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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第309話 蝋を得て色を望む






「ゲハハハッ!それにしても楽な仕事だぜ!」


「ああ!なんせ、"赤虎"を人質の名として出した途端、あいつら何もできなくなったもんな」


「こりゃあ俺達にもツキが回ってきたか」


「それよりも……………だ!あの"闇獣の血(あんじゅうのち)"と一時的とはいえ、手を組むことになったことの方がやばい!俺達のメリットもデカいしな!」


「何が"獣の狩場(ビースト・ハント)"、"愉快な行進(パレード)"だ!名前だけがデカくなっても中身はスカスカじゃねぇか!こりゃ、"碧い鷹爪(あおいようそう)"を下したっていう"黒の系譜"も大したことねぇな!」


「ゲハハハッ!いよいよ俺達の時代が来たってことか!」


「だな!おい、みんな!ジョッキを持て!」


男の一声で樽ジョッキを持つ男達。皆、一様に赤ら顔をしており、上機嫌だ。


「俺達はこんなもんじゃねぇぞ!まだまだ止まらねぇ!"獣の狩場(ビースト・ハント)"の次は"殲滅連合"に"赤き剣群"、"戦線騎士団"そして"黒の系譜"だ!今、名前を挙げた奴らは震えて待ってろ!それから………………"闇獣の血(あんじゅうのち)"との同盟に乾杯!」


「「「「「乾杯〜〜〜!!!!!」」」」」


男達は意気揚々とジョッキを掲げ、中身を一気に飲み干していく。誰もが皆、自分達の明るい未来を想像し浮かれていた。だから、だろう………………すぐそばに侵入者がいるのにも関わらず、気が付かなかったのは。


「馬鹿騒ぎしているところ悪いんだが」


「っ!?誰だっ!?」


盛り上がっているところに急に飛び込んできた声。それは明らかにこの場にはそぐわないものだった。そして、何よりも全く気配を感じさせずに現れ、突然この場を支配した殺気の質がその者の強さを表していた。


「震えて待ってろと言われたが、こっちから来てやったぞ」


「っ!?お、お前は…………"緑偵"!?」


「そういうお前らはコソ泥軍団(レギオン)"紫の蝋"だな。随分と裏でコソコソやってるらしいじゃねぇか。あまり良い噂は聞かねぇぞ」


「な、何故お前がここにいる!?」


「お前()、な?」


「何っ!?」


その瞬間、ドルツの後ろからゾロゾロと現れ出す者達。皆、各々が愛用する武器を携え、険のある眼差しで敵を睨んでいた。


「ちぃっ、"銛使い"フェンドに"白虎"ライアン……………組長・副長とさらには緑組が勢揃いしてやがる」


「それだけじゃないよ!」


「っ!?今度は何だ!?」


男の驚く声と共に現れたのは……………


「お、お前は"船帝"!?何故、紫組副長がここに!?」


メアリーだった。


「だって、ダーリンが心配だったんだもん!ねぇ〜ダーリン」


「お、おい。あまり引っ付くな」


「な、何だそりゃあ!?」


急に始まった2人だけの空間を見せつけられた男達は思わず、気が抜けてしまった。しかし、次の瞬間そんなものを吹き飛ばす程の殺気を浴びせられ、男達は覚悟を決めざるを得なくなった。


「お前ら、色々と調べはついてんだ………………覚悟しろよ」


「っ!?く、くそっ!お前ら、予定よりはだいぶ早いが奴らをぶっ潰し、ついでに"黒の系譜"もやっちまうぞ!!」


「「「「「お〜〜〜〜!!!!!」」」」」








―――――――――――――――――――――









「何か、上が騒がしくない?」


「そうだね。何だろう」


シーフォンは同室の少女へと話し掛けた。彼女達は不安にならないよう数分おきに声を掛けてはお互いを支え合っていた。そんな中、突如慌てふためく声が上の階から聞こえてきた為、2人は揃って不思議そうな顔をしていた………………すると、


「ぐはっ!?」


「っ!?」


「な、何!?」


突然、天井を突き破り上から何かが落ちてきたのだ。よく見るとそれはシーフォン達をここに閉じ込めた"紫の蝋"の副軍団長(レギオンマスター)だった。


「な、何て力だ……………流石はあのクランの幹部を務めるだけはある」


「だから、言ってんだろ?さっさと吐けって……………軍団長(レギオンマスター)はどこにいるんだ?」


直後、天井に開いた穴から再び誰かが落ちて…………いや、降りてきた。その人物は鋭い眼光で件の副軍団長(レギオンマスター)の男を睨み付けていた。


「あ、あれは…………」


「"朱鬼(しゅき)"カグヤ……………うわ〜本物だ」


「っていっても軍団戦争(レギオン・ウォー)の時に見たでしょ?」


「うん。でも、あの時は遠くからだから」


シーフォン達がそんな会話をしているのに全く気付くことなく、副軍団長(レギオンマスター)の男は身体を起こしてカグヤへと言い放った。


「おい!これが見えねぇか!」


男はシーフォン達を指差して叫んだ。


「こいつらは人質だ!お前がどんなに強くても流石にこいつらを盾に取られちゃどうしようもないだろ!そして、こいつらがいる限り、お前に仲間の情報は売らねぇ!」


「は?」


「よし、分かったならそこを動くなよ。今からお前を」


「"朱い雨(さみだれ)"」


「ぐはっ!?な、何故…………」


「いや、だってアタシの仲間が守ってるし」


「なっ!?」


驚いた男が後ろを振り返るとそこにはクーフォを筆頭とする朱組の者達が檻の中の者達を次々と解放しているところだった。


「大丈夫?変なことされてない?」


「クーフォ!ありがとう!大丈夫だ!」


解放された安心感からシーフォンはクーフォへと勢いよく抱きついていた。他の者達も解放された喜びから思わず泣いたり、現実感がないのか呆然と立ち尽くしたりしていた。


「いつの間に……………」


「お前らとアタシ達じゃ質が違う。それにもしもクーフォ達がいなくてもアタシら"黒天の星"は人質ごときで手を緩めることはないからな?」


「な、何だと!?そ、それでも人の子か!」


「悪党に説教はされたくないな。そういうスタンスの者もいるってことだ………………さて、それじゃあ」


カグヤはゆっくりと男へ近付くと小声で言った。


軍団長(レギオンマスター)の居場所を吐いてもらおうか」














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