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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が協力する話 パート③

 

 

 

 

私の嫌な予感とは、大体が的中する。

学園でのこと然り、エルフの里のこと然り…

そして、今回。

ナーダたちは全て部屋の隅で倒れていた。

リタを守る役目を負った者は大体が気絶していると考えていいだろう。

肝心のリタだが…

流石神様、無傷でしたー。

あのブレスレットにありったけの魔術注ぎ込んだ甲斐があったぜ。

リタはナーダに多い被さるようにして座っている。

さて、こうなった原因だが。

私と駆けつけたユリアーデとアトゥーロ様は部屋の中心で狂って鳴く、異形の姿を視界に入れた。


「何、あれ」

「あれがキメラです」


ユリアーデがぽつりと漏らした言葉に私は返事を返した。

前回よりもパワーアップしている。

あくまで力は、という点ではだが。

ベースを魔族にしているのか、キメラから感じる魔力は恐ろしいほどに強い。

アトゥーロ様たちより遙かに凌駕している。

しかし、精神的な面ではディグザムに遠く及ばない。

正気を失っている時点でディグザムの異常さを見せつけられた気分である。


「なんだあれ。儂らではどうにも出来んぞ…」

「なら、私が相手しますか?」

「…いい。私が、やる」


アトゥーロ様が嫌そうな顔をしたのを見て私が相手をしようかと思ったのだが…

それより早く、ユリアーデが駆け出していた。

ユリアーデが向かって来た事に気付いたキメラは涎を垂らしている顔をこちらに向けた。

キメラは右腕をユリアーデに向け、魔法を放つ。

透明なそれに、私は思わず眉を顰めた。

透明、ということは全属性が込められているということだ。

ユリアーデはそれを左にズレることで避け、魔法で剣を作った。


「っ!、き、キリヤ殿!ユリアーデたちを覆うように結界を張ってくれ!」

「はぁ」


私は言われた通りにユリアーデとキメラを覆うように結界を張った。

もちろん戦いに支障がないレベルで。

ついでに別件で魔力を集める。

ユリアーデは、剣を持ったままキメラに向かう。

キメラは魔法を放つが、ユリアーデは全て交わしていく。

そして、間合いに達した瞬間。

剣が、光った。

黒と白の光が入り乱れ、それは段々と絡まり合い、混ざり、灰色になった。

私はつい思わず結界を三重掛けした。


「…ふーん。なるほどねぇ」


それは”無“という属性だ。

人には使えず、魔族ですら扱うのは不可能だと思っていた属性。

まさか、使える者がいるとは。

…だが、困ったことになった。

実は結界を張る際に集めていた魔力でキメラを作った者の捜索をしていたのだが…

弾かれた。

多分、そこまではヴェルトもきたのだろう。

それから、ちょっと本気で捜索を続けたのだが、残念ながら不可能だった。

ユリアーデが無を使ったのも大きいが、追えなかったのである。

ううむ…これはなぁ…

色々な憶測をしてみたが、結局のところ最悪の結論にしか達しない。

うわぁ、マジか…

私がそんなことをやっているうちに、灰色の光が収まりつつあった。


「ユリアーデ!」


隣でアトゥーロ様が叫んだが、結界を解くことはしなかった。

今解いたらこの城まで消えそうである。

光が収まり、やっとユリアーデたちが見えてきた。

結界の中の光景を見て、私はほぉ、と感嘆の声をあげた。

結界の中には、ユリアーデの他に魔族が二人と魔獣が一匹、エルフ、獣人が一人ずついた。


「キリヤ殿。一体何があったんだ?」

「えーっと…」


私は説明しようかと思ったのだが、ユリアーデのほうがキツそうだったのでアトゥーロ様の言葉を無視して結界を解いてユリアーデに近寄った。


「ユリアーデさん、大丈夫ですか?」

「…あ、ぁ、キリヤ、か…ちょっと、疲、れた…」

「ユリアーデ。儂に掴まれ」

「…う、ん…」


後ろからついて来ていたらしいアトゥーロ様がユリアーデを支えた。

ユリアーデはおとなしくアトゥーロ様に寄りかかり、暫くすると寝息をたてた。


「…まったく。無理するなといつも言ってるんだがな」

「大変ですね、魔王の影武者は」


私がそう言うと、アトゥーロ様は苦笑した。


「本当に、な。儂はユリアーデに適う力などないのに魔王なんぞやらされている。キリヤ殿と違って先程何が起こっていたかすら分からん。何故ユリアーデは儂など指名したものやら」


何となく分かっていたのだが、本来の魔王はユリアーデだったのだろう。

魔王は魔族の中で一番強い必要はないのだが、魔族をまとめ上げる力は必要である。

ユリアーデにはその素質が最も強い。

だが、ユリアーデは魔王になることを拒絶した。

代わりに、その次に素質の強いアトゥーロ様が魔王をやっている、というわけである。


「…それで、何が起きていたか教えて貰ってよいか?」

「いいですよ。ユリアーデさんは光と闇、両方の属性を持ってることは知ってますよね?」

「あぁ」

「その2つが混ざり合うと、新しい属性が生まれるんです」

「無、だろう?」


おや、よく知ってるな。


「その無というのはどんなものかは?」

「…全て消し去るとしか知らん。過去に魔族に無を持っていた者がいてな。そいつは無を使った瞬間に死んだ…いや、消え去った。存在まで消してな」

「…アトゥーロ様はどうして知ってるんですか?」


存在まで消えてしまえば、知っているはずなどないのだ。


「儂の友人で、ユリアーデの姉だったからな…儂は覚えていなかった。ユリアーデだけが覚えていた。泣きながら儂に訴えたユリアーデの言葉を疑うことはできん」

「…なるほど」


無の属性を使えるユリアーデだから覚えていたのだろう。

ユリアーデの姉が消していった行為自体を消したのだ。


「…ユリアーデさんは、キメラを作った過程を消したんですよ。彼らを作ったことなど無かった、ってしたんでしょう」

「…そもそも無というのは何なのだ。そんなモノがあるなら、世界など消えてしまうだろう。それに…」

「あったことが無かったことにできる。魔法も魔術も万能ではありません。全て消し去るなんてできませんよ。色々と制約があるんですが…これは無の属性を使える者にしか理解できない感覚なので、教えても無駄だと思います」


アトゥーロ様は私の言葉に悔しそうに唇を噛んだ。

…理解か。


「ユリアーデさんが大切なら、側にいないと。ユリアーデさんのお姉さんが何を残していったか知りませんが、あなたはもっと自信をもってユリアーデさんを愛したほうがいい」


私が眠るユリアーデの髪を撫でながらそう言うと、アトゥーロ様は真剣な顔でユリアーデの頬を撫でた。



 

 

 


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