第27話 クラン
「シ、シンヤ…………お主無事じゃったのか?」
「ああ」
「そうか………良くぞ、引き返してきてくれた。そして、すまんかった!ギルドマスターという責任者の立場におりながら、お主を止めることが出来なかった………一歩間違えれば、取り返しのつかないことになっていたやもしれん。それなのに………ワシはまたあの時のような過ちを繰り返すとこじゃった。良くぞ、本当に良くぞ、引き返してきてくれた!しかも首謀者まで捕らえたと……それで魔物の進行が止まったんじゃな。本当に何から何まで………」
「ん?首謀者を捕らえたのは魔物をほぼ狩り尽くした後だぞ」
「…………は?」
「あと、いくら責任者といっても勝手に飛び出したのは俺達だ。気に病むことはない」
「ち、ちょっと待て………魔物をほぼ狩り尽くした………?」
「ああ」
「たった7人で?」
「ああ」
「この短時間で?」
「ああ」
「何ということじゃ……」
なぜか、頭を抱えて天を見上げるジジイ。一体、どうしたというのだろう?たかだか1万匹。それも絶望の森にいる魔物よりも遥かに弱いレベル。それを狩り尽くしたと言っただけなのだ。だいたい、当初はここにいる500名の冒険者で狩ろうとしていたではないか。それが急遽、7名になっただけ。1人で約70名分の役割を果たせばいいだけなのだ………と思っていると横から知らない奴の声が入ってきた。
「お前、適当なこと言ってんじゃねぇぞ!証拠はあんのかよ!」
「誰だ、お前?」
「俺の名はイワン!Bランククラン"サンバード"所属の冒険者だ!………ってか、お前こそ、誰だよ!」
「俺はシンヤ、Aランク冒険者だ。証拠ならあるぞ、有象無象」
「有象……ってAランク!?しかも証拠があるだって!?」
「ほれ」
そう言って、ギルドカードの魔物の討伐数を見せた。ちゃんと緊急依頼という項目で表示している。
「2063…………こ、こんなのデタラメだ!こんな数をたった1人で狩れる奴なんか、いる訳ないだろ!」
「別に有象無象共に信じてもらう必要なんかないが、そもそもこの数字はイカサマできるもんなのか、ジジイ?」
「いや、出来ぬが」
「じゃあ、お前の言ってることはおかしいな」
「いーや、お前は虚偽の報告をして、報酬を多くもらおうとしているんだ!そうに決まってる!白状しろ、この詐欺師!
「他人を勝手な決めつけで詐欺師呼ばわり………お前、命を賭けろよ」
「い、命!?」
「当たり前だろ。もし、俺の言っていることが本当だったら、お前の勝手な偽善だか、八つ当たりだかによって、営業妨害をくらうことになるんだぞ。どうすんだ?風評被害で今後、依頼が回ってこなくなったら。それで食えなくなって死んだら、お前は一体どう責任を取るつもりなんだ?」
「い、いや、俺の言ってることが本当だったら、ズルして金を稼いだことになるだろ!そんなの許されるはずがない!」
「だから、今から、その証明をしようって言ってるんだ…………おい、いるんだろ?出てこいよ、伝令共」
その言葉を合図に森からぞろぞろと姿を現す者達。皆、信じられないものを見たような表情をしている。
「気付かれていましたか」
「当たり前だろ。俺だけじゃなく、仲間達も当然、気付いてる。あんな低いレベルの隠密」
「低いレベルですか………これでも我々レベルの者はこの街にはいないんですが」
「あっそ」
「…………まぁ、あんなものを見せられてしまった後では我々が言い返すこと自体、無駄でしょうがね」
「あんなものって一体………ってか、伝令いたのかよ」
「はい。それも含めてご説明致します。まず………」
「ちょっと待て。まずは条件の確認からだ。後で言い逃れされても面倒だからな。いいか?俺の言ったことがもし、本当だった場合はお前が死ぬ。もし、嘘だった場合は俺が死ぬ………これで異論はないよな?」
「ああ!化けの皮を剥がしてやる!」
「………じゃあ、頼む」
「かしこまりました!まず………」
――――――――――――――――――――
「という訳でして、私達は彼らが実際に戦っているのをこの目で見ました」
「う、嘘だ……そんなの」
「イワン、往生際が悪いぞよ……認めんか」
「いや、ありえない!きっと伝令を買収して言わせているんだ!そうに決まってる!」
「………お主がそう言うと思って、その者が嘘をついているかどうかを見抜くマジックアイテム"真実の眼"を使ったが、嘘はついとらんかった」
「な…………」
「これ以上、駄々を捏ねるようなら、どんな最期になるか分からないからな?」
「あぁぁぁ………」
「その前にまずは土下座して、謝罪してもらおうか。あんだけのことを言ったんだからな」
「た、大変申し訳ございませんでした………どうか命だけはご勘」
「なっ………」
