幕間④ 賢者のお仕事
お久しぶりです…
えーっと、お気に入り登録300超え記念ということで、今ヴェルトが何をしているのか…という話を載せました。
本編はそのうち載せます、多分…
「いんちょー!起きてー!朝ー!」
「院長!朝ですよ!先生たちが院長に会いに来てます!」
12、3歳の少年と6歳ほどの少女がベッドの上の膨らみに話しかけていた。
少年と少女は痺れを切らし、膨らみの布を引き剥がす。
中から現れたのは二十代後半の青年。
うつ伏せの状態で枕に顔を埋めていた青年は気怠そうに枕から顔を上げた。
「…あぁ?誰が来てるって?」
「セロン先生とウィルエルド先生が来てます」
「いんちょーがやくそくのじかんに来ないって怒ってたよ!」
「………約束なんかしてたか?」
「知りませんよ。シスターが居ないからってだらけないでください!」
青年はうつ伏せの状態から身体を横向きにして、肘を付いて頭を上げた。
寝起きで怠そうに伏せられた目は青年の冷たい印象の瞳を妖艶に変え、服の襟からは青年の引き締まった身体が見て取れる。
もしここで妙齢の女性が居たならば青年の艶やかさにため息を吐くか頬を赤く染めただろうが、生憎ここには少年と幼女しかいない。
シスターと呼ばれる少女が居てもきっと妙齢の女性と同じ反応は取らないが。
青年は子供たちに急かされ、のろのろと上体を起こしやっとベッドの縁に腰を掛ける。
「…キール、ミリア、服くれ」
「やだー」
「いやですよ」
「…取ってきてくれ」
青年のやる気のなさそうな態度に、少年はいい加減にキレた。
「それならシスターの部屋で寝ないでくださいよっ!」
青年…ヴェルトはあの後キール少年に懇々と説教を受け、食堂でぐったりとテーブルに突っ伏していた。
「…おーい、ヴェルトー?」
「そっとしとけ。子供らに色々言われて傷ついてんだよ」
「そっか。まぁ6歳の女の子に変態って言われたら傷つくからね」
「…うるせぇよ」
ヴェルトを呼んでほしいとキール少年に頼んだ男爵家の執事のセロンとAランクギルドメンバーのウィルエルドはヴェルトの前に座って出されたお茶を飲んでいた。
今日のお手伝い当番の子供たちが淹れたのか、だいぶ渋みがあった。
セロンたちは視界の端に目をキラキラさせた子供たちを見て、お茶の感想を伝えてお土産のお菓子を渡す。
お菓子は子供たちに連れられさっさと食堂を出て行った。
「…何か、あの子たちキリヤがいないと俺らに対して冷たいよね」
「そりゃキリヤの前ではいい子にするだろ。あいつらはキリヤが好きだからな」
「そのキリヤは今どこにいるの?長い間帰って来てないみたいだけど」
セロンとウィルエルドに聞かれ、ヴェルトは深くため息を吐く。
「深いね」
「深いな」
「…あいつは今魔族の国にリタ連れて出張中だ」
「え?リタってまだ7歳くらいの女の子じゃなかった?」
「リタが魔族に気に入られたらしくてな。契約するみてぇだ」
「…本当に、何でおまえらの周りは規格外が集まるんだろーな」
「言っとくがお前ら二人も規格外だからな」
セロンとウィルエルドは「そんなことはない」と否定していたが、もしここにキリヤという少女がいたら「ミゼンとやり合えるってことは規格から外れてるってことだからね?」とでも言いそうである。
「それで、キリヤが出張して何日目?」
「…二週間目だ」
「あー、確かに二週間も会わないことはなかったな」
「それで寂しくなってキリヤの部屋で寝てたんだ」
何も言い返せないヴェルトは話を反らすことにした。
「…で、お前ら何の用だよ」
「あぁ、そういえばそうだった。ウィルから先にどうぞ」
「おー。ギルドマスターとの約束があったらしいじゃねぇか。一昨日から来ねぇって嘆いてたぞ。俺も同席してやるから安心して来い。つーか絶対来い。来ないとギルドマスター連れて孤児院訪問するぞ」
「…チッ」
「次は俺からね。王様がヴェルトが最近来ないから心配してたんだ。学園にも行ってないんだろ?それでメアリア様に連絡が来たんだ。とりあえず今日軽く王様に会っておいでよ」
「…面倒くせぇ…」
動く気配が無さそうなヴェルトを見て、セロンとウィルエルドが動いた。
「じゃあ先にギルドマスターのところかな?」
「そーだな。早く終わらせて飯食いに行こうぜ」
「ミゼンも呼ぼうよ。たまには男爵じゃなくてただのミゼンに戻すことも必要だし」
「おー、いいな」
「おい待てお前ら!!引きずるな!…おいー!!!」
ヴェルトの叫び声が響いた気がするが、生憎子供たちはお菓子に夢中だし、孤児院に住む大人はエレナしか居らず、セロンとウィルエルドを止める気は全くなかった。
ギルドに連れて行かれたヴェルトは髪色を黒に変え、容姿も少し若くした。
ウィルエルドと連れ立ってギルドに入るとうるさかったギルド内が一瞬にして静まり返った。
というのも、このギルド内に七人しかいないAランクのギルドメンバーであるウィルエルドは有名人であり、その有名人と現れたヴェルトに注目がいったようであった。
