第225話 軍団戦争4
「組員をただの一般兵と一緒にするな!必ず2人以上で相手をしろ!それから容姿で侮るな!子供だろうがAランクはあるんだ!」
"碧い鷹爪"の軍団長、ブレスの言葉が周囲に響き渡る。冒険者を始めて、かれこれ20年以上。今までいくつもの難関を乗り越え、その度に喜びや後悔を味わってきた彼。若い頃は己の力不足と不甲斐なさに悩んで挫折を経験したこともある。しかし、その都度、諦めず歯を食いしばって立ち上がり、前を見て突き進んできた。そこから年月が経ち、彼も中堅冒険者の仲間入りを果たした時、ふと気が付いて周りを見渡してみるとそこにはいつの間にか多くの仲間で溢れていた。そして、その数は次第に増えていき、やがては20もの傘下を従える巨大な軍団へと成長を遂げていた。そこまでくると流石に余裕が生まれ、今度は今まで自分を散々コケにした冒険者達への復讐心が芽生えた。それからというもの、お礼参りという形でいくつものクランを襲撃し、力で以って降伏を促してきた。結果、クランを解散する者や冒険者自体を廃業する者、どこかへと逃げ延びる者など様々だったが中でも目の色を変え、忠誠を誓ってきた者達に限っては傘下へと迎え入れ、仲間として扱った。そんな中で迎えたのが今回の軍団戦争である。事前に傘下がいくつか軍団から抜けたりしたものの、ほぼ万全な状態で臨むことができると確信していたブレス達。しかし、そんな自信は舞台となる場所へと着いた瞬間、崩れ落ちた。
「何なんだ、これは……………」
現場の光景を目の当たりにしたブレスの第一声がそれだった。映像の魔道具があるのはまだいい。縄張りとなっている地域へと戦いの映像が映し出されるのだから。彼らにも戦況がどうなっているのか知る権利は当然ある。ところが、本来いるはずのない人物達がこぞって見学しにきているのには流石に理解が及ばなかった。"赤虎"や"大風"、"麗鹿"と呼ばれる有名な高ランク冒険者。それと彼女達に関係するクランや冒険者達、"笛吹き"は審判を務める都合上仕方がないとはいえ、さらっとそこに紛れてギルドの記者までいる始末。これだけの大物達が見学という形でこの場に居合わせるのが通常ではあり得ないことで着いて早々、余計に頭を働かせなくてはならなかった。だが、それも彼らが現れるまでだった。まだ視界にも入らない段階から、威圧感を遠くの方から少しずつ感じ、彼らの姿がようやく見え出した頃、それははっきりとしたものになった。そして、大地を踏みしめながら、ゆっくりと向かってくる彼らを見て、自分達はとんでもない者達に喧嘩を売ってしまったんじゃないかと思い始めてしまったのだ。確かに"黒天の星"の個々の冒険者ランクの高さは知っていたし、傘下も急成長を遂げていると聞き及んではいた。しかし、自分達…………特にブレス自身は20年も冒険者をしているベテラン。ぽっと出の後輩なんぞに遅れは取らないと息巻いていたのだ。それがどうだ。こうして目の前に来て、彼らを視界に納めた瞬間、今まで持っていた勝利のビジョンが霞んでしまった。ただただ対峙しているだけで相手がぽっと出なんかでないことは容易に想像できたのだ。とすると仲間達への口上が真剣味を帯びた注意喚起となってしまうのは必然といえよう。そこに普段のブレスが持つ余裕を仲間達が感じ取れなかったのも致し方ないことだった。
「お前らは幹部を頼む。俺は奴を…………"黒締"を叩く!」
「「「「「了解!お気を付けて!」」」」」
あちこちで仲間達の悲鳴や怒号が飛び交う中、ブレスは信頼のおける古くからの仲間達に背中を預け、敵の将を討つべく動き出した。途中途中、傷ついた仲間が目に入り、立ち止まりかけるが心を鬼にして、真っ直ぐ突き進んでいく。どのくらいそうしていたのだろうか。気が付くと倒れ伏した者達で溢れた場所へと辿り着いた。不思議なことに一切被弾することなく。倒れているのが仲間達だらけな為、思わず、目を覆いたくなったがどうにか堪え、目の前へと視線を向けた。そこから、とてつもない殺気を感じたからだ。するとそこには案の定、ブレスが今一番求める人物が口角を吊り上げながら、立っていた。
「待ってたぞ」
「……………1つ聞く。この者達はお前がやったのか?」
「だったら、どうする?」
「"黒締"……………俺はお前を許せそうにない」
「なんか台詞だけ聞いてるとお前の方が正義の味方っぽいな」
「当然だ。お前の身なりと口調は悪役そのものだ。というより、お前は悪そのものだ」
「ば〜か。正義か悪かなんて、立場によって変わるんだよ。どっちかといえば、お前から喧嘩を売ってきたんだから、悪はお前だろ」
「うるせぇ!俺は最近、調子に乗ってる後輩を痛めつけてやろうとしただけだ!」
「本音ダダ漏れだな。ってことはそこに転がってるお前の仲間って、結果お前のせいでこうなってんじゃん。馬鹿な親に振り回された子は可哀想だな」
「貴様!愚弄する気か!」
「いい気迫だな。よし、そのままかかってこいよ」
そう言うとシンヤは刀を抜き、切っ先を地面へと向けた。
「せっかく待っていたんだ。すぐに終わるなよ?」
直後、鋭い斬撃がブレスへと襲い掛かった。




