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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第9章 フォレスト国

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第158話 とある国のその後






フォレスト国に新しい王が2人同時に誕生した。その報は親交のあった周辺諸国にもすぐ届き、連日連夜、新王達は様々な書類の処理に追われていた。体力がなくなりそうになると回復薬を飲んでは無理矢理身体を起こし、仕事に取り掛かる。これは王子時代にも少しだけやったことはあるが、やはり王ともなるとその規模が違う。捌いても捌いても舞い込んでくる書類。それが山となり、やがて彼らの姿を隠すまでになるのにそれほど時間は掛からなかった。王が変わるということはそれまで前王がしていた業務を引き継ぐということであり、場合によっては新しい外交が増えたり、顔見知りの他国との付き合い方が少し変わったり、はたまた若輩者の王だと舐めてかかり自国を支配し甘い蜜だけを吸おうとする国を追い払ったりなど、いつ胃に穴が開いてもおかしくない仕事をしなければならず、精神的には過酷なはずだった。本来ならば……………しかし、多くの国々において、このタイミングで起こりうるそれらの問題はフォレスト国には一切の関係がなかった。


「ふぅ〜少し休憩にするか」


「だな。兄貴、一緒に飯行かないか?」


「おいおい。公私の切り替えが早すぎないか?誰に聞かれているかも分からないんだぞ」


「おっ、これは失敬。だけどこんなざっくばらんな王も斬新でいいんじゃないか?」


「全く……………いくらなんでも影響されすぎじゃないか?」


そう言って、ディースはチラッと部屋の窓を見た。そこからは城の色々な場所が見え、中でも大きな旗が風で揺れているのがすぐに目に飛び込んでくる。そこにはフォレスト国のマークに加えて黒の外套と刀が重なったマークが描かれていた。


「周辺国にはいい牽制になっているが我が弟に変な影響が出たら、どうしてくれるんだ…………」


「おーい、兄貴!先行くぞ!」


ディースはため息を少し吐きながらも嬉しそうな顔を浮かべ、エースの後を追った。国や民を想う気持ちは誰にも負けていない。だが、それはそれ、これはこれ。今はすぐにでも沢山積み上げられた書類の山という現実から逃れたい2人であった。





――――――――――――――――――――





「くそっ!忌々しい!」


「リツヤタ、落ち着けって!」


「これが落ち着いていられるか!何でよりによって、アイツがっ!!」


「あの〜他の冒険者の方々のご迷惑になるのでもう少し抑えて頂けないでしょうか?」


「あん?なんだ………ぐふっ」


「っとごめんな、受付嬢さん。うちの馬鹿が失礼したようで」


「誰が馬鹿だと!?……………ってマスター!?」


「あ、リチャードさん!いつもお世話になっております。どうぞ、お気になさらないで下さい。慣れていますので」


「慣れているだと!?てめぇ………ぐふっ」


「そうか。そう言って頂けると幸いだ。それと俺の教育が行き届いていないばかりに何度もすまん。こいつにはちゃんと後で言い聞かせておくから、今回ばかりは見逃してくれると嬉しい」


「もちろんです。おそらく、次からは彼もちゃんとしてくれていることでしょうし」


「ぐぬぬ………」


「ほら、ちゃんと謝れ。お前が100%悪いんだから」


「す、すみませんでした…………」


「いえいえ。ですが、今度同じことをなさった場合はすぐにでもリチャードさんにご報告させて頂きますので、そのつもりで」


「ぐっ…………」


「今までもそれと今回も本当にすまなかったな。じゃあ、また今度依頼を受けに来させてもらう」


「あれ?本日はよろしいので?」


「ああ。この後、やることがあるんでな」


「ひっ………」


「あ〜…………なるほど。では本日はありがとうございました。またのお越しを〜」








「すみませんでした。クランとマスター、両方の顔に泥を塗ってしまって…………」


「荒れてるな」


「すみません…………」


「別に説教をしたい訳じゃないから、そうビクビクするな。にしてもそんなに()()が気になるか?」


「……………」


「酷な言い方をするようだが、奴らは俺も含めて、こちらのことなんて何1つ知りはしない。おそらく出会っていたとしても記憶の片隅にも残らないだろう。だから、お前の絶賛片思い中な訳だが……………」


「俺は別に……………いえ、何でもありません」


「…………俺が今から言うことは冒険者として人として先達の者がほざく戯言だと思って聞いてくれ。お前が奴らに対してどんな想いを抱こうが勝手だ。けどな、それが本人に届かないからといって、他の者に八つ当たりするのは違うぞ。そんなことをしている暇があるのなら、もっと他にするべきことがあるはずだ。奴らが見ている世界は俺達のそれとは比べ物にならないぐらい大きくて広い。それこそネガティブな感情を抱いている余裕がないくらい精力的に活動している。だからこそ、邪神討伐なんて偉業を成し遂げられたのだろう」


「………………」


「それに比べてお前はどうだ?地べたを這いずり回り、無関係な者に文句ばかり言う。天を翔けし者にそんなのが届く訳ないだろ。今、お前がすべきことは奴らに自分の存在を認知してもらえるよう努力することじゃないのか?」


「でも、そんなのどうやって頑張ったらいいか……………」


「知ってるか?奴らの傘下クランのランク、最低でもBらしい」


「っ!?」


「どうしたらいいか分からない?安心しろ。上に行きたいのは何もお前だけじゃない。俺達全員で上がっていこう」


「マスター……………」


「それでもって、奴らが羨むぐらい強くなって見返してやろうぜ」


「はい!!」






――――――――――――――――――――






「お、あんたが例の?」


「ああ。リーダーのローンだ。そういうあんたは」


「リーダーのレンタルだ」


「了解。ってことは約束通り、お互いがこうして揃ったということは……………」


「ああ。元第二王子派閥 国民・冒険者混合軍"力持ち"と元第一王子派閥 国民・冒険者混合軍"縁の下"が手を組むということで相違ないな」


「まぁ、あの件があってから何人か辞めた者もいて、メンバーは減ってるがな」


「それはうちも同じだ。まぁ、何はともあれ、こうしてお互いが手を組み、これからフォレスト国を一緒に支えていくということだ」


()()()()()


「ああ。だから、これからよろしく」


「こちらこそ」


時代が変われば体制もまた変わる。それに伴い、今までいがみ合っていた者同士が和解し、状態が軟化していくこともある。また他業務に時間や神経を割き、新たな問題が浮上することもある。はたまた今まではなかった感情が沸々と湧き上がり、新しい世界を切り拓く者だって現れる。そんな大小様々な変化が巻き起こり、やがてそれは国全体に影響を及ぼすものである……………善悪は置いておいて、つい先日現れた英雄がもたらしたもの。それによって、今フォレスト国に新しい風が吹いているのだ。


「…………全てはお主のおかげだ。ありがとう」


前王アース・フォレストは広場の中央に語りかける。人が溢れ返ったその中心を見てみるとそこにはとある英雄の像が不敵な笑みを浮かべながら腕を組んで立っていた。








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