私が送る話 パート④
「…で、なんでソラまで一緒に飯食ってんだ?」
「いんちょーとシスターと食べたかったから」
あれからヴェルトにソラについて話した。
ソラは仕込みがあるからと一旦別れ、私はヴェルトと共にアリアさんのところへ行った。
アリアさんから晩餐会に招かれ、今に至る。
この晩餐会ではアリアさん、フェルドレグさん、レィティア、ヴェルト、私、ソラが席に着いている。
アリアさんはソラを気に入っているらしく、私とヴェルトの知り合いとわかると同席させてくれた。
ソラは私が作ったなんちゃって和食を食べている。
「…」
「いんちょー。そんな物欲しそうな顔すんなよ。あげねぇけど!」
「…キリヤ、あとで俺だけにお菓子作ってくれ」
「え、いんちょーずりい!俺も!」
私とヴェルトでソラを挟んで席についているので、横の騒がしさを横目で睨む。
「ソラはそれ作ったからお菓子はヴェルトだけね。ソラはマナー守って食べろって言ったよね?箸の持ち方直せ」
「ごめんなさい…」
なんちゃって和食だから一応箸である。
孤児院の子供は洋食のマナーと和食のマナーを基本的な部分仕込まれているため、どこに出してもそう恥ずかしくはない。
ソラは昔から箸の持ち方が下手くそで、今でもまだ直ってないらしい。
「キリヤ様がソラに料理を教えたっていうのは本当?わたしもキリヤ様の作ったものを食べてみたいわ…」
「なら後でヴェルトのお菓子のついでに何か作りますよ」
私はアリアさんにそう返して悩む。
さて、何を作ろうか…
お菓子はほとんど再現はできるだろう。
ただしチョコレートだけは不可。
もういっそのこと神様に聞いてみようか…
異空間には調味料その他は常備しているため、何でもいける。
というか野外でも簡単なお菓子を作れる。
…あれ、よく考えたら私最強じゃね?
あんなに美味しいお菓子を作れるのが今のところこの世界に私だけとか…
あ、なんかの教祖になれそう!
「ヴェルトは何がいい?」
「そうだな…この間言ってたプリンってやつか?それ食ってみてぇ」
「うん、りょーかい。じゃあ皆さんにはアップルパイを作ろう」
私は頭の中で作る工程を思い出しつつ、横でうるさいソラをヴェルトに任せた。
…ん?私いつプリンの話した?
「…!」
「…ほぅ…」
「なんっ…」
三者三様の反応を見せてくれたのが上からフェルドレグさん、アリアさん、レィティアだ。
彼らは私の作ったアップルパイを食べて固まっている。
ついでに、こちらの世界でリンゴはローロと言うのでローロパイである。
「これは…」
「素晴らしいわ、キリヤ様。ローロの実がこんなに芳醇になるなんて…」
「…本当にな。こんなもの、食べたことがない」
フェルドレグさんは不思議そうにローロパイを眺め、アリアさんはうっとりと夢現、レィティアは感激して嬉しそうにたべている。
そこまで反応されると困るのは私である。
まぁ確かに珍しいかもしれないけど。
「うーん、喜んで頂けたようで何よりです…」
「やっぱりキリヤが作ったもんが一番美味いな」
「いんちょーに同意」
「…何で2人まで食べてるのかな?」
隣を見ればヴェルトとソラもローロパイを食べていた。
おかしい、私はこいつらにあげる予定はなかったはず…
「美味そうだったから」
「あ、俺は料理人としての研究ということで」
「…はぁ…」
おかけで私の分がない。
こいつらちゃんと私のも取っておけよ!!
「ほら」
「え?むぐっ」
ヴェルトに口にフォークを突っ込まれ、私は慌てて口に入れられたらローロパイを食べた。
…ちょっと焼きすぎたかな…?
「シスター、俺のもあげるよ」
「ちょ、」
今度はソラがフォークを突っ込んできた。
その様子をフェルドレグさんは生暖かい目で見てきて、アリアさんはニヤニヤと、レィティアは目を逸らした。
頭上では、私を挟んで火花が散っている気がした。
「アリアさん…」
「あらあら、キリヤ様ったら両手に花ね」
「花?これらのどこが」
「辛辣ですわね…」
「こら、ヴェルト、ソラ!喧嘩するならそのパイ没収するぞ」
「悪い」
「ごめんなさい」
私たちのやりとりを見た三人は至極残念そうな顔をヴェルトとソラに向けた。
二人はその視線に気づいているのかいないのか、何も反応せずにまたパイを口に運んだ。
「ねぇシスター、これ作り方教えて貰ってもいいか?」
「いいよ。これ作れるようになれば料理にも応用できるから試してみてね」
「分かった。作ったらシスターといんちょーに真っ先に持って行くから」
「いや、それいつの話?」
「え、明日」
ソラはどうやら今日実践してみるらしい。
何となく料理人っぽくて私は笑った。
「じゃあ楽しみにしてるね」
ソラに調理方法を教えるキリヤを見ているとアリアたち三人に視線で呼ばれた。
俺はキリヤたちから離れ、その三人の側へ移動する。
「んだよ」
「ライバル登場ってわけ?賢者様も大変ですわね」
「お2人にしてよかったのですかな?」
「そうだぞ賢者殿」
三者三様に言葉を投げつけてくる三人を睨み、俺はため息を吐いて椅子に座った。
「…俺じゃソラには勝てねぇ」
「…いやに弱気ですのね。そんなに簡単に諦められるの?」
「違ぇよ。そういうことじゃねぇ。キリヤをソラに渡すつもりもねぇし、諦める予定もない。…ソラは俺を邪険にしねぇことには気付いてるな?」
「ええ。邪険どころか懐いてますわね。本当に恋敵なのって思うほどには」
ソラは俺に懐いているし、どうやら俺を尊敬もしてるらしい。
今日、久しぶりに再会すれば嬉しそうに抱き付いてきた。
男に抱き付かれる趣味はないが、ソラの子ども時代を知る俺は甘んじて受け止めた。
…純粋な好意だからか、避けづらかったのだ。
「…あいつは、キリヤが幸せならそれでいいって思ってんだよ」
ソラがキリヤを見る目は、俺がキリヤを見る目と同じだ。
甘さのある、熱いもの。
好きだとか愛してるだとかいう感情だ。
だが、ソラはキリヤに迫ることはない。
キリヤがソラに向ける感情が恋ではないと知っているためだ。
「ある奴はソラを臆病者って言ったが、俺はそうは思わなかった。それどころかあいつの感情を知った時は勝てねぇとさえ思ったな。男としての器が違い過ぎるんだよ。俺はそこまで寛容になれないからな」
俺はソラを見て手元のローロパイを口に運んだ。
「ソラは俺の自慢の息子で、恋敵だ。多分一生勝てねぇけどな」
そこで丁度キリヤが話終わったのか、キリヤは立ち上がって俺たちの方へやってきた。
キリヤを見るソラの目は、甘さのある、熱い、そして穏やかなものだった。




