第114話 商売
「「いらっしゃいませ!!大変お待たせ致しました!ただいま開店です!!」」
あれから2週間が経った。現在、俺はとある店の視察に来ていた。その名も"ニーベル酒店"。1週間前にオープンしたニーベルが店主を務める酒屋である。場所はフリーダムの端であまり目立たないところだからか空いている土地があった為、そこを購入して建物を創造したのだ。おそらく、客の出入りがあまりなく商売に向いていないと思われ、誰も手を出さなかったのだろう。価格もそこまで高くはなかった。しかし、初期費用や人件費、税金のことを考えると急いで黒字にした方がよく、何故このような場所に店を構えたのか不思議に思う者もいるだろう。だが、これはあえてである。そもそも何も勝算がなく、このような手で打っては出ない。これに関しては酒屋と武器・防具店を展開しようと思った時から既に仕掛けは始まっていたのだ。邪神討伐後、俺達はフリーダムやシリスティラビンで復興の手伝いをしていた。そして、それが一段落した後も人手不足のところへ雇われに行っては真面目に働いていた。それもこれも全ては新しく始める事業の為に他ならない。俺達の認知度を高め、恩を売り、さらには接客・販売の仕事に慣れる……………これだけの成果を得られれば特に宣伝などしなくとも場所を選ばず、勝手に客が足を運んでくれるという算段だ。さらにタイミング良く多くのクランが傘下につき、軍団のことも噂で出回るようになった。そこにさりげなく店のことも載せておけば、外からも通ってくれる者がいるかもしれない。また、あちこちに仕事の手伝いに行ったクランメンバーにも仕事先の従業員との日常会話の中にさりげなく、"オープンする予定の店がある"と紛れ込ませて伝えさせた。以上のことから、たとえ辺鄙な場所に店を構えていようが客はやってくるという考えだ。しかし、それならば尚のこと、もっと人目につくような場所の方がいいのではないか?そう考える者もいるだろう。だが、俺は店を出す時から1つ決めていたことがあった。それは同業者の邪魔をしない……………つまり独占を控えるということだ。自惚れではないが俺達が店を構えれば間違いなく、他の店に通っていた客を根こそぎ奪ってしまう。これはほぼ確実である。はっきりいうが質や量、価格が他に比べて圧倒的に良いのだ。例えばだが、質も良くて価格も良心的、さらには沢山購入できる…………そんな夢のような店があれば行かないという選択肢はないだろう。その商品自体を求めていないという理由を除けば。だから、場所はなるべく人目につかないところを選んだのだ。まぁ、それでも客を奪ってしまうかもしれない。そこで1日の人数制限を設けることにしたのだ。ちなみに店の中にはバーのようなカウンター席もあり、7人程がそこで酒を飲んだり、つまみを食べたりできるようになっている。そこを予約席としてまず7人。それから購入目的の客は1日100人にし、限定感を出すことでせっかくだから長くいたいという心理を働かせることで開店前に並んでもらうように仕向けた。そして、ここからが最も重要なのだが酒屋と武器・防具店である一定額購入した者には同業他店で使える無料引換券を渡すことにしたのだ。もちろん、事前に引換券が使われる可能性のある他店には引換券分の金額を渡し、話はちゃんと通してある。つまり、周りと連携してやっていく方針なのである。これによって、うちだけでなく他店に行った客が最初は引換券の為だったはずが他の商品も気になってそれを購入したとすれば、その店にとってもプラスとなる。なんせ、うちは1日に入店できる人数に限りがあるのだ。そこに入れなかった客は他へ行くしかない。とすれば必然的に他店に悪影響はほとんどないと言っても過言ではない。他店の者達も俺の考えに納得してくれた。であれば、今後は誰に気兼ねすることもなく商売を続けていくことができるのだ。ちなみに武器・防具店は酒屋の反対側にあり、こちらも酒屋同様、長蛇の列を作っていた。
「やったぜ!手に入れた!これが噂の酒"小人蔵"か!くぅ〜朝から並んだ甲斐があった!」
たった今、とある客が上機嫌で店を出て行ったのを見て、俺は嬉しくなり思わず笑った。商品・接客ともに問題なし、売れ行きは上々。周りからの評判も良い……………まだ始まって1週間足らず。しかし、これからはもっと上手くいく、そんな未来が簡単に想像できてしまい、ワクワクが止まらなかった。




