第30話 情報屋
「怪しい動きですか?」
「ああ。もしかしたら、思い過ごしかもしれないが、一応気を付けておくに越したことはないからな」
「根拠は何ですの?」
「順を追って話そう。まず、俺が初めてティアに会った時に聞いた村での話。その中で村長と奴隷商人が結託して村人を謀ろうとしている場面をティアが目撃したんだが、その際にそいつらがあることを言った。それは"悪魔のささやき"と"アスターロ様の名の下に"だ。まず、この言葉を覚えていて欲しい。次にこれはその現場にいなかったアスカ・イヴ・ラミュラは分からないだろうが、俺達がある冒険者達と再会した時、その内の一人が言っていたんだ。………"故郷に巣食うあの悪魔"と。実際、彼らはそれに立ち向かおうと必死で冒険者として活動していくつもりだったみたいだ。そして、最後にこの間のスタンピードの元凶、ラミュラを操っていた黒ローブ…………こいつが俺達に連れていかれる直前、ボソッと呟いた"アスターロ様、どうか不出来なこの私をお許し下さい"という言葉…………俺にはこれら3つの出来事が無関係とは思えないんだが……………ま、皆、心のどこかに留めておいて常に警戒は怠らないようにしておけ。たとえ、それが街中であってもだ」
「……………こちらに危害を加えようとしてきたら、いかが致しますか?」
「単騎なら、生け捕り。それ以外であれば、1人残して、あとは殺して構わん」
「かしこまりました」
「さて、そんじゃギルドへ向かうか」
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「お、おい!あれ、見ろ!黒天の星だ!」
「まじかよ!かっけー」
「いや、"黒締"以外はどちらかというと可愛いだろ」
「お前、何言ってんだよ。あんな見た目でめちゃくちゃ強いらしいぞ。甘くみんなよ」
「"銀狼"ティアちゃん、可愛い」
「いーや、俺は断然"金耳"派だね!罵られたい!」
「いやいや、どう考えても"朱鬼"カグヤだろ!」
「"銅匠"ノエたん、はぁはぁ」
「お前らには"玄舞"の奥ゆかしさが分からんのか!」
「それよりも高貴さだ!よって、"白姫"の一人勝ち!」
「俺は"蒼鱗"ラミュラが気になるな」
俺達がギルドへ入るやいなや、そんな声が聞こえてきた。いまいち状況が分からないが、全く興味がない為、無視して受付へと向かおうとしたところ
「あ、あの!皆さん、黒天の星の方々ですよね!」
「お、おい!抜け駆けすんな!」
「ずるいぞ!」
「わ、私も!」
目の前に有象無象が立ちはだかり、進路を妨害してきた。………これは王の権威で気絶させるか。そう思い、発動しようとした時、どこからか声が聞こえてきた。
「ちょっと待て、お前ら。浮かれる気持ちは分かるが、"黒締"の邪魔をするなよ」
それはネズミ色のハットを被った緑髪の男だった。すらっとした体型で高身長。端正な顔立ちに整えられた顎髭がよく映えていた。興奮冷めやらぬギルド内にて、そいつだけは焦った表情で有象無象を追い払ってくれた。
「ふぅ〜………全くあいつらときたら」
「助かった。ありがとう」
「いやいや………たぶん、こういうのは嫌がるだろうと思ってな」
「………どうして、そう思った?」
「実はお前らが初めて冒険者ギルドに足を踏み入れた時から、見ていてね………他の者に対する態度というか言動があまりにも興味なさそうだったもんで…………」
「へぇ………分かるか?」
「まぁ、職業柄、人間観察とかは割と得意な方だな」
「職業柄?ここにいるのは冒険者とその相手をする職員だけじゃないのか?…………もしかして、同業者ではないとかか?」
「なぜ、そう思った?」
「同業者なら、わざわざ"職業柄"なんて言い方しないだろ」
「ふむ、鋭いな」
「こんなの誰にでも分かることだろ」
「いやいや、冒険者ってのは荒くれ者というか単細胞というか………そんな連中ばかりなもんでね」
「なるほど………お前、面白い奴だな」
「ん?なぜだ?」
「こんだけ冒険者がいる中でその発言は中々できるもんじゃない。随分と肝が座っているじゃないか」
「…………あ」
ハットの男が気付いた時にはもう遅かった。ギルド内から殺気の籠もった視線を浴びせられ、今すぐにでも武力行使でもって屈服させられてもおかしくはない状況へと変化していた。戦々恐々。普段は常に冷静さを心掛け、あらゆる者を敵に回すような発言などしないはずのその男。いつもの自分ではない、どこか浮かれた様子に首を捻り先程、シンヤに群がる者達を止めた時とは別の焦りが心に生じかけたその時、
「文句があるなら、俺に言ってこいよ」
一瞬にして、空気が変わった。シンヤがさらなる殺気を視線と言葉に乗せて放ったのだ。これにはたちまち冒険者達が震え上がった。と同時にやはりシンヤ達はとんでもない実力を秘めた冒険者なのだという共通認識がその場にいた冒険者達の間で生まれた。
「そういえば、自己紹介が遅れたな。俺の名はシンヤ・モリタニ。冒険者だ………で、お前の名は?」
「俺の名はドルツ………しがない情報屋だ」




