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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第2章 クラン結成

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第26話 竜人




「結果発表〜〜〜〜!!」


「「「「「「わ〜パチパチパチパチ〜〜」」」」」」


あれから、1万近くいる魔物をほとんど俺達で狩り尽くし、ちょうどキリが良くなった為、近くの森の中に全員集合して、それぞれの結果を教え合おうということになった。こういう時に便利なのがギルドカード。魔物の討伐数が日別・週別・月別・依頼別という風に項目ごとに表示されている為、ギルドへの報告はもちろん、個人間の勝負にも役立つ。今回はその機能を使って、それぞれが狩った数を順番に言っていくのだ。


「じゃあ、俺から始まって、古参順に言っていこう」


「「「「「「はい!」」」」」」


「いくぞ!まずは俺………2063!次からは数字だけ言っていけ」


「1580!」


「1444!」


「1371!」


「1392!」


「1001!」


「583」


この勝負、普通にやったら、古参組が勝つのは必然。ならば、なぜ、このようなことをわざわざ行ったのか。それはこいつらの精神力・集中力そして状況把握力を試す為である。いかに不利だと思える状況でも最後の最後まで手を抜かず諦めず、最善の策を模索したか。また、その逆境を跳ね除けるだけの力があるのか。それらが今回の本当の課題だ。この先、いつ理不尽な出来事が襲ってくるかは分からない。そんな時、公平にしろとただ言うだけでは状況が好転しない場合もある。だから、ここで予行演習をしたのだ。


「それぞれ、よくやった………イヴは1000体いかなかったが、以前の生活と周りに比べて戦闘経験が少ない分、それは仕方ない…………そして、ここからがボーナスタイムだ」


「「「「「ボーナスタイム?」」」」」


「俺は言ったはずだぞ……… 勝負中、あることに気が付いた奴にはボーナスポイントを進呈しようと」


「「「「「………あ」」」」」


「やっぱり、ちゃんと聞いてなかったみたいだな。実はそこも試してたんだよ。結果、ほとんどの奴は討伐数を多く稼ごうと躍起になって、そこにまで気を配る余裕がなかった。……………しかし、ある者はそんな中で今回のスタンピードについて、不審に思う部分ができ、その確認をし、確証が取れた……………違うか、イヴ?」


「違わないぞよ」


「じゃあ、それを言ってみてくれ」


「こほん………今回のスタンピードは自然発生したものではなく、人為的に発生したものじゃ」


「その根拠は?」


「魔物の眼を確認した。充血し、動きが不自然で尚且つ、意識があるとは到底思えなかった。その時点で何者かに操られておると感じたのじゃ」


「それで?」


「そもそも1万もの種類も様々な魔物が互いに争うことなく、集団で移動すること自体、おかしいのじゃ。何者かが裏で糸を引いてるとしか思えん…………ギルドの連中はこの事態をどう収拾するのかに精一杯でそこまで気が回ってないみたいじゃが」


「いい考察だ。そして、おそらく、その推測は的を得ている……………そうだろう?そこの木の影に隠れている奴よ」


その瞬間、姿を現したのは真っ黒いフード付きのローブに身を包んだ何者か。顔も仮面で隠れており、その正体はおろか性別すら不明だった。


「…………なぜ、バレた?」


「なぜ、バレないと思った?」


「ちっ………仕方ない。最終手段だ」


そう言うと黒ローブは笛を吹いた。すると近くの茂みから、一人の女が現れた。


「……………」


側頭部から生えた2本の角・少し尖った耳に頬にある鱗、そして強靭な尻尾と艶のある翼………その特徴は間違いなく竜人であった。容姿をいうと、青い長髪に切れ長の瞳、すーっと通った鼻筋をしており、可愛いというよりは綺麗やかっこいいという表現がふさわしいだろう。スタイルは非常に良く、背も高い為、男装がとても似合うであろう。…………本来であれば


「竜人、いけ!こいつらを亡き者にしろ!」


「はい」


しかし、彼女は操られていた。その証拠に瞳は充血・命令に忠実、動きが不自然。この3つが揃っていた。間違いない。今回のスタンピードを引き起こした張本人は彼女に命令を下したそこの黒ローブであろう。となれば、やることは1つだけ。


