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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第2章 クラン結成

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第21話 報告



「おかえり」


「ただいま」


「ただいま戻りました」


ノエ達が帰ってきたのはここを出発してから、2時間も経っていない頃だった。どこか疲れた色の見える顔をしたノエ達だったが、その理由はそれぞれ違っていた。


「ノエは気疲れとアドレナリンの大量放出、アスカは対人戦を間近で見たことの緊張とストレスってところか」


「………疲れた」


「まるで見てきたかのように言いますね」


「事実に基づいた推測だ………まず、ノエだが、自分で背負った使命に燃えて、ずっと気を張ってたし、スキルやら魔法やらをある程度使えば、興奮状態にもなるさ。で、その反動は全てが終わった時、一気にやってくる」


「よく分からない、けど、そう」


「次にアスカだが……初めて、対人戦を生で見てどうだった?」


「はい………すごく緊張しました。空気の張り詰めた感じと勢い、感情のせめぎ合いが一体となって、あの場にいる者に降りかかっていましたし、何よりノエ先輩が容赦ないので………」


「あれは日本のお嬢様にはキツいだろ」


「家柄とか関係なく、日本人なら誰もが目を背けたくなりますよ!…………シンヤさん以外」


「だが、これからはそういう世界で生きていかなければならない。今回のはいい経験だ」


「はい………避けられるならば、避けたいですが」


「じゃあ、俺達の誰かを傷つけようとする者がいたら?」


「八つ裂きにします」


「ほら、お前もこちら側じゃないか」


「………あれ?」


「まぁ、ともかく2人ともお疲れ様。それじゃあ、ゆっくり休ん………ん?どうした、ノエ」


服を引っ張られる久々の感覚。そちらへと目を向けるとノエが何か言いたげに俺を見上げていた。


「そういえば、あいつ、鉄壁、とか言ってた」


「あいつ?」 


「ノエ先輩は覚えてないでしょうから、私が代わりに説明します。それはおそらく、愚狼隊のクランマスター"鉄壁"のガンドルのことですね…………そう言えば、どこが鉄壁だったんでしょうか?紙切れみたいに吹き飛ばされてましたけど」


「言い方、悪いな」


「アスカ、それは、最後の、部分。最初は、耐えてた」


「じゃあ、そこだな。固有スキルかなんか使ったんだろ。となると………はぁ、仕方ないか」


「どうされたんですか?」


「ティア、悪いんだが、今から行くとこができた。先に寝ててくれないか」


「………分かりました。お気をつけて」


「ああ…………アスカ、記憶操作で奴らのクランハウスまでの道のりを共有してくれ」


「は、はい!」


「お前らも先に寝ていろ。俺の帰りを待ってなくていいからな」


――――――――――――――――――――



「よし、これで終了」


俺は今、愚狼隊のクランハウスがあった場所に来ている。未だ戦闘の跡が残る箇所を次々と回り、そこであることをしていた。それは


「結構、集まったな」


奴らの装備の剥ぎ取りとスキル回収である。最初はどうせ、こんな奴らに物珍しいスキルなどないと踏んでいた。それは以前、俺に突っかかってきた隊長の男がそうだったからで他の奴も同じようなものだろうと。しかし、ノエ達の話を聞くにもしかしたら、たまたまハズレを引いてしまっただけで当たりがどこかに眠っているのかもしれないと思い、そのわずかな可能性に賭け、やって来たのだ。そして、ついでに装備も根こそぎ、剥ぎ取ってやろうと。これがその結果である。


