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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第316話 ふるさと





「世話になった。じゃあな」


「本当に泊まっていかなくていいのか?」


城の外に出たシンヤはアムール王とウィアの見送りを受けていた。ついさっきまで昼食をご馳走になり、礼もたっぷりと受け取っていたシンヤは次の用事を済ませる為に早速出発しようとしていたのだ。


「ああ。この後、用事があるからな」


「それはティア達とか?」


「そうだ」


「ふ〜ん……………」


自分で質問しておきながら、その返答を聞いた途端、何故か不機嫌そうにするウィア。シンヤはそれに対して特に気にした様子もなく、アムール王との会話に戻る。


「また気が向いたら、寄ってくれ。今度は仲間達にも是非お会いしたいな」


「近々、こちらからお前達を招待するかもしれない。そうなったら、仲間達も紹介しよう」


「ほぅ。それはありがたい。是非よろしく頼む」


「ああ……………そんじゃな。ウィアはまだここにいるんだろ?久しぶりの親子水入らずを楽しめよ」


「そうするつもりだ。まだまだ父ちゃんには話したいことがいっぱいあるし」


「おいおい。まだあるのか………………ちょっと、腹の具合が」


「じゃあ、トイレの前でずっと待機してるから」


「か、勘弁してくれ〜〜〜!!」


2人のやり取りを温かく見守っていたシンヤは軽く微笑みながら、その場を後にする。その背中を少し寂しそうにウィアは見つめていたのだった。







―――――――――――――――――――――








「待たせたな」


「いえいえ」


「この方達のおかげで退屈はしないで済みましたわ」


あらかじめ決めていた合流地点で再会する3人。最後にやってきたシンヤがサラの発言の真意を確かめるべく、視線を下へと向けるとそこには盗賊達が縄に縛られたまま、寝かされていた。


「こいつらは?」


「獣人族領内ではそこそこ有名な盗賊団だそうです。シンヤさんを待っていたら、襲い掛かってきたので生捕りにしておきました」


「そうか。ありがとな。じゃあ、こいつらをギルドに引き渡してから、向かうとするか」


「あの……………本当にいいんでしょうか?」


「当たり前だ。ティアの家族は俺達の家族も同然だ。それとも行きたくないのか?」


「いえ……………あの後、考えたんですけど、やっぱり気になるので一緒に来ていただけるとありがたいです」


「よし。じゃあ決まりだな」


「楽しみですの」










「ここが……………そうか?」


「ええ。以前、両親から聞いたので間違いはないかと」


「穏やかで雰囲気のいい村ですわね」


獣人族領のはずれにある"イレン村"。そこを訪れたシンヤ達は特に身分証の提示などを求められることなく、村へと入っていった。というよりも門番自体がそこにはいなかった。


「もう少し警備をしっかりした方がいいと思うんだが」


「ここは辺境にある村で特に今まで危険な目には遭っていないそうなのでこのままなのだとか」


「へ〜ちなみに外から人がやってくることも珍しいんですの?」


「そうみたいですね。やってくるのは商人とか吟遊詩人の方とか……………それも稀みたいですけど」


「だからか………………俺達がさっきからじろじろと見られているのは」


シンヤ達は村に入った直後、周囲の視線を一気に集めていた。何か特別な理由があるのかと不審に思っていたシンヤはその原因が単純なものだと分かり、ホッとした。


「冒険者なんてそれこそ来ませんし、こんな目立つ装いではこうなるのも必然ですね」


「大した理由じゃなくて良かった。ティアの家族に嫌われたくはないからな」


「嫌う理由なんて1つもないですよ。私が今、こうしてここに来れているのはシンヤさんのおかげなんですから」


「ティア………………」


「あ、あの〜……………私は?」


「もちろん、サラもですよ。いつもありがとうございます」


「ティア!ありがとう!本当にあなたって最高ですわ!」


その後、5分もの間ティアはサラに抱き締められて、揉みくちゃにされてしまうのだった。







「あの〜ちょっとお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


「ん?なんだい?」


「この村にニーハさんとガイドさんっていう方はいらっしゃいませんか?」


ティアは名前だけを頼りに顔も分からない祖父母を探していた。村の住人はそこまで多くはなく、聞き込みに大した時間は掛からないだろうと踏んでのことだった。そして、聞き込み開始から約10分、その時はいきなり訪れた。


「あたしがそのニーハなんだけど……………」


「っ!?あなたがニーハさんですか!?」


「そうだけど……………そういうお嬢ちゃんは一体誰なんだい?」


ティアの驚きように不思議そうな顔をする老婆。そして、すぐさま何か理由があると思った老婆はまずティアの名前を聞いてきた。


「私はティア………………サンゴとベニの娘です」


するとティアの答えを聞いた老婆は目を大きく見開き、大きな声で叫んだ。


「本当かね!?お嬢ちゃんがあの2人の!?」


「そうだよ。ずっと会いたかった…………………おばあちゃん!!」


「お〜よしよし。そうかいそうかい」


「ううっ………………」


「今までよく頑張ったね〜………………こんなに成長してるなんて、あたしは嬉しいよ」


「おばあちゃん……………」


「よしよし………………おい、あんた!そんなとこで寝てないでこっちに来なよ!」


「ふぁ〜休憩中ぐらい、ゆっくり寝かせてくれよ。一体何だってんだ!」


「そんな呑気にしてる場合じゃないよ!可愛い可愛い孫娘が遠路はるばる、あたし達を訪ねてきてくれたんだよ!」


「えっ……………本当か!?」


「ガイドおじいちゃん。はじめまして、サンゴとベニの娘のティアです」


「っ!?こ、こりゃ、えれぇこった!店なんてやってる場合じゃねぇ!今日はもう店仕舞いだ!」


「当然だね!急いで支度するよ!……………っと、そこのお兄さん達も食べていくだろ?今、食事を用意するから待ってな!」


シンヤ達にもそう声を掛けると慌てて、どこかへと向かうニーハとガイド。残されたシンヤ達は互いに目を合わせ、微笑ましい気持ちでニーハ達の背中を見つめていたのだった。










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