第263話 魔法王国レムロス
「時間だ。壇上へ上がれ」
「うん。ありがとう………………はぁ」
俯いていた顔を上げ、ため息を吐きながら階段へと足を伸ばす男がそこにはいた。時刻は昼に差し掛かる少し手前。男がいる場所は大勢の野次馬達で溢れ返っていた。そんな様子を気にも留めず。階段を一歩ずつ踏み締めるようにして、男は上へと上がっていく。階段から発する木の軋む音。それをBGMにしながら、男は今日までの日々が頭の中を駆け巡っていくのを感じていた。それが男にとって良い思い出であったかどうかはこの際、どうでも良かった。なにせ自身の今後を思えば、男の軌跡など無意味なものとなってしまう可能性があったからだ。
「すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜」
壇上へと上がった男は一度周囲を見渡してから、目を瞑って深く呼吸をした。その際、一枚の羽根が乗った深緑色の帽子が軽く揺れる。男はそれが落ちてしまわないよう手で軽く抑えた後、目を開いて真っ直ぐと前を見ながら、言葉を発した。
「本日はお忙しい中、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。僕の名前はハーメルン・ルイス。冒険者をしている者です」
魔法王国レムロス。そこは数々の有力者達が生まれ育った国として有名な場所だった。そんな国の中心部である"グリム広場"。男は今、そこに急遽用意された特設台に登り、これからとある懺悔を行おうとしていた。ちなみに男が罪を告白する場所としてこの国を選んだ理由だが、それは男の生まれ故郷がレムロスだったからである。
「たった今から、僕はこの場所で現在犯している罪を告白させて頂きます。そして、その後、贖罪の方法をお手数ではございますが皆さんに決めて頂きたいと思っています。ちなみにこの発言を聞いて不信感を持たれた方はご安心下さい。そこで出された裁定に対して僕は一切逆らうことなく、唯々諾諾として従いますので…………たとえそれが命を以って償えということであっても」
男のこの発言に周囲がザワザワとしだしだ。ハーメルンといえば"笛吹き"という異名を持つ誰もが知るSSランクの冒険者だ。そんな男が何故そういう態度でいるのか、はたまたそこまでさせる何かがあるのか……………野次馬達は話の続きが気になって仕方がなかった。
「まず最初に僕の話が本気であることを証明する為にこれだけは宣言しておきます……………裁定がどういうものであれ、僕は責任を取って冒険者を引退するつもりです。なので贖罪の方法は"冒険者の引退"以外でお願い致します」
その瞬間、広場が驚きの声で埋め尽くされた。
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「はい、次の方どうぞ」
「すまん、団体での入国で頼む」
ハーメルンが壇上へと上がる10分前。レムロスの門前は長蛇の列だった。皆、入国審査を待っており、普段はここまで並ぶことは稀なのだが、その日はどういう訳か列が長かった。というのも皆、ある目的があって入国を果たそうとしていたのだ。
「お、これまた沢山だね〜やっぱり、君達も例のアレを見に来たのかい?」
「ま、そんなところだ」
「いや、私も驚いたよ。まさか、彼までもがレムロスの出身者だったなんてね。本当、ここ出身の有名人は多いよね……………あ、悪いんだけど身分証明書と一応姿の確認もしたいから、被っているフードを外してもらってもいいかな?」
「ああ」
「あ、はいはい。ええと……………お兄さん達、冒険者なんだね……………って、ええっ!?シ、シンヤ・モリタニって、まさか、あの!?それにそこにいる人達も皆、有名な冒険者達じゃないか!?」
門番は提示されたギルドカードとフードを取ったシンヤ達の姿を交互に見ながら、驚きで身体が椅子から3cmほど浮き上がっていた。そんな様子を無表情で見つめながら、シンヤは口を開いた。
「悪いんだが、早くしてもらってもいいか?あまり長居すると目立ってしょうがない」
その言葉を裏付けるようにシンヤ達の周りではザワめきが徐々に大きくなってきていた。それを知った門番は慌てて、ギルドカードを返して、こう言った。
「し、失礼致しました!ま、魔法王国レムロスへようこそ!!」




