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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第320話 全面戦争2






「うん、予定通り……………3分の1程、削れたね」


遠くを見据えながら、第九部隊部隊長ニーベルは呟いた。彼の視力は両目に掛けられた魔力の視力強化により、約100m先までのありとあらゆる事象を見渡せるまでになっていた。これは"黒天の星"の者であれば当然の技術であり、傘下のクランの者達にも日夜仕込んでいたおかげで今では軍団(レギオン)のメンバー全員が最低でも約50m先まで見渡せるようになっている。


「ニーベルさん!そろそろオレ達も行きやすかい?」


傍に控えていた橙組(だいだいぐみ)組長ヒュージが確認を取り、それに呼応するように組員達も己の武器を構える。橙組(だいだいぐみ)のメンバーは以前、ニーベルとヒュージが訪れた都市の闘技場(コロッセオ)に出場していた選手達で構成されていたのだが、それはもう昔の話である。今では新たに増えた10人の性別・種族共にバラバラな者達をヒュージ達が師匠と弟子のような関係で鍛え上げ、計20名からなる以前よりも磨き上げられた少数精鋭の組にまで成長していた。そもそも初期の組員達は元々BランクやAランクの冒険者であり、そこに"黒天の星"での訓練を経て、彼らは更に強くなっている。加えて、新たに増えた組員達に彼らがマンツーマンで指導を施すことによって独自の戦闘スタイルが叩き込まれ、奴隷商にいた戦闘が得意ではない者がほとんどの新人達はメキメキと強くなっていった。ちなみに"黒天の星"に加入する新メンバーはシンヤが自ら選んでおり、その方法は奴隷商での奴隷購入、直接勧誘、"黒天の星"への加入希望者の中から………………など多岐に渡る。そして、橙組(だいだいぐみ)に限って言えば、新メンバー達は皆、奴隷商でシンヤが見つけてきた者達だった。


「そう……………だね。ちょうどローズ達も動き出しているところだし………………よし。行こうか」


「了解!……………じゃあ皆さん、いざ進軍開始でございやす!」


「「「「「おぉ〜〜〜っ!!!」」」」」


現場に威勢の良い声が轟く。その中には傘下クランである"威風堂々"の声も混じっていたのだった。









―――――――――――――――――――――








「突き進め〜!自分達の力を信じるんだ〜!」


「「「「「おぉ〜〜〜っ!!!!!」」」」」


味方に力強く檄を飛ばすのは軍団(レギオン)"赤き剣群"の副軍団長(レギオンマスター)、クライである。"赤き剣群"は親クランがほぼ魔法剣士のメンバーで構成されており、彼らに憧れて冒険者となり、魔法剣士中心のメンバーによるクランを構成したところが次々と傘下になって形成された軍団(レギオン)だ。その為、傘下から親クランへの信頼は厚く、中でも軍団(レギオン)の幹部ともなれば、その発言力はずば抜けて高い。それこそ幹部の言うことであれば、無条件に信じて従ってしまう程に…………………


「俺達があんなぽっと出の連中に負けるはずがないんだ……………」


クライの呟きは誰にも聞こえることなく、空に消えた。そして、こうしている今でさえ、仲間達は次々と敵目がけて突っ込んでいき、迸る闘気を剣に込めて振り下ろさんとする。


「くらえ!……………ぎやあああっ!?」


「くそっ!?一体誰が…………っ!?」


「お、お前はっ!?」


ところが、そうそう上手くいかないのが世の常。彼らは目の前に立ちはだかった少年によって行く手を阻まれたのだ。


「"黒の後継者"クリス!」


「常時"黒天の星"……………特に"黒締"に付き従うクラン、"黒椿"……………そのリーダーか」


「奴こそ、"黒締"の真の後継者と言われる男だ。冒険者ランクもSだ。侮るなよ、お前ら!」


"赤き剣群"の面々は警戒を崩さず、武器を構え、敵をしっかりと見据えて出方を窺う。そこへゆっくりと平常心で近付いていきながら、クリスはこう言った。


「我々に喧嘩を売ったというのはあなた達ですか……………さて、シンヤさん達に剣を向けるというのであれば………………」


クリスは鋭い眼光と共に愛刀を抜き放ち、それを"赤き剣群"へと向ける。その瞬間、クリスから放たれた殺気に彼らは思わず、硬直してしまった。


「生きて返しはしませんよ?」


直後、クリスの振り下ろした軍刀の一撃は凄い勢いの斬撃となり、大地に亀裂を走らせながら、そのまま一直線に進んでいく。


「「「………………」」」


唖然とする面々を尻目にクリスは再び軍刀を振りかぶる。この時点で既に彼らの傍らには約100名もの屍が存在していたのだった。












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