第149話 おごれる人も久しからず
「王よ、お待ち下さい!」
話が良い方向に進み、あと少しで纏まりかけるといった時、突如大きな声が王の間に響いた。その主を辿るととある貴族がシンヤ達を睨みつけながら、怒りで肩を震わせていた。
「わ、私は認めませんぞ!たかが冒険者風情にこの国の主導権を渡すなど!どうせ、好き勝手にされるに決まっておりますぞよ!」
「ステロール公爵よ、失礼な態度や言葉は慎みたまえ。彼らはこの世界を救った英雄だぞ?そんなことをして、彼らに一体どんな得があるんだ?それと彼らにしてもらうのはちょっとした援助であって、なにも主導権を渡す訳ではない。彼らは国政に参加する気もないし、実際に国家を運営していくのは我々だ」
「そ、それは……………だ、だがよく知りもしないどこぞの冒険者なんか信用に値しないですぞ!」
「信用だと?それならば世界を滅亡させようとした邪神を討ち滅ぼし世界を救ったという実績だけで十分ではないか?実力は確かなはずだ。あと先程も申したが、この国をどうこうするメリットが彼らにはない」
「ぐぬぬ……………り、了解致しました。で、ですが一応確認はさせて頂きます。おい、そこのお前!我々に手を貸すなど一体どういうつもりだ!本当にやましい気持ちはないんだな?」
喚く貴族の問いに対し、シンヤが取った行動は……………
「……………」
無視だった。
「おい!貴様、無視をしたな!私を誰だと思っている!栄えあるステロール家の当主だぞ!」
「……………さて、次の話し合いへと進むか」
「貴様!もう我慢ならん!我々の神聖な行事を邪魔しよって!…………おい!お前達、やるぞ!」
男の号令と共に一歩前へと出た数人の貴族達。皆、妬みや嫉み・怒りの篭った視線をシンヤ達に向けながら徐に杖を構え出した。そして、その光景を待っていたかのように突然どこからともなく甲冑を纏った騎士達が現れ、シンヤ達目掛けて走り出した。
「よし、いくぞ!"火の雨"!」
シンヤ達へと武器を振るう騎士達。一方の貴族達はそんな騎士達を邪魔しないよう次々と魔法を唱え、着弾させる。まるで最初からこうするのが決まっていたかのようにとても息の合った攻撃。貴族達はこの状況に興奮していた。
「フハハッ!死ね!死ね!英雄といえど所詮はただの人間。いきなり集中砲火を浴びせられれば、ひとたまりもあるまい!」
それは数分続いた。神聖な場は今や見る影もなく、爆撃の中心地は破壊の跡で酷い有様だった。王や女王はそれをただただ冷静に見つめ、王子達は突然の出来事に困惑していた。他の貴族達は驚きと間近で襲撃を目撃した為、腰を抜かしていた。しばらくするとステロールが攻撃をやめるよう指示した。立ち込める煙や水蒸気によってできた霧によって視界を遮られ、シンヤ達がどうなったのか確認するのは困難だった。だが、それも数秒。次第に晴れていき、そこには……………
「フハハッ!ざまぁみろ!私を馬鹿にするから、こうなる……………って何!?ど、どういうことだ!?」
無傷で立つシンヤ達と首を失った騎士達が倒れ伏していた。爆撃と武器の乱撃の中、如何様にして、この状態に至ったのか。この場にいる多くの者にとってはただただ驚きを隠せなかった。いくら邪神を討つ実力があるとはいえ不意打ちでさらにあの火力である。この時点でシンヤ達の実力が圧倒的なものであることは明白だった。
「さて、次は魔法かのぅ」
そう呟いたのは雪のように真っ白でサラサラとした長髪を靡かせた半神魔の女性、イヴ。いつの間にか手にしていた大鎌の刃先からは騎士達の首を狩った時についたであろう血が滴り落ち、それを妖しく見つめる瞳は真っ赤に染まっていた。
「ひ、ひぃっ!」
「ば、化け物だ!」
慌てて逃げ出す貴族達。しかし、それをみすみす見逃す程、甘くはなかった。
「逃がす訳なかろうて…………光線」
イヴの右手が強烈な光を放ったかと思うと幾本もの光線がそこから放たれ、逃げ惑う貴族達を次々と撃ち抜いていった。
「「「……………」」」
あとに残ったのは静寂。王と女王はシンヤ達の次の行動待ちでそれ以外はあまりの強さに口を大きく開け、固まってしまっていた。
「……………で、次の話し合いなんだが」
「「いや、この状況で続けるのか!?」」
「具体的には俺がこの国に対してまず何ができるのか……………これを俺の方から提案したいと思う」
王子達が口を揃えて放ったツッコミを軽く無視したシンヤは続いてこう言い放った。
「このフォレスト国を俺の縄張りの一部として管轄下に置きたい」
「「!?」」




