おそらく、これを持つ者でお主達……………特に」
「シンヤ・モリタニ、冒険者だ」
「そう、シンヤ以上の適任者はいないと我はそう感じている。だから、約束してくれ。残りも必ず、見つけ出すと」
「もちろん、そのつもりだ……………にしてもやけに買い被るな。俺はただの冒険者だぞ?」
「冗談はよせ。ただの冒険者がこんなところまでやってくる訳がなかろう。それに……………シンヤからは何か特別な力というか、そんなものを感じる」
リョウマもそんなことを言っていたな……………一体、何なんだ?
「まぁ、とにかくお前の」
「ディザスター。それが我の名じゃ」
「ディザスターの出す条件は分かった。そして、ここに誓おう。その条件を守り、決して破らないと」
「ありがとう。では、よろしく頼む」
そう言って、一歩引き下がるディザスター。逆に俺は一歩前へと進み、籠手へと手を伸ばした。
「ありがとう。これは頂いていく」
「ああ」
その後、俺達はその場から転移をして、火山を後にした。
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「おっ、もう2つ目もゲットしおったわい」
「ね?言ったでしょ?獣人族はとっても強いんだから!」
「何を!魔族の方が武・魔法共に優れておるわ!!」
「こらこら。そんなくだらないことで言い争いをしなさんな」
「「くだらなくなんてない!!」」
「うん、ワシは人族の方がいいと思うんだけどな、やっぱり」
「「どさくさに紛れて何言ってんだ!!」」
「ほっほっほ」
とある場所にて、複数の男女が会話をしていた。彼らは等間隔に円を作るように並んでおり、その視線は真ん中に浮いている球体へと注がれていた。
「さてはて……………いずれ、彼が真実を知る日も近いの」
その言葉は誰に向けて言ったものでもなく、真っ白なその空間に溶けて消えていったのだった。




