第139話 不憫なレンタル
その男が異変に気が付いたのは近くで足音がしてからだった。男は冒険者であり今まで数々の修羅場を潜ってきた。そんな男が尾けられていたことすら気が付かずに足音が鮮明に聞こえる距離になるまでその気配を悟ることも出来なかった。
「止まれ」
途端、まるで金縛りにでもあったように身体が動かなくなった。男には分かった。それが殺気によるものだと。自分よりも明らかに強者の放つ殺気による恐怖から、表情が強張り、身体が言うことをきかない状況。一歩でもここを動いたら、また余計な行動を取ったら、確実に自分の命はないだろう。そう思わせる程の圧力であった。加えて、そういった手練れがどうやら数人はいるようだ。万に一つも自分に勝ち目はないだろう。
「ゆっくりとこちらへ振り返れ」
命令に従い、男は振り返った。真っ先に目に入ったのは特徴的な服装だった。黒衣にそれぞれ武器を持ち、目立つところにとあるクランのマークがある。それには見覚えがあった。
「黒衣にそのクランのマーク………………噂に聞く"黒天の星"か」
「ご名答。ちょっと訊きたいことがあって、声を掛けさせてもらった」
「なるほど…………最低Aランクから構成される化け物クランか。だったら、俺が動けなくなるのも納得だ。ってか、この国に来ていたのか……………ん?もしかして幹部以上もいるのか?」
「幹部の皆さんは非常にお忙しいし、"二彩"の方々やシンヤ様など以ての外だ。一々、他国へ来るだけならば我々だけでも十分事足りる」
「まぁ、そりゃそうか。よっぽどのことがない限り」
「そう。そのよっぽどがなければいいんだがな………………ところで訊きたいことがあるんだが」
「ああ、そういえばそうだったな。何だ?」
「第一王子派閥 国民・冒険者混合軍"縁の下"のリーダー、レンタル……………お前らのアジトの場所はどこなんだ?」
「っ!?な、何故そのことを」
「さぁ?何でだろうな」
「……………俺が仲間の居場所を言うと思うのか?」
「その必要はない。何故なら、直接お前に案内してもらうからだ」
「っ!?な、何だと」
「安心しろ。悪いようにはしないさ」




