第209話 誤算
「お、ようやく来やがったデス」
「あまりに退屈で眠いの」
王城前は独特の空気が漂っていた。リラックスした様子で立っている2人の少女達に対して、そんな2人を緊張した面持ちで囲む大勢の兵士達。状況だけを鑑みるにどちかといえば立場は逆のはずではあるが、そうならない要因があった。それは2人に隙が一切見当たらないこととまだ殺気すら出していないにも関わらず、強者独特の威圧感が放たれている為だった。これにより、兵士達は迂闊に動くことができず、自分達が仕える王様が現れるのを今か今かと待つことしか出来なかった。そして、その想いが通じたのか、今まさに王が城の外へと姿を現したのだった。
「随分と派手にやってくれたようだな」
王は城の破壊された部分をチラリと見ながら、そう言った。眼光は鋭く、そこから怒りが感じられる。
「お前が早く来やがらないからデス」
「こっちの貴重な時間を無駄にして欲しくないの」
「その特徴的な外見に黒衣、それから幹部以上が身につけているというクランマークの入った金のバッジ。なるほど、噂通りだ……………お主ら、冒険者クラン"黒天の星"の"桃幻鏡"スィーエルと"紫円"レオナだろう?」
「ミー達のことを知ってやがるデスか」
「ストーカー?」
「ストーカーなんぞせんでも有名なクランの情報ぐらいは自然と耳に入る。ふんっ。にしてもワシを前にして、その口の利き方は大したもんだ」
「ミー達は自由を愛する冒険者。なんでお前ごときに気を遣わないといけないデスか」
「おっさん、偉そうなの。あと臭そう」
「そんな安い挑発には乗らんぞ。さっさと用件を申さぬか。お主ら、何か目的があって、わざわざやって来たのだろう?」
「そうデス。ミー達はお前達に報告をする為に来たのデス」
「それならば今し方聞いた。兵士を亡き者にし、ファンドランの暴虐から勇者を助けたとかいうやつじゃろう?随分と大きな口を叩いたもんじゃの」
「それが全てじゃないデス。その先は直接お前に言おうと思って、待ってたデス」
「ほぅ。聞こうか」
その直後、辺りにとてつもない殺気が放たれた。兵士達は身体が恐怖でガタガタと震え出し血の気が引いていった。圧倒的な実力差を感じ、この時初めて世の中には絶対に逆らってはいけない相手がいると本能で学んだ。
「もしも勇者を連れ戻し、また酷い目に遭わせようなんて考えやがったら、どうなるか分かるデスね?」
「もうサクヤはボク達の仲間なの」
「ふ、ふんっ!そんな脅しには屈しないぞ!今すぐお前達のアジトまで乗り込んで…………」
「この国を出てすぐ近くに大きな平原があるデス。戦うと言うのなら、そこを使うデス」
「一生懸命、編成した軍隊を連れてくるといいの。国民はみんな悪くないから、巻き込みたくないの」
「な、何を勝手なことを!そんなのに素直に従っ…………」
続く言葉は彼女達には届かなかった。魔法でその場から転移していなくなったからだ。後に残されたのは呆然とする兵士達と王。しかし、それも数10秒。再び起動した王は大きな声でこう指示を出した。
「おい!急いで平原へと全兵力を向かわせろ!何としてでも勇者を取り返すのだ!」
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「王様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「何を今更。大体、幹部とは言っても序列は下の方じゃないか。それに見ろ。たった2人だ。馬鹿め。そんな人数で一国の軍隊と殺り合える訳がなかろう」
「で、ですが!実際、彼らの怒りを買って滅びた国もあると聞きます。普段は害がないが敵に回すととても厄介だと」
「ふんっ!こちらの兵力を見よ。ほれ、ざっと1万程か。お主はこれでもまだ負ける可能性があると申すか」
「で、ですが!」
「他国に頭を下げて苦労して掻き集めたのじゃぞ!今更、引き返せるか!いいか?勝てばいいんじゃ!勝てば!」
そう言って胸を張る王様。呑気に見物しようと戦場まで足を運んだのはいいが、自分達が負けるとは1ミリも思っていない様子だった。それから5分後、開戦の合図と共に動き出した兵士達。中には冒険者ランクがAやBにも届こうかという者もいた。しかし、そんなことは彼女達にとってはどうでもいいことだった。
「ぐわああああ!」
「な、何だ!」
「や、やめろ〜〜〜!」
スィーエルが大剣を薙ぎ払ったり、振り下ろす度に余波で500人単位の兵士が塵となる。同様にレオナの手から放たれた円月輪も同じ数だけ兵士達を屠っていった。
「ゆ、夢でも見ているのか?」
そこからも魔法や剣技が放たれ、阿鼻叫喚の地獄絵図。結果がどうなったのかは言うまでもないだろう。




