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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第330話 一斉検査






「ふざけんなっ!!何で俺がそんなもん受けなきゃならねぇんだ!!」


「ですから、何度も説明している通り、これは冒険者ギルドに所属する全冒険者を対象に行われていることでして……………」


「んなもん、お前らの都合で勝手にやってるだけだろ!何でそんなのに俺が巻き込まれなきゃいけねぇんだよ!!」


「いえ、ですから、これは冒険者として適正な者であるかを判断する大切な検査なので……………」


現在、とある冒険者ギルド内において、冒険者がギルド職員に対して、怒声を浴びせていた。その声は外まで聞こえるぐらいであり、何事かと通行人達も思わず、ギルド内を覗いてしまう程だった。


「おい、あいつ…………」


「ああ。"赤き剣群"や"殲滅連合"、それに"戦線騎士団"という目の上のたんこぶがいなくなった今、次は自分達だと息巻いているからな。そんな時に余計な茶々を入れられたくないんだろう………………それにしてもあの激昂ぶりから察するによほど探られたくない腹があると見えるな」


このように周囲がヒソヒソと話をする中、怒鳴り散らしている件の男はそれを全く気にした様子もなく、職員へと再び食ってかかった。


「だから、冒険者っていうのはそんなもんに縛られない、自由がウリの職業だったんじゃねぇのかよ!!そりゃ、最低限のルールぐらいは守るが本来、検査や調査なんて受ける必要のない割とアバウトな職業だろうが」


「……………日頃から、やり取りをさせて頂いている方達に対して、こんなことは言いたくないんですが……………」


「なんだよ」


「………………ここ最近、冒険者の度重なる失態や悪行が目立つようになり、冒険者の品格自体が疑われ始めてきたので……………」


「それで一斉検査ってか?そりゃ、職業柄、多少は横柄になったり素行が悪くなったりする奴らはいるだろうが、別にそこまでの悪さをしている奴なんてほぼいないだろ。それなのに一部のそんなどうしようもねぇ奴らのせいで俺まで検査を受けさせられるのは納得がいかねぇぜ!!これ以上、しつこいようなら、俺にも考えが…………………」


「しつこいのはどちらかな?」


「っ!?」


男が次の行動を起こそうとした瞬間、突然近くから第三者の声が割って入った。男がびっくりして、声のした方を見るとそこには驚きの面子が揃っていた。


「……………本部の副ギルドマスター、それと支部のギルドマスターが複数人……………さらにはあの"調停人(ミディエイター)"までいるとはな」


「ほぅ?彼らの存在まで知っているとは」


「…………………噂には聞いたことがある。ギルドが秘密裏に抱える特殊部隊で主にギルドや冒険者に対して起きた揉め事を武力または対話を以って解決する集団……………それが"調停人(ミディエイター)"であると」


「ふむ」


「"調停人(ミディエイター)"は機密保持の観点から、職務中は常に仮面で顔を隠し、声を発することすら禁じられている。これもまた噂だが、あの"麗鹿"の妹である"策略家"ディアや元"碧い鷹爪"の"倒木"レックス、など各軍団(レギオン)やクランの有名どころが自分達の活動と並行して行っていたとかな……………とにかく、実力がないと務まらない仕事だ」


「そこまで分かっているのであれば、彼らの強さは百も承知だろう………………で?これ以上、しつこいようなら、何だというんだ?」


「くっ……………」


「…………とは言ったものの、私達にもちゃんとした罪悪感はある。まるで君達のことを疑うようなマネをして、さらに余計な時間まで使わせて……………冒険者達には不便をかけて悪いとは思っている。本当にすまない」


そう言うと本部の副ギルドマスターはその場で頭を下げた。それに倣い、支部のギルドマスターや"調停人(ミディエイター)"ですら、頭を下げる。これはその場にいた全冒険者に向けられたものであり、急に謝罪をされた冒険者達はどうしたらいいのか分からずにあたふたとした。


「だが、こればかりは受けてもらわなければ話が前に進まないんだ。どうか少しの間、私達に協力しては頂けないだろうか?もちろん、結果について不安に思う者もいるだろう。しかし、安心して欲しい。()()()ことがない限り、冒険者としての資格を失うことはない。そして、この検査を受けて頂いた全ての冒険者には1年間、依頼の報酬が10%上乗せされるという権利が与えられる。この部分をどうか私達の誠意の表れとして捉えて欲しい!!」


副ギルドマスターが放った言葉の最後の部分を聞いて、今まであたふたとしていた冒険者達は一斉に動きを止めた。もちろん、検査など煩わしいだけだと嫌がる冒険者は多い。ところが、よくよく話を聞くとそんな気持ちを吹き飛ばす程のメリットが彼らにはあった。


「「「………………10%って、マジ?」」」


その場にいた冒険者達が目を血走らせながら、副ギルドマスターへと確認を取る。それを少し不思議に思った副ギルドマスターはギルド職員へと問いかけた。


「彼らは一体何を驚いているんだ?ちゃんと彼らにメリットについて説明したんだろう?」


「いえ、それが……………」


「ん?」


「先程の怒声を浴びせにきた方が最初のご案内でして……………その説明に行く前に検査自体を拒否されてしまったのでまだなんです」


「……………そうだったのか。それは仕方ないな。ふむ……………であれば」


そこまで言った副ギルドマスターは懐から5枚の紙を取り出して、それをギルド職員へと渡した。


「"一斉検査のご案内"?」


「ああ。それを冒険者達から見える場所に貼っていってくれ。そうすれば、彼らもまた違った反応を示すかもしれない。大まかな内容を知っているのと知っていないのでは案内を受けた時に感じる印象が大きく違うからな」


「っ!?はいっ!!分かりました!!」



後日、全ての冒険者ギルドに張り紙がなされ、これによって検査に半信半疑だった冒険者すらも積極的に検査を受けていったのだった。













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