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〈完結済み〉俺は善人にはなれない   作者: 気衒い
第9章 フォレスト国

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第120話 レストラン




クラン"黒天の星"のメンバー達が携わる事業が軒を連ねるその一角にそれはあった。その名もレストラン"ラ・ミュラ"。ラミュラが店長を務め、蒼組の組員達が店員として働くそのレストランは連日、長蛇の列を作っていた。実はこのレストランをやりたいと言い出したのはラミュラと組員のエレナであった。元々、傭兵時代に1人で各地を転々とする生活を送っており、覚えていて損はないと料理を一通りマスターしたというラミュラ。それと子供達の為にと一生懸命練習して料理を習得したというエレナ。この2人がちょうど自分達のその強みを活かして何かしたいと思っていた時に俺が何かやりたいことはないかと訊いたのだ。これは両者からして渡りに船だったであろう。そして、現在、主に厨房で注文が入った料理をとんでもないハイペースかつ丁寧に作り上げ、提供しているのだ。ちなみにホールやレジはモールを責任者として、アルスやカナとサナ、そして他の組員達で回している。料理だけでなく接客も申し分なかった。やはりというべきか、うちのメンバー達はできる奴が多い。オープン1週間前の時点で随分と様になっていた。アルス自身も戦いだけでなく、人々とこういった形で接することで他の学びを得て、どんどん人間として成長できると張り切っていた。カナ・サナはなんだか楽しそうとしか言っていなかった。余談だが"ラ・ミュラ"で提供される料理は全て低価格、高品質である。復興等で大変な今、疲れた人々を自分達の得意なことで少しでも癒したいとの思いから、そうなった。他の特徴としては3品注文した客には他の食事処で使える"無料優待券"を渡している。これも酒屋、武器・防具店と一緒で事前にその券が使える食事処へはその分の金額を渡している。さらにこれまた人数制限を設け、1日200人までとすることで他の食事処へ行くはずだった客まで奪わないよう配慮している。しかし、ここで不思議に思う者がいるかもしれない。何故、せっかくある才能やセンスをチャンスのあるうちに使いまくって、一気にボロ儲けしてしまわないのか。今、やっていることは非効率で無意味なことなのではないかと……………これは完全に俺の考え方だが途中から急に参戦しておいて、その業界を独占した挙句、荒稼ぎしようとは思わない。確かにやり方を少し変えるだけで今よりも超効率的で非常に生産性のある稼ぎ方はできるだろう。だが、長い目で見た場合、初めのうちからそのような敵を作るやり方でやっていては後々、苦しくなってくるかもしれない。人生は短距離走でも100m走でもなく、マラソンなのだ。この先は想像しているよりも遥かに長いし、何があるかは分からない。少しずつ着実に顧客を増やし、資金を蓄える。これが堅実であり、無難なやり方だと思う。今はまだ冒険者としての活動によって得られた資金がある。これを早いうちから、新たな事業に投資し、今後の活動の幅を広げることは非常に大事なことだと考えている。したがって、クランメンバー達がこれだけ他の活動に対しても意欲的なのは俺としてもかなり嬉しい。そして、もう1つ嬉しいことがあり、噂を聞きつけた他の街や都市の者までが遠路はるばるやってきて、うちのサービスを利用していってくれているそうだ。それはレストランだけに限らず、酒屋や武器・防具店、塾など様々らしい。口コミほど楽な宣伝はない。まぁ、それもクランの名が邪神の件で広く知れ渡ったからこそなのは間違いないだろうが……………あと聞いたところによると外からやってきたついでにフリーダムの街中でも沢山買い物やサービスを利用して、金を落としていってくれたみたいだ。この2次効果も復興にはかなり大きいはずだ。そんなことを考えながら、俺は注文して届いたものを口に運んだ。何故か、近くにはモールがいて、俺をじっと見ていた。


「…………それにしてもこのパスタ、やっぱり美味いな」


「シンヤ様はそればっかりですよね」


「好きなんだよ」


「え!?我のことをですか!?」


「何でそうなる!?今の流れから言ったら、パスタのことだろ!」


「そ、そうですよね……………どうせ、我のことなんか」


「いや、お前のことも好きだぞ」


「ふあっ!?え、今、な、な、なんと?聞き逃したかもしれないので、できればもう一度!」


「言わねぇよ。周りからの視線が凄いしな」


その後、俺はゆっくりと食事を楽しんだ。視察の一環でやってきて、昼食を摂ったのだが、思わずこの後の予定もキャンセルして居着いてしまいたくなった。それほど満足のいくレストラン。最後に厨房にも顔を出したが2人とも生き生きと動いているのを見て、問題はなしと判断し、レストランを後にした。







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