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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第2章 クラン結成

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第22話 魔族




「こちらです」


店主に案内された場所は以前、カグヤがいた檻の隣だった。ここは壁が穴だらけなこともなく、特に異臭がする訳でもない。簡素な机と椅子、手のつけられていない食事があるだけだった。奥の方に目を凝らせば、壁にもたれかかるようにして座る何かが、いることは分かるが俺が近付いても反応がない為、正直意識があるのかも疑わしい。


「店主、これは……」


「少々お待ち下さいませ………おーい、お客様だ。こちらに来て、顔をお見せなさい」


その言葉を聞いて、俯いていた顔を上げ、立ち上がった何か。そして、緩慢な動きでこちらへと近付いてくる。薄く差し込んだ光がちょうど真上に降り注ぐとその全貌がいよいよ明らかになった。


「…………お主がそうか」


第一声はとても心地良い音色だった。容姿を言うと、雪のように真っ白でサラサラした長髪。ノエとカグヤの間の身長で体型は非常にスレンダー。肌はとても白く、薄目がちなその瞳は真っ赤に染まっている。痩せこけた頬と身体にいくつもできた痣や跡がかなり痛々しい印象を与え、見る人が見れば、少女に一体何が起きたのか察するだろう。だが、俺が最も気になったのはそれらではない。


「お前は…………魔族か」


頭に生えた2本の巻き角。背中には2枚の黒く美しい羽が生えており、何より口からキバが若干見え隠れしている。


「左様でございます。彼女は魔族………その中でも吸血鬼種にして、王」


「店主………それ以上は言わない約束じゃなかったかの」


「あ…………す、すまん!というわけでして、お客様。こちらが変わり種の奴隷でございます。ここらで魔族は滅多に見かけないかと存じますが、いかが致しましょうか?」


「…………」


先程から彼女のことを見ていて、気付いたことがある。それはここにいるどんな奴隷よりも生気・覇気がともにないのだ。確かにこれから自分が買われるところによってはその後、悲惨な人生を送ることになるかもしれない。そう思うと諦めが生じてくるのは仕方がない。しかし、彼女の場合は何か別のことに囚われていて、それ以外に構っている余裕がないように見える………考えすぎだろうか。彼女がこちらを見てくるその弱りきった瞳が俺を通して、どこか()()()()を探しているように感じられるのは。ふと目を離せば、今すぐにでも飛び出し、己が目的を果たさんとするのは。


「………そこまで彼女のことをお考え頂き、誠にありがとうございます。やはり、私の目に狂いはございませんでした」


「ん?口に出していたか?………それと後半のはどういう意味だ?」


「いえ…………私は職業柄、人間観察が得意でして。聡明な方や偉大なお方ほど、その思考は読みやすく、逆に子供や愚かな者ほど手に余ります………そして、後半の私の言葉ですが………まず謝罪をさせて頂きます。大変申し訳ございませんでした。実を言いますと、あなた様……シンヤ様にお声掛けさせて頂いたのは私の打算からなのです」


「打算?」


「はい。先程、皆様で歩いているところを拝見しました。とても楽しそうにまるでこれからの明るい未来に向かって、進んでいるようなそんな様子でした。しかし、私が最も気になった部分はそこではございません。私の目に飛び込んできたのは以前、店にいたカグヤが今では幸せそうに微笑みながら、その一員となり、確かな足取りで歩んでいっていることです」


「…………」


「こんなに嬉しいことはございません。自分が望む、そして主人からも望まれるとても素晴らしい関係。できれば、私の店にいる奴隷にはそうなってもらいたい。常にこう考えているのです……………奴隷商人として、その考え方はおかしいと仰る方もいますが」


「何がおかしくて、何がおかしくないのかはそいつ次第だろ。だが、1つ言えるのは俺はお前が気に入った」


「もったいないお言葉にございます」


「さっきから、畏まりすぎだ。大袈裟だろ」


「大袈裟ではございません。私にはシンヤ様がただの冒険者とは到底思えません。あなたは今後、何かをやってのける。そう思えてならないのです」


「買い被りすぎだ。あと、お前ら、そこで頷くな」


「いえ、そうでは………これでは堂々巡りですね。話を戻しますと、カグヤをそこまで大切になさっているシンヤ様だからこそ、今回もきっとそうして頂けるのではないかと踏んだ訳でございます」


「なるほど」


改めて、彼女を見る。先程から行われているやり取りも意に介さず、ただ立ち尽くして、話が終わるのをひたすら待っている。その瞳には俺どころか、この世界の何者であっても映ってはいないように感じる…………これは決まりだな。


「店主、この娘を買おう」


「かしこまりました。お買い上げ、誠に誠にありがとうございます!!」








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