私が探る話 パート④
ふっと私たちは息をついた。
相当な時間話していたにも関わらず、空の色は変わらない。
不思議に思ったらしいヴェルトとサフラが私に視線を向けた。
私は苦笑して説明をしてあげることにした。
「この場所は時間が止まってるの。レィティアさんが魔力を失った後もこうして生きているのはそういうこと」
「へー…オレもここにいたら不老になれるってことかぁ!」
「まぁ…ただし私がこの空間に居る時だけだがな」
「え?魔女さんはここから出れないんじゃないの?」
「いずれ出るための居場所だ。私だって好き好んで人との交流も無く時間が止まってる空間に居るわけじゃない」
「ふーん?…どうしてここにいるの?」
「そうだな…人を待ってる」
レィティアさんは窓の外の遠くを眺めた。
それが彼女が待ち続けている時間を思わせた。
さすがにみんな空気を読んだらしく、それ以上は追及はしなかった。
いや…一人、レィティアさんの目の前に立った。
「…ソピア」
「ティア…」
今まで、何も言わず何もしなかったエレンがやっと動いた。
私はヴェルトとサフラを引っ張って、部屋を出た。
「え、キリヤちゃーん。オレめっちゃあの後気になるんだけど!」
「サフラさんレィティアさんに殺されたくなかったら詮索しないほうがいいと思うけどね?」
「オレ急に外に出たくなってきた!」
サフラに笑顔を向けると、彼は顔をひきつらせて素直について来た。
城を出て、日陰になるように木の根元に私たちは座った。
「ねぇ、兄さんを助ける方法は決まったけどさ…その、犯人って、誰?」
座って、少し経ってサフラが口を開いた。
いずれ分かることで、サフラが気にしていることであるのも分かっていた。
ただ、私の口からそれを伝えたくはなかった。
逃げている自覚はある。
だが、私は私のせいでサフラが傷付く顔をするのを見たくはない。
…でも。私が関わると決めたなら、私はそれを背負わなければならないのだ。
「 」
私は名前を告げた。
サフラは私の目を見てきたが、私の言葉が本当だと伝わったらしく、サフラは静かに湖を眺めた。
サフラは王だ。
里に害を与えた犯人には罰を与えなければならない。
サフラがどうしてもできないというのなら、それは彼が王でなくなる瞬間だろう。
私は隣に座るヴェルトの手を握り、静かに湖を眺めた。
話が終わったらしいレィティアさんとエレンが城から出てきた、
うむ、エレン泣いたのかな、目が赤い。
私の視線に気付いたエレンがふいっと顔を背けたので多分泣いたな、あれ。
「ではキリヤ。頼んだぞ」
「はい。レィティアさんもよろしくお願いします」
私たちは簡単な挨拶だけで済ませて不可侵の森からエルフの里へ転移した。
去り際にエレンが寂しそうにレィティアさんを見たので、私とサフラとヴェルトはエレンの頭を撫でた。
「…何、何なの?嫌がらせ?」
「あははー…」
「…すまん」
「だって見た目ショ…」
「ねぇ死ぬの?死にたいの?」
「うん、ごめんってー」
不可侵の森は時間が止まっていたため、神殿に帰って来たときはまだお昼だった。
「行動するのは明日だし…とりあえず観光でもするかー」
「まぁ今晩は宴になるだろうし、賢者は来たことあるんだから好きにしてていいよ」
サフラの許可も得たので、私たちは里を散策することにした。
エレンはハウエルさんのところに行ってしまい、サフラは王様なのでお仕事があるとか。
なので結局二人で散策である。
「おお…!ここがエルフの里か…!」
里という言葉でもっと森のようなのをイメージしていたのだが、実際はアルテルリアの王都よりも洗練された街だった。
「俺も迷い込んだ時は驚いたな。人間の技術なんて比べ物にもならねぇし」
「本当。あ、でも前世の私の世界のがすごかったかも?」
「…そういや、キリヤは別の世界のやつだったな」
「うん。まぁね。でも向こうでは死んじゃってるし。悔いはないよ」
