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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第10章 セントラル魔法学院

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第168話 宣言






「世話になったな」


「いえいえ。またいつでも来て下さいね〜」


昨日はあの後、俺達が手土産として持参した食べ物を使って作った料理やこの里でしか味わえないご馳走を振る舞ってもらったりした。その後、里で一泊した俺達は今日にでもここを発とうとしており、見送りに大勢の里の者達が駆けつけてくれていた。そして、代表者として里長が俺と会話をしている状況だ。


「じゃあ、例の件はそういうことで大丈夫か?」


「はい!むしろ、こちらからお願いさせて頂くほどのことですよ!逆にお聞きしますが、本当によろしいんでしょうか?」


「ああ。何度も言うが、サラの仲間は俺達の仲間も同然だ。だから、お前達に対して向けられる悪意を持った行動を今後、許す訳にはいかない」


「ありがとうございます!では今後ともよろしくお願い致します!」


「ああ、こちらこそだ。じゃあ、そろそろ行く。また今度な」


「行って参りますわ!」


「「「「「ありがとう!行ってらっしゃい〜」」」」」


俺とサラの言葉を受けた里の者達は大きな声と手を振る動作で見送ってくれた。俺達もそれに対し、同じように手を振って里を後にした。願わくば、今後彼らの暮らしがより良いものとなって欲しい。そんな想いを込めながら、彼らの姿が見えなくなるまで手を振り返していた。






――――――――――――――――――――






「理事長!これは一体、どういうこと何でしょうか!」


机を叩きつけ、ある男が強い口調で物申す。目線の先にいるのは皺の刻まれた彫りの深い顔立ちに静かな雰囲気を纏っている1人の老人だった。老いてもなお眼光の鋭さは衰えず、貫禄たっぷりの姿勢から周りの者達には"食えない人"という印象を与えている。そんな人物が現在、立場が下の者に責められるという事態に陥っていることに周りで見ている者達はただただ驚き、巻き込まれたくないとの思いから静観を決め込むしか取れる行動がなかった。


「どういうことも何も先程、説明した通りですが」


「だから、それが一体どういうことなのかと聞いているんです!単刀直入に申し上げますと意味がさっぱり理解できません!」


「意味?それはありますよ。直近で起きた"邪神災害"。これによって今や、多くの国民達が戦うことを恐れてしまい、冒険者を辞める者も後を絶ちません。結果、冒険者の数が減り、一般の者であっても最低限の自衛の術すら持たない者が続出しています。それが伝染したのか、学院の生徒ですら、そういう状態で学ぶ姿勢が非常に消極的なものとなってしまっています。ただでさえ、近隣国の学院へ通う少年少女が年々増加し、ここ数年の学院実績は見るに堪えないものとなっているのにです。そんな今だからこそ、私は新たな風をここに吹かせたい」


「だからといって、神聖なる我が学院に冒険者を特別講師として招くなど言語道断です!」


「彼らはただの冒険者ではありません。世界を救った英雄ですよ?それも多くの人々のトラウマとなっている邪神から………………そんな方々がわざわざ、こんなところまでお越し下さり、講師として教鞭まで執って頂ける。これだけで救われる者がどれほどいましょうか?」


「彼らが邪神を討伐したことは聞き及んでいます。しかし、その真偽については懐疑的な者もいましょう。それは何も私だけではなく世界中に……………それと"邪神災害"という名前が付けられてはいますが実際に各地を襲撃していたのはアスターロ教のはずです。これは多くの場所から声が上がっているので間違いありません。一方、邪神はどうですか?その姿自体を視認した者はどれほどいるのでしょうか?あのブロン・レジスターが声高々と宣言したから、証拠はそれだけで十分だと勝手に思い込んでいるだけではないでしょうか?もしかしたら、我々は邪神という実際に目で姿を確認していない、本当はいない存在にただ怯えて毎日を生きているだけなのでは」


「彼らのことを侮辱するのはそこまでにして頂きましょうか。今の発言はブロン・レジスター様のことも貶めるものでしたよ?キルギス、あなたは彼が磔にされている場面をご覧になっていないのですか?」


「……………いえ、拝見致しました」


「でしたら、今の発言はできないはずです。あなたは彼があんな思いをして命の危機に瀕したにも関わらず、その本当の意味で原因となったものが討伐されたと嘘を付いたと言いたいんですか?人々を騙し、後に恐怖を与えようと画策していたと?一体、何の為に?あれだけ現役時代に多くの者を救い"魔剣"という二つ名まで付いた偉大な男がそんな小さいことをするとでも?そこにはどんなメリットがあるとお思いでしょうか?」


「い、いや!だから、ブロン………様もきっと騙されているんですよ!あのシンヤとかいうインチキ野郎に!」


「それこそ、そこにはどんなメリットがあるんでしょうかね?……………知っていますか?アスターロ教の幹部達を各個撃破した者達のことを、それとその部下である教徒達を各地で殲滅していった者達のことを」


「…………………」


「とにかく、今回の件は絶対です。今まではあなた方の意見を全て聞いた上でなるべく良い方向へ着地するような案を取ってきました。しかし、今回だけはそうもいきません。彼らのことを懐疑的に捉えている人がいることは重々承知しております。ですので、これは私の勝手な独断だと思って頂いて構いません。思う存分、責めて頂いて結構です。ですが、彼らをここに特別講師として招くことは確実に押し通させて頂きます」


「……………本気でしょうか?」


「ええ。彼らが来れば、生徒達が今よりももっと良い方へと変われる気がするのです。もしかしたら、それは国民達も巻き込んでいくかもしれませんら。その代わりといっては何ですがもし、今の状態に何の変化も起こらず、むしろ悪化するようなことがあれば……………」


そこで一旦言葉を切った理事長はただただ冷静に周りの者達を見据えて、こう言った。





「私は理事長の職を降りさせて頂きます」









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