後半に耳障りな台詞が聞こえた瞬間、俺は首を刎ねた。あらゆる不測の事態にも己が力・知識・危機管理能力を用いて、対処する。それが冒険者である。どんだけ自信があったのか知らないが命を賭けたやり取りをそこまで重く受け止め、吟味し、最悪のケースまで考えて引き受けたとは到底思えない。どいつもこいつも甘ちょろいのが多い。普段から魔物と死ぬ気で戦っているのすら疑わしい。それとここにきて、1人許してしまうと勘違いする輩が出てくる。自分も何かあれば、謝って許してもらえばいいと。現在、ここにはフリーダム中の冒険者が集まっている。そこでそんなことをすれば、全員から舐められる可能性が出てくる。これから、そんな数から絡まれるかもしれないと考えるだけでうんざりするのだ。
「な、なにも本当に殺さなくても……」
「おい、今、間抜けな発言をしたのはどこのどいつだ?」
「あ、俺……です。Bランククラン"フォートレス"所属、カザフです」
「お前は何を暢気なことを言ってるんだ?」
「い、いや、だって……」
「冒険者同士の取り決め、特に命を賭ける場面ってのはそんなに軽いものなのか?違うだろ。中途半端な優しさで許してしまうと後に報復にくるかもしれない。お前はそんな時に自分だけでなく、大切な者まで守れるのか?自分のちっぽけな正義感、そのせいで取り返しのつかないことになった時に本当に後悔しないんだな?………どんなに強くても最後の最後までわずかな可能性を捨てず、油断してはならない。特にさっきの奴は公衆の面前で醜態を晒し、自身だけでなく、所属クランの顔にまで泥を塗った。仮に見逃したとして、喉元過ぎればなんとやら。後から、溜まった恨みや怒りを向けてくるかもしれないし、クラン側から責任を取れと言われ、自暴自棄になって襲い掛かってくるかもしれない。そんな時に本当にお前は大切なもの全てを守れるんだな?」
「強ければ大丈…」
「物事に絶対はない。だから、本当の強者は常に最善の注意を払い、あらゆる可能性を模索する。油断などもっての外だ………さっきの奴もそうだが、Bランククランに所属してる奴ってのはそんなことも教わらないのか?」
「……………」
「さて、これでそこの冒険者共も一連の流れ全てに納得したな?じゃあ、ジジイ。早くギルドへ戻って、緊急依頼の報酬の受け取り、魔物の売却とこいつらの冒険者登録を済ませたいんだが………その前にこいつが今回の首謀者と思われる奴だ」
「ごふっ…………ここは?」
俺はそう言って、アイテムボックスから黒ローブを取り出して、地面に放り投げた。
「ほぅ、こやつが」
「ああ。じゃあ、俺達は戻るわ」
「了解じゃ。戻ったら、少し話があるんじゃがその前に…………お主、ギルドの教官にならないか?」
「ならねぇよ」
「じ、じゃあ、もしよろしければ伝令に……」
「もっとねぇわ」
――――――――――――――――――――
「ではこちらが報酬の金貨100枚に魔物の売却金が金貨50枚………それとお二人のギルドカードでございます………シンヤさん達、この度は街を救って頂き、誠にありがとうございます!そして、おかえりなさい!」
ホールでだとうるさくなる為、ギルドマスター室で全ての手続きを行う。ちなみに冒険者登録をした2人というのはイヴと黒ローブに操られていた竜人の女である。イヴは登録しようとしたタイミングで緊急依頼が発生した為、まだ完了していなかったのだ。竜人に関しては黒ローブをアイテムボックスに入れた後、一悶着あって、俺の横に立っている訳だが、それは後で話そう…………だが、そろそろティアが限界みたいだな。自分の定位置を当たり前のようにぶんどられてしまってはいい気がしないんだろう。森から出てくる時には既にそこにいたからな。冒険者達も見知らぬ奴がいるもんだから、不審がっていたしな。
「ワシからも改めて、お礼をさせてもらう。本当にありがとう。お主のおかげでこの街は救われた」
「俺は俺の為にやったんだ」
「まぁ、お主なら、そう言うと思っとったが………それはそうとお主のランクについて話があるんじゃが」
「なんだ?」
「お主のランクを一段階上のSにしようと思っておる。日頃、高品質な魔物を売ってくれておるのと今回のスタンピードの件でさすがにAのままではおかしいと思ったのじゃ」
「それなら、こちらからも要望がある。街を救った者からの要望だ。ティア・サラ・カグヤ・ノエをAに、それ以外をBにしろ」
「な、なんと……」
「忘れるなよ?これは街を救った者からの要望だ」
「そんなに強調せんでも分かっておるわ………まぁ、でも冷静に考えて、お主以外の討伐数もとてつもないものじゃしな…………了解じゃ。じゃあ、そのように」
「待て。あと、クランを結成しようかと思ってる」
「まぁ、その人数じゃしの。で、クラン名とそれぞれの役職は?」
「ああ。それなんだが………」




