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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第11章 軍団戦争

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第218話 ぺったん







「ぺった〜んぺった〜ん」


シリスティラビンから遠く離れた街、チルド。ここは以前、アスカとリーゼが訪れた街である。邪神災害が起きる前はそこまで治安が良いとはいえない街であったが今では打って変わり、治安が良く、子供でも安心して暮らせる街というのが特徴となっている。というのも以前悪さを働いていた冒険者やならず者達は災害で心も身体も疲弊してしまい、それどころではなくなってしまっているのだ。そこに加えて最近、やってきた冒険者達によって悪人は一掃されて、街全体が良い方向へと変わってきている現状というのがあった。その証拠にこの日もとあるクランハウスから子供達の元気な声が響いていた。


「お次の方はこちらへどうぞ〜」


そんな子供達のすぐ近くから優しく暖かい声が聞こえた。それはクラン"黒天の星"玄組副長テレサの声だった。先日、リーゼ率いる玄組はこの街にクランの支部を構える為にやってきたのだ。彼女達はやってきたその日のうちにクランハウスを購入し、街で暮らす者の邪魔をしないよう静かにしていようと心掛けた。しかし、小悪党はどこにでも存在する。彼女達を鬱憤ばらしの対象にしようと思った冒険者達がしつこく絡んでいったのだが、それを無視され、頭にきたのか武器を抜いて襲い掛かってきたのだ。そうなると話は変わってくる。普段は良い子に、だが一度武器を向けられれば容赦はしなくていいと仕込まれた組員である子供達はその冒険者達をものの数秒で片付けてしまった。そして、それを皮切りにして、その後も数十人が襲い掛かり、対処しているうちに気が付けばギルド内はめちゃくちゃになっていたのだ。一部始終を見ていた者達は開いた口が塞がらず、ギルドの職員達は頭を抱えていた。それを見たリーゼ達はもう用はないとばかりにギルドを後にし、以後彼女達を街で見かけても余計なことはしないよう街全体へと広がっていったのである。そんなこんなで悪人はだいぶ減り、現在では彼女達の人気が急上昇中なのだった。


「はい、おじさん!おいしく召し上がって下さいね!」


「ありがとうね。これ、お代」


会計を担当している組員が笑顔で接客をする。それに対し客も笑顔でその場を去っていった。彼の手にはついたばかりの餅が握られていた。


「ぺった〜んぺった〜ん」


「はいっ!はいっ!」


「わぁ〜い!上手くいってる!」


「これ、楽しい〜」


あちらこちらから、子供達の楽しげな声が聞こえてくる。この日はクランハウスの庭で餅の販売を行っていた。これも街の住人や冒険者達と仲良くなる為の一環であった。


「お前、何時から並んでるんだ?」


「昨日の夜からだ」


「やりすぎだろ」


「あの天使達がついた餅だぞ!在庫切れで買えなかったら、どうするんだ!」


「んな大袈裟な」


「いや、そんなことはない!あれを見てみろ!」


「ん?あれは…………何だ?」


「俺と同じ穴の狢。徹夜組だ」


「嘘だろ!?テントまで用意して、中で一夜を明かしたのか!?たかだか、餅だろ!?やることがしょうもねぇ!」


「ふんっ、そんなことで驚いているようじゃまだまだだな……………まぁ、お前もじきに分かるさ」


「分かりたいような、分かりたくないような」


「とにかく、俺達はな……………あの笑顔を守りたい。ただそれだけなんだ」


「だから、こんだけ苦労して並んで買うのか……………餅を」


「ああ」


「あの餅にそこまでする価値があるのかね」


「百聞は一見にしかず。お前も実際に買ってみれば分かる」


「いや、俺はその為に来たんじゃねぇし」


「ん?じゃあ一体何の為に…………」


「う、うるせぇな!別にいいだろ?」


「何か怪しいな……………ん?お前、さっきからどこをチラチラと見てんだ……………あっ!ま、まさか、お前…………」


「な、何だよ」


「そうか。だが、悪いことは言わない。テレサさんだけはやめておけ」


「っ!?な、何で分かったんだよ!……………ってか、やめておけって?」


「いや、この餅販売は今日で3回目な訳だ。で初回の時にお前みたいな奴が下心満載でテレサさんへと近付いていったんだよ。そしたら……………」


「そ、そしたら?」


「一発で見抜かれて、心を折られたんだ。"私は誰ともお付き合いをする気がありません"ってな」


「っ!?そ、そうか……………」


「まぁ、そう落ち込むな。何も悪いことばかりではなかったぞ。現にその男は別のものに目覚めることができたんだからな」


「別のもの?」


「まぁ、平たく言えば"こちら側"に来たってことだ」


「?よく分からんが……………それよりもお前の方はどうなんだよ?リーゼさんや考えたくはないがテレサさんのことを狙って……………」


「安心しろ。俺は小さな子にしか興味がないからな」


「……………は?」


この後、テレサ狙いだったこの男が別の魅力に取り憑かれるのも時間の問題だった。














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