しかも、他のAランクの六人が次々とヴェルトに話し掛けに行ったため、余計にヴェルトは目立つこととなった。
注目を浴びたままギルドマスターの部屋まで連れて行かれたので、「あの若い男何者だ!?」と当分話題になるのだが、本人であるヴェルトは知らなかったりする。
ギルドマスターは初老の男性で、かつてはウィルエルドたち同様、Aランクとして名を馳せたと言われるほどだった。
「おう。久しぶりだな、賢者」
「ふざけた内容だったら殺す」
「一昨日から待ってるオレにそれはねぇだろ…つーかまぁまぁ重要な内容だぞ」
ギルドマスターから話を聞かされ、ヴェルトは眉をひそめた。
隣に座るウィルエルドは驚きと困惑でいっぱいだったが、自分でどうにか出来る話ではないので、口を挟まず大人しく話を聞いた。
「…話は分かった。キリヤが帰り次第動く」
「あの嬢ちゃんは出かけてるのか」
「まぁな。付き合わせて悪かったな、ウィル」
「気にすんな。手伝えることあったら言ってくれ」
「分かった。ありがとな」
中々真剣な様子で話は終わり、ヴェルトはセロンに連れられて王城へ向かった。
今度は容姿を老人に変え、王城へと来ていた。
セロンとウィルエルドも王城へ入り、騎士団の見学へ向かった。
一人残されたヴェルトは衛兵に連れられアルテルリア国王、レオナルドの私室へ来ていた。
衛兵はヴェルトを案内したあと部屋を出て行き、部屋にはヴェルトとレオナルドだけになる。
ヴェルトは部屋に結界を張り、容姿を普段の姿に戻した。
「賢者様。お久しぶりです」
「…何の用だ」
「ギルドマスターから話は聞いているとは思いますが…」
「それは俺たちが対処する。もし手伝って貰うことがあれば連絡する」
「そうですか。分かりました。…それとどうやら私の娘と息子にキリヤさんが会ったようなのですが」
「…は?聞いてねぇぞ」
「私も先程聞いたのです。セェルリーザに向かう途中でキリヤさんと思われる少女に会ったと息子が言っておりました。また、娘は少女の名前をキリヤだと言っていました」
「あー…あいつが帰ってきたら聞く」
「キリヤさんは出かけていらっしゃるんですか。ですから賢者様がやる気が無いのですね」
「うるせぇよ」
レオナルドはヴェルトに睨まれたが涼しげな顔で視線を流した。
それからレオナルドの子供自慢が始まり、臣下の愚痴から王妃に対するのろけを聞かされ、ヴェルトは「俺は相談されに来てるんだが」と虚ろな目をしていた。
普段やられても鬱陶しいものなのに、機嫌の悪いヴェルトにとってはぶちギレて城をぶっ壊しても可笑しくはないのだが、まぁとりあえず今のヴェルトに魔術使うだけの元気はない。
適当に話を聞き流してさっさと退室し、セロンとウィルエルドのいる騎士団を訪問して少し見学してから、3人は王城を後にした。
かつて、暗殺集団として仕事をしていたメンバーが、酒場に集っていた。
彼らは男爵家の使用人であったり、ギルドのメンバーであったり、国に仕える騎士だったりする。
微妙な仲の関係だった大人組と子供組もいまではすっかり打ち解けていた。
彼らが集まると、話題は組織時代の頃の思い出か自分たちの現在の家族ののろけになる。
あるいは、未だにくっつかないヴェルトとキリヤの話か。
酒豪であるヴェルトだが、それは酒を飲む時にアルコールを分解するよう魔力が体の中で勝手に作用するからで、意識して魔力を操作すれば、常人のように酔うことも可能だ。
「…んだよ、クソ…なんで今回は一緒に行ったらいけねぇんだよ!」
「うわー、酔ってる酔ってる」
「おい誰だよこんな強い酒飲ませたの!」
「あ、ごめん俺だ」
「面白いからもっと飲ませようぜ!」
「…おい、みんな、あまりヴェルトで遊ぶな…」
「たまにはいいだろ。それよりミゼンも飲んでるかー?」
そこそこな人数集まっているため、酒場はほとんど貸切状態だ。
それに、Aランクギルドメンバーが全員揃っている場所においそれと近づけないと思う者は多かったりする。
久しぶりの全員揃った飲み会で、周りに気を使う必要がないとくれば、彼らがそれから調子に乗るのは簡単だった。
翌日の早朝、彼らは酷い頭痛と吐き気と戦いながら、頭を押さえ自分たちの住処に帰っていくのだが、今の彼らは知るよしもなかった。
早朝、孤児院に帰ったヴェルトは子供たちに問答無用で風呂に突っ込まれ、部屋に連行されて行った。
ウィルエルドは組織時代教師役をやっていたうちの一人で、トレイスさんです、多分。
トレイスについては組織を解散するときにチラッと登場しています。
セロンはアルバです。分からない方は是非読み返してくださいね!笑
最初、ウィルエルドは約束破ったヴェルトに怒っていたのですが、キリヤが居ないと聞いて(それは仕方ねぇな、うん)と思っていたりしました。
だってヴェルトは元々やる気ない人間なんですもん!




