私が帰す話 パート⑥
途中、兵士っぽい人たちに遮られたり服従の首輪が反応したりしていたが全て無視して進む。
建物の中へ入り、気配のする先へ急ぐ。
段々薄暗くなり、階段が現れた。
それを降り、牢屋らしき部屋が沢山ある階に着く。
また進んでいくと、廊下の終わりが見えてきて、数人の獣人が集まっているのが見えた。
それらは何やら下品な笑い声を上げている。
私はサァ、と自分が冷静ではなくなる音を聞いた。
私は地面を蹴り、一瞬で獣人たちの元へ到達する。
牢屋の中に、レィティアはいた。
壁に備え付けてある鎖に繋がれ、獣人の一人にのし掛かられているのが視界に入った。
「な、何だテメ、」
「死ね」
私に最初に気づいた男の鳩尾へ蹴りを入れ気絶させ、レィティアにのし掛かる男の首を掴んで壁へ放る。
男は壁にめり込み、気絶した。
「…キリヤか?」
「レィティア。大丈夫?怪我してない?何かされた?というか触られた?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。どうしてここに?」
「それは後で詳しく説明するよ。触られたよね?あいつらレィティアにのし掛かってたよね?」
「…それは、…」
「殺そう」
レィティアが地面に視線を落としたのを見て私は呆然と立つ残りの男たちを見た。
本能的な恐怖だろう。怯えを見せた彼らは逃げようとしたが私は逃がすつもりはなかった。
一人目の背中を蹴り床へ転がったところをまた蹴り飛ばして壁にのめり込ませた。二人目にはナイフを足へ飛ばして後頭部をぶん殴る。最後の一人は頭を掴んで地面に打ち付けた。
倒した男たちを廊下の奥へ放り、私は魔法で水を出して自分の手を綺麗に洗ってレィティアの元へ戻った。
「レィティア、次こんなことがあったら私の名前叫んで。精霊に守護させとくし、あげたネックレスとか改良するから!」
簡単に奪われないようにしてあったネックレスなどの魔具だが、魔力のない獣人には簡単に奪われてしまったようだった。
迂闊としか言いようがない。
私はかつての自分をぶん殴りたくなった。
土下座して謝ると、レィティアは笑った。
「キリヤに謝られることなんてない。キリヤは私に良くし過ぎているくらいだ。来てくれてありがとう、キリヤ」
「っ…本当にごめん。もっと早く来ればレィティアがこんな下衆どもに触られることなんてなかったのに」
「未遂だったから大丈夫だ。それで、どうしてキリヤはここに?」
「歩きながら話すよ。こんなとこさっさと出よう」
私はレィティアを起き上がらせ、鎖を砂鉄に変えた。
異空間から布を出して水で濡らし差し出す。
ちょっと丈が足りないが、私の服も取り出してレィティアに渡した。
レィティアは受けとるのを戸惑っていたが、無理やり渡して着替えさせた。
だって囚人服っぽいんだよ!折角キレイなのに!
え?服従の首輪はどうしたかって?
一応起動している。ローランドは私を止めなかったようだ。
着替えたレィティアと一緒に牢屋を出て、階段へ向かう。
「魔族の国でちょっと事件があったんだけど、それの被害者に獣人がいてね。送り届けに来たんだ。そしたらレィティアらしき人が捕まってるって聞いて急いで駆けつけた。尋問されてるって聞いて居ても立ってもいられなくて…」
「尋問くらいで大袈裟な…」
…まぁ確かに大袈裟だったか?
でも大袈裟にして良かった。
じゃなきゃ取り返しのつかないことになっていただろう。
何だか階段の先が騒がしくなってきた。
私はナイフを構えて臨戦体勢に入る。
が、知った気配が先頭にあることに気づいた私は臨戦体勢を一応解いた。
階段をかけ降りる音がして、ローランドたちが現れた。
そして、
「レィティア!!」
ローランドの後ろから現れたギルが、私を押し退けてレィティアを抱き締めた。
「…ギルバート…?」
そのあと、動揺するレィティアをギルが離さないので抱えて歩けば?と提案すると本当にギルは実行した。
何が何だか分からない、というローランドが私に話しかけてきた。
私はレィティアが乱暴されかけたことを伝え、奥に男たちがいるだろうことを説明。
着いてきていたらしいジャックとクレイが慌てて見に行き、ローランドはとりあえず私たちを別室へ移動させた。
私はギルとレィティアを二人にさせたかったので、ローランドと部屋を出た。
私の姿を見た者は多かったのだろう。
廊下に出た瞬間から視線がいたい。
ローランドを見つけ驚き喜んで声を掛けようとして私を見つけ躊躇する、という行動を繰り返していた。
「あー、視線が痛い…」
「…あれだけの身体能力を見せられたんだ。彼らが躊躇するのも可笑しくはないだろう」
「そうですね。それで、ローランドさんはいつ族長に会われる予定ですか?」
「…これだけ兵舎が混乱している。そのうち族長自ら現れるだろう」
といって会話をしていたら廊下の先が騒がしくなってきた。
廊下から「ぞ、族長!?」「おい、みんな避けろ!」と声が聞こえたので、私たちも廊下の端に避けた。
目の前を灰色の影が通って行った。
私が無言でローランドを見上げると、ローランドは視線を反らした。
灰色の影は何かに気づいたようで、少し遠くで止まったらしい。
「え?族長?」「引き返したぞー!」と声がした。
そして、灰色の影が引き返してきた。
影は真っ直ぐにローランドに向かっていき、激突。
わぁ、痛そう。
「ローランドー!!お前、無事だったのか!いや、本物か?ううむ、判断できん。よし!僕のローランドしか知らない秘密を話してみろ!」
「…そうだな、族長がお化けを見たと言って俺の布団に潜り込んできたことか?あれは確か五年前の」
「待て!それは内緒だと約束したではないか!」
「族長が話せと言ったんだ」
「むう、確かにローランドのようだな…それと、今回の騒ぎのお嬢さんとは貴女だな?」
ローランドから離れた灰色の影は私に向き直った。
丸く大きな灰色の耳が灰色の髪の間からゆれている。
足元には長く細い尻尾が見えた。
彼はローランドに対するのとは違って、冷たい空気を出して私を見た。
「…ん?おや?君はこの間の…」
彼は私を覚えていてくれたようだ。
「確かキリヤさんだったか?ふむふむ。なるほど。君が騒ぎを起こしていたのか。五人ほど半殺しにしてしてくれたと聞いたが?何があったのかね?」
「私の友人が乱暴されかけました。未遂に終わりましたが彼女の心の傷は図り知れません」
「彼らがそんなことを?君たちの気のせいでは?」
「ふふ。気のせいならあの下衆どもの傷を治して差し上げてもいいですよ?」
「…ほう?」
残念ながら、まだ私は冷静ではないようだ。
喧嘩腰の私の態度に族長さんがこめかみをひきつらせた。
可哀想に、ローランドが冷たい空気に当てられて固まっている。
「ふははは」
「あははは」
「…二人とも、せめてどこか部屋に入らないか…?」
そうですね、と私たちは場所を移した。




