第224話 軍団戦争3
「がはっ!?」
「おい、大丈夫か!」
冒険者が戦友に向けて、声を掛ける。たった今、目の前でやられたのは長い間、ライバルとして鎬を削ってきた者だった。そして、それは今も変わらない。"碧い鷹爪"の一員として、またクランマスターという同じ立場として日々、お互いを支え合い高め合ってきた同志。それが目の前で呆気なく散ってしまったのだ。冒険者にとってはそれが許せなかった。
「ふぅ〜…………流石に連続撃破は少しキツイですね」
「"疾風"ウィン……………お前がやったのか?」
冒険者は目の前に現れた緑髪の爽やかな青年を睨み付けながら、言葉を発した。それは本人も自覚する程、とても低い声だった。
「…………貴方は"鉄脚"のアベル。"勇士戦線"のクランマスターですね」
「俺の質問に答えろ」
「いや、とんだ愚問だと思いましてね。貴方の同志が吹っ飛んだ。その近くにいる敵は僕のみ。そしたら、もう答えは出ているでしょう?」
「……………質問を変える。お前、ここに来るまでに一体いくつのクランを潰した?」
「さぁ?そんなの一々数えてないですよ。それと僕はクランというより、クランマスターのみを狙って攻撃しています。それ以外は僕のクランのメンバーがやってくれていますので」
「大体でいい。クランマスターは何人やっつけた?」
「ん〜…………4、5人ってとこでしょうか」
「ちっ!随分と暴れてくれたみたいだな。だが、こっから先、お前の撃破数が増えることはない」
「何故でしょう?」
「俺がお前を沈めるからだ!」
「いいですね〜その殺気。また1人増えそうですね」
「何がだ?」
「決まっているじゃないですか」
「おりゃあ!」
「くっ………"豪雷"ロード。噂通り、派手な奴だ!」
「あん?俺を知っているのか?」
「当然だ。Sランクともなれば、世界中に知れ渡っていても何ら不思議ではない」
「そうか。俺も有名になったもんだな」
「最近は随分と暴れているみたいじゃないか」
「お陰様で毎日、良い刺激を貰っているからな」
「ふんっ。だが、それも今日、この時までだな」
「ん?」
「なんせ俺がお前の快進撃を止めてしまうからだ!」
「ほぅ、いい殺気じゃねぇか。面白い!かかってこいよ!」
「"光槍"ドル!見つけたぞ!これでもくらえ!」
「ぬるいな!」
槍と斧が交わり、甲高い音を立てる。周りの者ははその衝撃によって吹き飛ばされ、地面に亀裂が入る。その場に残ったのは己の武器をぶつけ合う2人の男のみだった。
「くっ…………俺達、"碧い鷹爪"の底力を舐めんじゃねぇ!」
「別に舐めてはいない。油断や慢心は命取り。どんな相手であろうが全力で以って、迎え撃つ……………それがたとえ小さな野鼠であってもな」
「舐めてんじゃねぇか!」
「おい、ギヌ!まだまだいけるか?」
「愚問だね、ガルーヴァ!僕はそんな柔じゃないさ!」
「2人共、私語もいいが今は目の前の敵に集中てくれ」
別の場所ではフリーダムを拠点として活動している3人のクランマスター達が共闘しながら、敵を蹴散らしていた。それぞれガルーヴァ、ギヌ、オーロスといい、彼らのクランも近くで一緒に戦っている。
「ちぃっ!何なんだ、こいつら!」
「"サンバード"、"フォートレス"、"守護団"だってよ!」
「あまり聞かないクラン名だと思って、相手をしてやってたら、調子に乗りやがって!」
「ふざけんじゃ…………うわぁっ!」
「ぐはっ!」
「我ら"威風堂々"と"永久凍土"は軍団の為、全力でお前達を叩き潰す!」
「文句があろうがなかろうが、かかってこい!」
最も活発的に動いていた傘下クラン達の進軍を止めたのはこの2人の男達で間違いないだろう。堂々と立ち塞がり、数でのデメリットをモノともしないその態度は敵を確実に萎縮させていた。
「ひっ!な、何なんだよ、この気迫」
「おかしい。総数では俺達が圧倒的に上回っている筈…………なのに何だ、この自信は!どっから、こんなのが湧いてくる!」
戸惑う敵の冒険者達を尻目にその2人のクランマスターはこう告げた。
「「全ては盟友の為に!!」」
「全てはシンヤさん達の為ですよ」
そう言った少年、クリスは笑いながら、敵を軍刀で斬り伏せる。今し方、質問されたのだ。どうして、そこまでやれるのか。それは一体誰の為なんだ?と。その答えは非常に単純であり、それこそが彼らの存在理由でもあった。
「くそっ、悪魔のような奴らだ。平然と急所を突いてきやがる」
「やだなぁ。それじゃあ語弊がありますよ。正確には急所近くでしょ」
クリス達"黒椿"は傘下の中で最も新参ということもあって、他の傘下達の取りこぼしの処理という役割に徹していた。傘下戦の中では決してメインといえる訳ではないのだが、彼らには一切の不満がなかった。何故なら……………
「影で皆さんを支えるのって凄い達成感ですね〜あ〜気持ちいい〜」
「な、何なんだこいつ!急に笑い出したりして!狂ってやがる!」
「ひぃ〜!く、くるな!」
もしかしたら、彼らが一番悪役っぽく映っているのかもしれないと思わせる瞬間だった。