「お前を捕らえるわ」


「何を言っている、小僧!お前など……に」


「お前などに………何だよ?」


軽く殺気を当てただけで生まれたての子鹿のように震える黒ローブ。俺はそいつに向かって、歩いていく。


「ひ、ひぃ。く、来るな!おい、竜人!私を守れ!」


「はい………竜拳!」


「させません!」


俺に向かって拳を振りかぶった竜人はしかし、アスカによって、その動きを阻まれた。器用にも拳を薙刀の柄の部分で留めている。


「こそこそ逃げようとするな」


「お、お前は一体」


「うるさい」


「お、お前さえいなければ今頃、とっくに」


「うるさいと言うておるのが聞こえんかったか?」


「っ!…………どうやら、ここまでか」


イヴが大鎌の刃を首に当てると黒ローブはどこか諦めた表情をして、大人しくなった。あとはこいつをギルマスに引き渡して、処理を任せればいい。


「よし、これで戻ればいいんだが、その前に優勝者の発表だ。優勝者は………イヴ!」


「「「「「え」」」」」


「妾……?」


「今回の件について、冷静な判断力・洞察力、集中力を持って取り組んでもらったからな。ボーナス1000体分だ」


「じゃあ、ギリギリ、ティアに勝ったのかの………し、信じられん」


「そんな〜〜」


「願い事、何にするか考えとけよ」


「まだ突然のことに頭がついていかぬが…………それは悩むのぅ」


その後、俺達がギルドマスターのいる場所まで戻ろうと一歩踏み出した時、


「…………アスターロ様、どうか不出来なこの私をお許し下さい」


黒ローブの呟いたこの言葉がやけに耳に残った。


――――――――――――――――――――


フリーダムの門前は異様な空気に包まれていた。シンヤ達がその場を離れてから、たっぷり5分程が経った頃だろうか、ある一人が口にした言葉に皆が同意した。曰く、「あいつら、死んだな」と。1万もの魔物が迫っている中、たった7人で一体何ができるのか。緊張感のカケラもない、まるで今からピクニックでも向かうかのような足取りに軽装備。ましてや、どうみても戦えそうもない年齢の子供が複数紛れていたように感じる。なにより、奴らは見ていなかったのかと。神に無事を祈る者を、最愛の人に遺言を残していく者を、そして絶対に生きて帰ると覚悟を決めた者を…………。彼らの中にはそれを踏みにじられたように感じた者もきっといただろう。ともかく、そんなこんなで彼らはシンヤ達のことなど放っておいて、戻ってくるはずの伝令の帰りを必死な思いで待つことにしたのだ。しかし……………


「なぁ………遅くないか?」


「ああ………だが、それ以上におかしなことがある…………あれを見ろ」


ここで冒頭部分に戻る。何度も言うが、フリーダムの門前は異様な空気に包まれていた。シンヤ達がこの場を離れてから、15分。一向に戻ってこない伝令にやきもきしながら、ひたすら待っているとおよそ想像だにしなかった事が起きた。


「…………なぜ、伝令よりも先に魔物がやってくるんだ」


なんと冒険者達の前に姿を現したのは待ち望んでいた伝令などではなく、複数の魔物達だった。


「皆の者、予定変更じゃ!これから、迎撃態勢に入る!魔法部隊、用意!」


だが、そこは臨機応変に。街を、大切な人を、そして己自身を守る為、各々がギルドマスターの指揮の下、最善を尽くそうと気を引き締めるのだった。






「おい、やけに少なくないか?」


「それは俺も思った」


あれから、向かってくる魔物達を次々に葬っていった冒険者達。まだ少しずつしか出てきていないが、いつ固まって現れてもいいように常に気を抜かず、連携を駆使した戦いで順調に各個撃破していく…………が


「お、おい。今回の魔物の数って約1万だよな?」


「ギルドマスターが言っていたんだ。間違いはないだろう」


「じゃあ、なんでこれだけしかいないんだよ………俺達だけじゃなく、周りの奴らもそうみたいだし」


「だな………ぱっと見、全部で500体くらいか。で、冒険者の数が約500。一人2体狩れば、お釣りがくるな」


余裕が出てきたのか、そんな会話まで繰り広げる者が出る始末。この時点でシンヤ達がここを離れてから、25分が経っていた。


「………ふぅ。これで終わりか。なんだか、呆気なかったな」


そこかしこに散らばる魔物の死体。魔物の出現ペースが非常に緩やかだった為、冷静に心にゆとりを持ちながら、対処することができた冒険者達。むしろ、普段の依頼よりも楽だと感じた者が多かっただろう。あまり多く狩りすぎると他の冒険者の手柄まで奪ってしまいかねない為、1人1匹を目安にそれ以上は話し合って、決めた。


「それにしても何がスタンピード…………ギルドマスターも耄碌したな」


「お前な…………おい、ちょっと待て。あそこを見ろ。誰かがこっちに向かってきてないか?」


「もしかして、伝令か?全く………今更戻ってきても遅ぇんだよ。仕方ねぇ。俺様達の活躍を見せつけてビビらせてやるか」


傲慢にもギルドマスターを貶し、自分が大きくなった気でいる調子に乗った勘違い野郎がドヤ顔をきめている中、彼らに向かって歩いてきたのは


「おい、ギルマス。今回の件の首謀者と思われる奴を捕らえたから、引き渡すわ」


ただただ冷静にギルドマスターへ声を掛け、自分を過小評価し、決して驕ることなく悠然とその場に立つシンヤ・モリタニ、その人であった。




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