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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
81/134

私が困惑する話 パート②

大変遅くなりました!

すみません>_<


 

 

 

 

私には魔族の伝手がない。

この間の秘密裏に行われた会議では、確かに魔族も参加していたのだが、その人物?は老齢で、自分以外どうでもいいという方だった。

どうしてそんなやつが会議に出てるんだよ、という指摘は聞かないことにする。

聞かれても困る。

一応話しかけてみたのだが、その方は「…すまんが今から温泉に行くところなので話があるなら後日」と言って帰ってしまった。

あの分だと会議の内容が魔王に伝わっているかも怪しい…というよりもあの魔族に会議の内容が伝わっているかの方が怪しい。

…何であの人来たんだろう?


考え込んでいるリタに私は声を掛けた。


「リタ、今すぐ決めなくてもいい。それに契約するならナーダさんの同意もいるし。ゆっくり考えればいいんだよ」

「…うん」


リタは考え込んだまま、私に返事をして森を出て行った。

リタの気配が完全に森から出たのを感じると、ナーダから声を掛けられた。


「…あなた、どういうつもり?」

「何がですか?」

「リタに契約を勧めたことよ。リタは常人より少し多い程度の魔力しか持ってないじゃない。あたしたち魔族と契約することの意味を分かってるの?」


私はふっと笑った。


「ナーダさんこそ。分かっているならどうして止めなかったんですか?」

「…それは、リタと一緒にいたかったからよ。あなたに言われなくても、あたしから契約の話は持ち出していたわ」

「はは…だから勧めたんですよ」

「…?」


力の格差が激しい者同士が契約することは、力の無い者が力の強い者に引きずられることを意味する。

例えば私の弟のハルトだが、ハルトは元からチートと呼べる魔力を有し、成長した今は国で一番の魔力量を持つ。

故に精霊王二人と契約してもそう影響は受けない。

しかし、リタは違う。

リタの場合は常人レベルから抜け出していないし、ナーダは魔族の中でも五本の指に入る実力者という。

それなら、リタはナーダに引きずられ、魔力も、身体も、寿命も変わるだろう。

魔力は人を凌駕し、身体は魔族のそれに近づくだろうし、寿命も伸びる。

それを分かっていて契約しようと思ったなら、ナーダはリタを守るだろうと、リタと共にあることを選んでくれるだろうと思ったのだ。


「…まぁいいわ。この結界もあたしたちに影響あるものじゃないし、リタに契約の話もできたもの。ここに用はないわ」

「そうですか…あぁ、そういえば魔王様はどのような方ですか?」

「…何故そんなことを聞くのかしら?」

「いえ、この間の会議の内容が伝わってるかと思いまして」

「会議?…知らないわね」

「アトゥーロ様はご存知ですか?」


アトゥーロ、というのが会議に出席した老齢の魔族の方だ。

彼は魔族の中でも地位が高いと聞いていたのだが…


「…あなた、知らないのね」

「へ?」

「アトゥーロ様が魔王様よ。今は温泉地へお出かけだけれど」

「…マジですか…」

「マジよ」


視線を明後日の方へ向けた私にナーダが申し訳なさそうに肩を叩いた。

…あぁ、魔族の皆さんも苦労してらっしゃるんですね…







孤児院に帰れば、リタが待っていた。


「シスター!」

「リタ。ただいまー」

「うん、おかえり!あの…ナーダは?」

「ナーダさんなら帰ったよ?あ、そうだ。今度リタも魔族の国に行かない?ナーダさんが連れて行ってくれるって」

「えっ!?…行く!行きたい!」

「うん、分かった」


リタが私の服の裾を掴みながら必死にそう言ったので、私もリタの頭を撫でて頷いてあげた。

安心したリタを子供たちのところへ行かせ、私は建物からこちらを睨むヴェルトのところへ行った。


「…ヴェルトって目つきそんなに悪かったっけ?」

「ちげぇよ。睨んでんだ」

「…えぇー…睨まないでよ」

「キリヤが勝手なことするからだろ」


ヴェルトの物言いに少しカチンときた。


「…ねぇ、心配してくれてるのは分かるけど、私が全部ヴェルトに報告する必要はないよね?」

「心配させてるようなことしてる自覚があるんじゃねぇか」

「まぁね。でもヴェルトのその心配は私が何処かへ消えてしまわないかの心配でしょ?」


私の言葉が的を射ていたのが、ヴェルトが動揺する。

私はヴェルトを安心させるようにヴェルトの手を握った。


「私はどこにも行かないし、私の居場所はヴェルトの隣って決めてるから、そんなに心配しなくていいよ」

「っ…」

「だから、ヴェルトは今回はお留守番ね」

「…は?」


私はヴェルトに向かってニッコリ笑ってそう言った。


「おい、待て…」

「最近二人で留守にしてばっかりだし。子供たちも心配するだろうから。ね?」

「だが魔族のとこだろ?リタも一緒なら…」

「いいから。てか魔族全員と一度に戦っても勝てるし」

「…」


ぐっと詰まるヴェルトは未だに何か言い出そうだったが、私の無言の圧力に負けたようだった。


そんな様子を、エレナさんとトーマが見ていて、エレナさんは苦笑いを漏らし、トーマは我関せず、といった態度だった。







「…ちょ、ヴェルト…っ!」

「諦めて俺に預けろ」

「や、やだ!」

「…いい加減、観念しろ」

「いや…あ、あぁ!」


私の手札からハートのエースが抜き取られ、手札にはジョーカーが残った。

テーブルに突っ伏してうなだれた私をエレナさんが慰めてくれた。


「…また負けた」

「キリヤさんってトランプが苦手なんですね」

「うう…違いますよ…ヴェルトとトーマが結託して私を負かせに来てるんです!」

「え?そうなんですか?」


エレナさんは首を傾げてトーマに聞く。


「人聞きの悪いことを言わないでくれますか?私が賢者様を負けさせるはずがありませんし、エレナが最下位というのはありえません。よってあなたが最下位になっただけです」

「ほら!」


トーマの物言いに、エレナさんは苦笑する。

私のトランプの能力なんて常人レベルだから、やりなれたトーマには劣るし、そのトーマがカバーするヴェルトとエレナさんにも負けてしまうわけだ。


「うぅ…」

「…あぁ、そうでした。キリヤさん、魔族の国へ行くというのは本当ですか?」

「うん…」

「でしたらこれを魔王の補佐に渡して下さい。


トーマは懐から何やら手紙を取り出した。

私は首を傾げながらそれを受け取る。


「補佐?それどんな人?」

「ナーダという魔族に聞けば分かるでしょう。中を見ても構いませんが、リタには見せないで下さい」

「いや、さすがに人の手紙を見るほど性格悪くないし。うん、承りました」


私は快くトーマからの手紙を受け取り、異空間へ入れた。

それから、トーマは何やらエレナさんに耳打ちすると、エレナさんは笑って私に向かって手招きした。

私はエレナさんに連れられ、少し離れた場所へ行く。


「どうしました?」

「ふふ。トーマさんが、賢者様をちゃんと宥めて下さいって言ったんです。私からもお願いします」

「あー…」


ヴェルトは未だに少しふてくされている。

そのヴェルトをちゃんと宥めていけ、と。


「賢者様は本当にキリヤさんを大切に思っていらっしゃいますから」

「まぁ…分かってはいるんですけどね…うん、今日は添い寝でもしてあげようかな…」

「それはちょっと…」


エレナさんに止められ、私の計画はヴェルトにお菓子を作ることに変更になったのだった。



 


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