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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第14章 獣人族領

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第303話 柱






「シンヤさん、それはどういう意味ですか?」


静まり返った会議室にその声はやけに響いた。そして普段はシンヤに対して、ほとんど怒ることがないティアが珍しく怒りの感情を出しているのに幹部達は1人を除いて皆、驚いた。そのせいで一旦は自分達の言葉を引っ込めてしまうほどだった。


「そのままの意味だ」


「であれば、即刻撤回を求めます。常日頃から言っていますよね。戦地へと赴く場合は最低でも2人お付け下さいと。その理由をシンヤさんは一番理解しているはずです。どんな強者であっても何が起こるか分からない。ましてや、あなたは顔が割れすぎています」


「……………」


「それに今回の件に関していえば、私達も相当腹が立っているんです。その気持ちを押し殺して、ただここで待っているだけというのはあまりに殺生ではないでしょうか?」


「分かっている。分かっているが……………」


「いいえ!分かっていません!」


その時、クランハウス全体に響き渡る程の声量でティアは言葉を発した。ティアがここまでシンヤに強く言うことは今まで一度もなかった為、皆心底驚いたがサラだけは先程からずっと同じ表情でおり、それは彼女との付き合いの長さ、そして信頼し切っているからこそだった。


「あなたはもう少し自分の価値を見直すべきです!私達にとって、あなたがどれほどの存在か!あなたがいなくなったら、私達はどうすればいいんですか!」


「俺がいなくなったところで世界は変わらず動く。それに俺だって、いつどうなるか」


「いい加減にして下さい!!」


「っ!?」


その時、ティアはシンヤの頬を思い切り叩いた。それによって珍しく動揺するシンヤ。会議室内の空気はいよいよ張り詰めたものとなっていった。


「最善を求め、リスクを回避してても死んでしまうのであればどうしようもありません。ですが、あなたは今自ら死地へと赴こうとしているんです!この2つの意味は大きく違います!」


「………………」


「それに"俺がいなくなったところで世界は変わらず動く"?寝言は寝てから言って下さい。あなたが言っているのは私達の冒険者活動や事業のことでしょう。確かにそれぞれが1人でもやっていけるくらいの実力はつけたかもしれません。しかし、"シンヤ・モリタニ"という大きな大きな柱を失ってしまえば、私達の時間は世界は………………確実に止まります」


「………………」


「もう少しご自身を過大評価して下さい。そして、大切になさって下さい。自分なんて大したことはないとか思わないで下さい………………私達にとって、シンヤさんは全てなんです」


「ティア…………」


それからシンヤは俯いていた顔を上げると周囲を見回した。誰もが皆、シンヤのことを信頼し切った表情でいた。すると、その中でサラだけは軽くため息を吐くと呟いた。


「ティアの言う通りですわ。全く………………全部いいところを持っていくんですもの。私の出番も残しておいて欲しかったですわ」


そんなサラの言葉によって、その場は笑いに包まれたのだった。








―――――――――――――――――――――








とある薄暗がりの部屋。蝋燭1本しか照らすもののないその部屋に2人の男女がいた。女はすれ違った男が皆、振り返る程、美しく一方の男は片目に黒い眼帯をつけ片耳が千切れた強面の狼人種だった。


「本当に大丈夫なんでしょうね?」


「心配するな。依頼されれば、どんなことでも必ず成し遂げる。それが俺達のポリシーだ」


「当たり前よ。あれだけの大金を積んだんだから成功してもらわなくちゃ困るわ」


「そういえば……………依頼される側が言うのもなんだが、あれは払い過ぎなんじゃないか?」


「あなた、"黒締"を侮りすぎよ。むしろ、あれでも少ないくらいよ?でも、あなた達があの金額でいいっていうから、そうしたけど」


「奴は本当に来るのか?」


「ええ、ほぼ間違いなくね。彼らの情報網は相当なものよ。いずれ、私達の元にも辿り着く」


「ただの依頼がこりゃ、とんでもないことになったな。"獣の狩場(ビースト・ハント)"と"愉快な行進(パレード)"、そしてその同盟クランを全て敵に回したのか、俺達は」


「それだけじゃないわ。もしかしたら、"黒締"は軍団(レギオン)を率いてやってくるかもしれない」


「"黒の系譜"か。"碧い鷹爪(あおいようそう)"をぶっ潰したっていう…………………そういえば、あいつら今では軍団(レギオン)を解散して、悲惨な目に遭っているらしいな。どうやら依頼も碌に受けられず、その日の暮らしもやばいみたいだ」


「格上だと気が付かず、無謀にも戦いを挑んだ勘違い馬鹿共の末路ね。当然だわ」


「まぁ、俺達にはその心配はない。奴らとは違う。なんせ俺達には……………」


そこまでいってニヤリとした笑みを浮かべた男はゆっくりとその続きの言葉を発した。


「あの軍団(レギオン)背後(バック)についているんだからな」












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