「…未練は?」
「ある。もっと友達と遊びたかったし兄妹とわいわいしたったし、ペットと散歩して両親と買い物行って美味しいもの食べて漫画読み漁りたかった」
「…まんが?」
「本の種類。…でも、こっちの世界も好きだよ」
「…そーか」
ヴェルトが不安そうだったので、私は笑ってヴェルトの手を引いた。
「ヴェルトー。案内して!」
「…あぁ」
夜、サフラの家にお世話になることになった。
そこそこ広い屋敷で、私たちはそれぞれ一つ部屋を借りた。
とはいえ、部屋に帰る機会なんてなさそうだが。
サフラの言ったとおり、今晩は宴になった。
「斎さまー!飲んでるー?」
「斎様!こちらも食べてください!」
「賢者!飲んでるか!?」
「おい、もっと食えよー」
エルフたちは観光している時点で私にも親しげに接してくれるようになった。
それで、いつ情報が出回ったのか知らないが私は斎と呼ばれるようになった。
で、今はお酒を強要されている。
おーい、未成年飲酒法に触れてるから、危ないから。まぁこの世界にはその法律ないけど。成人も16歳からだし。
私はそれとなく断り、ジュースと食事を口に入れる。
…美味しい。ソラに食べさせたら喜ぶなぁ。
私は彼らのお誘いをそれとなくかわし、宴の会場を出る。
ヴェルトにはそれとなく目配せをしたので、追ってはこないだろう。
私は木の根元に座って目を閉じた。
「…よぉ、キリヤ」
「やっぱり。久しぶりー、神様」
「いやー、俺的には全然久しぶりじゃねーけどなー」
目を閉じた瞬間から、私は夢想に入った。
夢と同じような空間なので、神様は私の夢に入ってる状態なのだ。
相変わらず光の球だけど。
「さて、と。見ろ、シャンパンだ!キリヤのために調達してきた」
「シャンパン!?フランスのシャンパン地方で作られる物にしか名付けられないというあの!?」
「そうだ!喜べ。まぁキリヤの家からかっさらってきたやつだけどな」
「おおい!?全然喜べないよね?」
「キリヤの両親がキリヤの仏壇の前に置いたやつだからいいだろ」
「…」
私は白けた目で神様を見つめた。
私のためというより、あのシャンパン私のだよね?
神様はどこからかグラスを出してシャンパンを注いだ。
というか何故シャンパンを仏壇に置いた、両親たちよ。
「ほれ、他にもチョコレートとかチョコレートとかチョコレートも取ってきたぞ」
「…神様グッジョブ!」
こちらの世界はチョコレートなんてない。
未だ開発されていないのだ!
チョコレートと同じ成分の物を探しているがまだ見つかっていない。
きっとどこかにはあるはずだ。
ついでに、子供のお手伝い料として渡している飴は私が制作している。
…え?貴重な砂糖をどこから仕入れてるのかって?
私が採ってきています。
「んー!さすがチョコ!美味しい!」
「あんまり食い過ぎるなよ。俺のが無くなる」
「…その形でどうやって食べるの…?」
「…」
神様は無言でチョコを浮かせた。
チョコは光に吸い込まれるように消えた。
「…」
「…その反応やめろよ!だからキリヤには見せたくなかったんだ…」
私が無言、無表情で神様を見ると、光の球からシクシクと声が聞こえてきた。
「ごめんって。神様のとこの新しい天使さんたちは元気?」
「あー、あいつら?元気過ぎるな。俺至上主義だからさー」
「あー…貸して貰っても大丈夫だよね?」
「まぁな。元々貸す予定だったし」
「よかった。神様が演出してくれたほうが楽だし」
正直今回は神様の不手際でもあるので、神様は元から貸し出す予定だったらしい。
「…神様。向こうのみんなは、元気?」
「元気元気。こっちと向こうじゃ時間の流れが違うからな。向こうは桐弥が死んでから9年経った。だが相変わらずだよ」
「そっか」
私は少しだけ前世に想いを馳せた。
「…神様」
「なんだ?」
「ちょっと寝る…」
「は?いやいや、おーい…」
夢の中で、私は神様を抱っこして眠った。




