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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第311話 虎が雨





フリーダムにある"黒天の星"のクランハウス本部。そこの会議室にいるのは現在、アスカと玄組(くろぐみ)副長のテレサのみだった。他の者達は皆、それぞれがある目的の為に動き回っていた。


「ご報告です。たった今、"紫の蝋"の所有するクランハウス及び軍団(レギオン)ハウスへの襲撃が完了し、捕らえられた"獣の狩場(ビースト・ハント)"のメンバー全員を救出したとのことです」


「それはそれはご苦労様です。テレサも疲れたでしょう?」


「いえいえ。アスカさんの方こそ、全体の指揮お疲れ様です」


「私は慣れてるから大丈夫。本来、こういうのは"十人十色"のリーダーであるカグヤさんがやるべきなんだけど、あの人じっとしているのは割に合わないみたいですぐ飛び出していっちゃうから。私がやるしかないの。まぁ、こういうのは性に合ってるしね」


「……………なんか納得です」


「それよりも拠点はちゃんと破壊した?」


「はい。全てのクランハウス・軍団(レギオン)ハウスを跡形もなく消し、なおかつ向かってくる敵も全て屠りました」


「逃げた敵は?」


「もちろん1人残らず。敵の生存者は0人です」


「そう。あとは…………ドルツさんが敵の今までの悪事の証拠となる書類を集めていたらしいから、それらが新たに発見されたら言って。私が後で渡しておくから」


「はい」


「よし。じゃあ、リーゼと合流して他にやることがなければ一旦ここに帰って来て。多分、他のみんなも帰ってくると思うから」


「かしこまりました」


「さぁ……………あとはシンヤさん達だけね」









―――――――――――――――――――――








「ん?」


「どうしたの?」


城の地下にてウィア達と話をしていたウルフは持っていた通信の魔道具が淡く光っていることに気が付いた。実は通信の魔道具には離れている者と会話するだけでなく、一方的に言いたいことを記録させておくこともできたのだ。これは主に相手側が忙しくて手が離せず魔道具に反応することができない場合の緊急措置として使われることが多かった。


「何か光ってんな。気になるから、聴いてみるか」


そう言ってウルフが魔道具に魔力を込めた瞬間、低く落ち着いた男の声が聞こえてきた。


「"隻眼"、聞こえるか?キャンドルだ」


「お、こいつは"紫の蝋"の軍団長(レギオンマスター)だな。ウィア元王女、残念だったな!おそらく、これはお前の仲間達をやっちまったって連絡だぞ!もうどう足掻いたって手遅れだ!」


「くっ……………」


「いいか?お前の仲間達はな、既にこの世に……………」


「これを聞いているってことは」


「……………へ?」


意気揚々と喋り続けていたウルフだったが魔道具から聞こえてくる男の言い回しが気になり、中断せざるを得なくなった。それと同時に言い知れない不安がやってきて、何故かは分からないが最悪の想定が脳裏をよぎった。


「これを聞いているってことはもう俺はこの世にはいない」


「は?」


「驚いたか?そりゃあ驚くよな。なんせ、俺達はあの"紫の蝋"だぜ?それも今回は"闇獣の血(あんじゅうのち)"と手を組んでる。それなのに正面から突っ込んでくる馬鹿なんかいる訳ない。いたとして、俺達の企みに気が付いた時には全てが終わってしまった後。もうどうしたって手遅れ………………のはずだった」


「お、おい。お前は一体何を言っているんだ?」


反応が返ってくる訳ないにも関わらず、ウルフは思わず聞き返さずにはいられなかった。それほど彼の心は不安で一杯だったのだ。


「ところが、奴らは……………"黒天の星"は違った。奴らは化け物だ。敵がどうとか躊躇することなく、動き出したら止まらない。俺のところまで辿り着いたってことはおそらく他のクランハウスや軍団(レギオン)ハウスも既に襲撃され、捕らえた"獣の狩場(ビースト・ハント)"のメンバーは全員解放されているはずだ。そして、俺達の方の生き残りはほぼ0に等しいだろう」


「………………」


「俺の勘も鈍ったもんだ。まさか、こんな簡単に牙城が崩れるとは………………いいか、"隻眼"。どうやら俺達は決して喧嘩を売ってはいけない相手を怒らせてしまったようだ。もうじきお前のところにも」


「おい、そっから先はアタシがって言っただろう。貸せ……………あ〜もしもし。聞こえてるか?もうじき、お前らのところにシンヤ達が着く頃だから。呑気に胡座かいてる暇なんかないぞ………………ほい、返すぞ」


「き、聞こえたか?いいか?作戦は失敗だ。今すぐ荷物をまとめて……………ぐわああああっ!?う、腕があっ!?お、おい!や、やめてく……………」


記録はそこで終わっていた。途端、辺りには静けさが漂いウルフもディアも誰も彼もが言葉を発することができなかった。そんな中、ただ1人ウィアだけが嬉しそうに呟き、涙を流した。


「そうか。シンヤの仲間達のおかげでみんな助かったんだ………………そして、シンヤがこっちに向かっている。私を助ける為に」


「くっ……………何を助かった気でいるウィア元王女!言っておくが、こっちに向かってるのはたった3人だ!たったそれだけの人数で一体何ができる!今からでもメンバーを編成し、こちらから攻めれば」


「"虎の涙(とらがあめ)"」


「ぐはっ!?」


「うぐっ!?」


ウルフが早口で捲し立てる中、どこからともなく聞こえた声と共に地下の壁が破壊され、ウルフとディアはそれに巻き込まれた。突然の事態に何が起こったのか分からないウィア達が慌てふためく中、壁に開いた穴から吹き込んできた大粒の雨と共に1人の青年が入ってきた。


「雨は刀が濡れるから嫌なんだが」


そこには刀を構え、若干不機嫌そうなシンヤが立っていたのだった。
















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