――――――――――――――――――――


鉄壁

HPを3割削り、DEFを2倍にする。


炎熱操作

気温や体温を上昇させるスキル。また、味方の火魔法の火力を上げたり、敵の火魔法の火力を下げることができる。


肉体改造

1日1回、使用可能。6時間の間、身体への負担をなくすことができる。


魔改造

1日1回、使用可能。1時間の間、魔法行使の際のMP消費を0にすることができる。


戦士の誓い

1日1回、使用可能。他の固有スキルを使用した際にかかるバフの倍率をさらに1.2倍する。


透過

姿を消すスキル。指定した者だけがその姿を

見ることができる。消費MPは半分。


未来視

1日1回、使用可能。10秒先の未来が見える。


絶対記憶

1度見たり聞いたりしたことを忘れないスキル。


明鏡止水

感情の抑揚をコントロールするスキル。また、スキル・魔法の命中確率が上がる。


――――――――――――――――――――


次の日、俺達は集めた装備と魔物の死体を売りに冒険者ギルドを訪れていた。担当は毎度の如く、マリーである。


「はい、これが今回の分です」


「ありがとう。じゃあ、俺達はこれで」


「ちょっと待っとくれんかの?」


立ち去りかけた俺達を制して、部屋から飛び出してきたのは例の世話焼きジジイ。そういえば、会うのは久しぶりだ。しかし、そんな状況にも関わらず、そいつの顔は少し強張っていた。一応、俺にとっては利のあることが待ち受けているかもしれない。その思いから、今回は従った。


「………一体、何の用だ?」


「おお、話を聞いとくれるか!ではワシの部屋へ」


「聞くだけならな」




初めて入ったギルドマスター室は一言で言うと殺風景だった。とてもシックな色合いの家具・調度品・文具が並び、壁には武器が立て掛けてある。応接室としても使うことを想定して作られている為か上質な素材を使ったスペースがあって、そこは一際目立っていた。しかし、いかんせん、この部屋には圧倒的に華が足りない。打ち合わせだけで使われることを考えるのであれば、それでもいいのだろうが、例えば、貴族や淑女などを迎え入れる時はどうするのだろうという益体のないことを思いながら、ソファーに座った。


「………昨夜、Bランククラン愚狼隊が何者かに襲われ、クランハウスは壊滅状態。生き残った者は誰一人おらず、目撃者も出ていない状況。非常に不可解だが、これだけは確かでの。昨夜、間違いなく何かが起こったのじゃ!」


「不思議なこともあるもんだな」


「単刀直入に聞く………やったのはお主か?」


「俺じゃなくて、こいつだ」


「いやいや、違うなら、いいんじゃよ。疑って悪かったの……………って、やっぱりお主らか!!」


「疑ってんのか、信じてんのか、どっちだよ」


「半々じゃよ!」


「で、それが何?ギルドは冒険者同士の揉め事に不干渉なんじゃないのか?」


「別に責めたり、事情聴取しようなどとは思っておらん。ただ、年寄りの老婆心から一言、言わせてくれ」


「何だ?」


「今回のことでお主らは色々なところ、それこそ上のランクの者達から注目を浴びることになるかもしれん。足元を掬われぬよう、くれぐれも気を付けることじゃ」


「俺達がやったのを知っているのはお前だけなんだろ?」


「そうじゃ。だが、今までの奴らとお主のやり取りから、そこを結び付けて考える切れ者も中にはおる。」


「………了解。頭の片隅に置いとく」


「素直じゃないのぅ………まぁ、ええわい。それとノエ、カグヤ、アスカ、この3名はワシの権限でランクアップできるが、するかの?どうせ、ノエ以外も愚狼隊を相手できるほどの実力があるのじゃろ?もし、そうなら、今のままという訳にもいくまい。ちなみにそれぞれB、B、Cじゃよ。悪いがアスカは最近、冒険者になったばかりなのを考慮して、このランクとさせてもらったがの」


「お言葉に甘えよう」


「最後は殊勝じゃの………まぁ、ええわい。ではギルドカードの更新を忘れるでないぞ」


その後、受付で更新を終え、ギルドを出るとランクアップ組みが随分と嬉しそうにカードを見ていた為、余韻に浸らせてやろうとゆっくり、屋敷までの道のりを帰っていた。


「今日はもう何もしなくてもいいかもな」


たまにはレベル上げや盗賊狩りをやらず、ダラダラと過ごすのもありかと思い始めていた矢先、偶然にも奴隷商のある場所を通りかかり、そこの店主と目が合ってしまった。


「あ、この間のお客様!少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


するとこちらに近付いてきて、申し訳なさそうに言ってきた。


「先日はどうも。それで?」


「お約束通り、変わり種が入荷致しましたので、ご報告をと」


「なん……だと」


それはまさかのタイミングでの出来事であった。





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