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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第13章 魔族領

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第264話 自分勝手





「つまり、"聖義事変"と"邪神災害"……………その2つに関わっていたのが僕の兄ということになります」


長い話がようやく終わり、最後の締めくくりとして添えられた言葉がそれだった。これまでゆっくりとハーメルンの口から語られていった真実。それは彼の兄が辿った軌跡についてだった。とはいってもその全てを知っている訳ではなく、あくまでも彼が実際に見聞きしてきたことのみを話した形ではあるのだが、細かい部分はこの際どうでも良かった。最も重要なのは彼の兄が世界各地で起きた2大事件に関わっていたということだからだ。


「兄が家を出てからというものの、僕は彼が一体どこで何をやっているのかを一切把握しておりませんでした。しかし、知らなかったとはいえ決して許されるものではありません。弟として身内の凶行を止めることが出来なかったのは事実です。その結果、多くの被害者が出てしまいました」


悲痛な面持ちで少しずつ紡がれる言葉はその内面を表すかのように震えていた。聴衆もそれに対して一切の野次を飛ばすこともなく、真剣な表情で彼の話に聞き入っている。その為、現場は静まり返っており、それは同時に彼から発される次の言葉を聞き逃すまいとジッと待っている証拠でもあった。


「結論…………僕の罪は組織において研究所の最高責任者を務めていた男、ズボラの弟であるということ。それと弟として兄の行いを事前に止めることが出来なかったこと……………この2つになります。よって、これらの責任を取る形と致しまして、まずは冒険者を引退させて頂きます」


この言葉には流石に聴衆も黙っていることができず、各所で発生したざわめきが少しずつ大きくなり、やがてその場は騒然となった。


「やめるなんて言わないでくれ!」


「そうよ!数年前、貴方は困っていた私を助けてくれた!そんな良い人がどうして引退なんてしなくちゃならないの!」


「まだ貴方の力を貸して欲しいって人は他にもきっといるわ!」


そんな中でそこかしこからハーメルンのファンであろう者達から悲痛な叫びが飛んでくる。それらを聞きながら、申し訳なさそうに俯き出すハーメルン。すると彼のファンに対抗する形で一部からこんな声も上がった。


「何が"やめないでくれ"だ。今までちゃんと話を聞いていたのか?あいつはあの事件に関わってた大罪人……………それも重要なポジションを務めていた者の弟だ。通常、あれだけの事件を起こしたとあれば、犯人達はその責任を取って確実に処刑されるだろう。だが、そいつらは皆、冒険者達によって殲滅され、既にこの世にはいない。であれば、その尻拭いをするのは当然身内に決まってんだろ。ハーメルンの人間性やこれまでの功績なんてのはどうだっていいんだよ。大事なのはあいつが大罪人の弟であるというたった1つの事実だけだ」


「なんだと!」


「ちょっと!なんてことを言うのよ!!」


「はっ!俺に八つ当たりするのは大間違いだぜ?恨むんなら、俺じゃなくて大罪人の弟に生まれてしまったあいつの不運にしろよ」


「おいっ!いい加減にしないと…………」


その時、広場一帯に響き渡る程、大きな声が壇上から発された。


「落ち着いて下さい!!」


聴衆は一斉に声の発生源へと目を向ける。そこには覚悟を決めた顔付きで周囲を見渡すハーメルンが堂々と立っていた。そして、自分に対して視線が集中したのを感じた彼はそこからゆっくりと静かな声で話しだした。


「僕のせいで言い争いなんてさせてしまって申し訳ございません。今回のことで僕のことを応援してくれている方の生の声を聞くことができてとても嬉しく思います。と同時にその声に応えることができないことが残念でなりません。先程あった"大罪人の弟"であるというたった1つの事実が大事だという意見……………まさしくその通りだと思います。だから………………」


諦めにも似た表情で紡がれる言葉の数々。それらを黙って聞く聴衆。誰もがこのままの流れで話が進んでいくと思っていた。


「僕は冒険者を引退します。そして、その後、どのように罪を償えばよいか皆さんに決めて頂きたく……………」


「待てよ」


ところが、ハーメルンのすぐ近くから突然掛けられた声によって、それは中断を余儀なくされた。


「っ!?今、聞き覚えのある声が……………えっ!?う、嘘!?な、なんで君達がここに!?」


彼の真横に突如、音も気配もなく現れた者達。とはいっても空から落ちてきた訳でも下から跳んだきた訳でもない。まるで透明人間だった者の正体が徐々に顕になるように何もない空間に少しずつ人が現れだしたのだ。その様はまるで随分、前からそこにいてずっと話を聞いていたかのようだった。


「何故?愚問だな。1人の馬鹿が勝手に早まっちまう前にぶん殴りにきたんだよ。みんなでな」


「は?な、何を勝手なことを言っているんだよシンヤ!自分が無茶苦茶なことをしているって分かってるの?こんなに大所帯でやってきたりして。それに君が連れてきた人達って()()()()()()()()()()()()()()じゃないか!そうなると君1人の問題じゃなくなるんだよ!」


「その台詞、そっくりそのままお返しさせてもらうぞ。お前、誰の許可があって、こんなことしているんだ?」


「そ、そんなの僕の勝手……………」


「じゃあ、この行為も俺達の勝手だ」


「そ、そんなの屁理屈」


「いいから黙れ」


「っ!?」


シンヤのその一言は広場一帯にいる者達の動きを止めた。わずかに漏れた殺気がそうさせたのだ。それを至近距離で感じたハーメルンはたまったものではない。


「ここからは俺達のターンだ」


それはそこにいる全ての者達の語感がシンヤに向けられた瞬間だった。










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