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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
71/134

私が探る話 パート③

 

 

 

 

「…いやいや、始原の魔女に会うって…彼女は死んでるよ?」


エレンは意味が分からない、といった様子で眉を顰めた。


「エレンは始原の魔女が死んだところでも見てたの?」

「…見てない。だけどあれだけの力を使ってどうやって生きてるわけ?始原の魔女は自分の全ての力を使ってこの世界に魔力をもたらしたんだよ。しかも、千年前に」


この世界に魔力が誕生したのはごく最近だ。

それまで全ての魔力は始原の魔女に宿っていたから。


「それがねー、実は生きてるんだな、これが」

「…え?」

「エレンはどんな姿にもなれるよね?」

「…まぁ」

「だけど、エレンが一つだけなれない姿があるはず」

「?」


私は立ち上がって、エレンの頭に手を翳した。


「黒い鴉には、なれないでしょ」


私は自身の半分の魔力を解放して、エレンに注ぎ込んだ。


「っ、う、ああぁぁ!」


エレンは悲鳴を上げ、私は転移の準備を始める。


「キリヤ!?」

「キリヤちゃん!?」


ヴェルトとサフラの驚愕した顔が見えたが、私は2人を無視してエレンに魔力を流し込む。

エレンの悲鳴は大きくなり、エレンは頭を抱えてうずくまる。

私は抵抗を感じて、より強く魔力を流した。


どくんっ


鼓動が、聞こえた気がした。


「っ……転移!」








「…珍しい。客人だ」


驚きを含んだ声音が耳に届いた。

少し低めのそれは、確かに女性の物だ。

どうやら、転移は上手くいったらしい。

目の前には蒼く澄んだ湖と白亜の城があり、周りは背の高い木々で覆われていた。

その中で、異質な者が一人。

深淵を溶かしたような黒髪と黄金に輝く片方の眼。

もう片方の眼は眼帯によって見えなくなっていたが。

彼女は、記憶の中の始原の魔女だった。


「ん?ほう、これはまた珍しい。ソピアがいるとは。大丈夫か?先程からみな呆けた顔をしているが」


私が周りをぐるっと見渡すと、ヴェルトもサフラもエレンも口を開けてポカンとしていた。

彼女が私に手を出してくれたので、私は彼女の手を借りて立ち上がった。


「ありがとうございます。はじめまして、急にお邪魔してすみません。私はキリヤです」

「私はレィティアだ。あなた達で言う始原の魔女だ。客人は珍しい。大歓迎だよ…私は男に手を貸す趣味はない。自分たちで立ち上がってくれよ。キリヤ、城へ案内しよう」


彼女…レィティアさんは男たちを一瞥し、私の手を取って歩き出す。


「ここまでは転移でか?ソピアを連れて来るなんて。ソピアを上手く使ったなぁ」

「彼からあなたまで辿るのが一番楽な方法ですから。レィティアさん、お話があります。それと、あなたの助けがいるかもしれない」


ソピアとは、エレンのことだ。

黒い鴉だった時の、魔力が世界になかった時の名前だ。


「ふむ…私の助けがいるとは…困ったことが起こっているんだな。だが、私はここから出られない。助言しか出来ないよ」

「大丈夫です。それより、詳しく話を聞いていただきたい」

「…なら、急がねばな」


レィティアさんは真剣な顔をして、空を睨んだ。






白亜の城は結構小さく、三階建てではあるものの一つの階にそれほど部屋はなかった。

レィティアさんは一階の客間へ案内してくれて、一人がけのソファに座らせてくれた。


「好きなところに掛けてくれ。今お茶の準備をしてくる」

「あ、お構いなく」


後から入ってきたヴェルトたちにソファを示してレィティアさんは部屋から出て行った。

ついでに、レィティアさんに返事をしたのはサフラである。

ヴェルトは私のすぐ隣のソファに座り、サフラはその対面、エレンは呆然と突っ立てた。

ヴェルトはソファに座ると私に向き直った。


「…まさか始原の魔女が生きてたとはな。つーか、ここはどこだよ」

「レィティアさん綺麗な人だよねー。すごい美人ってわけじゃないのに何か綺麗だなって思うんだよなぁ…ここはセェルリーザの北にある“不可侵の森”だよ」

「なるほどな。不可侵の森なら誰も知らねぇわけだ」


セェルリーザの北には鬱蒼とした森が広がっている。

その森には何も住み着かず、誰も入れない。入ろうとしてもものの数分で同じ場所に戻ってきてしまう。

故に不可侵の森と呼ばれている。

本当はレィティアさんが住むために神様が作った聖域になっているため、何も入れないだけなのだが、まぁそんなことを知ってるやつは世界に私とレィティアさんだけだろう。


「お待たせ。ハーブティーしかないが良かったか?」

「ありがとうございます」


レィティアさんはポットとカップを持ってきて、私たちにお茶を差し出した。

立ち尽くすエレンを見て苦笑したが、レィティアさんは何も言わず椅子に座った。

私たちはそれぞれ簡潔に自己紹介をした。


「それで、話とは何だ?」

「人間が作った魔術で、最大の禁忌と言えば?」

「人形傀儡の術だな」

「はい」

「…なるほど。まぁ、その話じゃないかと思っていた。人形傀儡の術を使った者がいるんだな?」

「…えぇ。ヴェルトとサフラさんとエレンは知らないだろうから説明させて貰うと、人形傀儡の術っていうのは正確に言うと魔術じゃない」


人形傀儡の術。

魔術とは魔力を媒介を使って表に出すものなので、これはちょっと魔術とは言わない。

この術は魔力を使わない。

生物に宿る気を使う。

今回使われているのは魂の気だろう。


「生物に宿る気を使って、人形にしていくんだ、その人…今回ならハウエルさんを」


ハウエルさんの身体が見つかったのは僥倖だろう。

見つからなければそのまま人形になってしまっていただろうから。


「…おい、その術は人間以外にも使えるのかよ」

「うん。でも本来なら誰も使えなくなってたはず。レィティアさんが封印したから」

「その話だが、私から謝罪させてもらおう。確かに全て封印をした。だがどうやら一部分だけ壊されてしまったらしい。私がまた封印をし直そう」


レィティアさんは視線を床に落とした。

…あぁ、もう。

本当、この人はいつも何かを抱えてる。

千年前もこの人は床に視線を落として、決断をした。


「いいえ、レィティアさんが封印されることはありません。私が術自体をぶっ壊しますので」

「…な!?術を壊すだと!?無理だ!」

「レィティアさんの方こそ、どう封印するつもりだったんです?自分の命を犠牲になんて、思ってないですよね?」

「…そ、れは…」


今のレィティアさんは知識を持ったただの人間だ。

その知識でさえ、私には遠く及ばない。

その知識を使ってただの人間がどう封印するか…命を使うしか、方法なんてない。


「私はかつてのレィティアさんも凌駕する存在です。だから安心して下さい」

「…キリヤ。貴方は一体何者だ…?」


私はそれに答えずふっと微笑んだ。

レィティアさんは訝しげに私を見たが、答えが帰ってくることはないと悟ったらしい。

この事件が終わった後なら話してあげるんだけどね。

 

「あの術の封印が壊されたのは十年前だ。私は十年前に確かに壊れた音を聞いた。だが、一部分だけだったからか、この術の進行は酷く遅くなってるはず。そのハウエルという者は今どれほど進行している?」

「手足を失って、中身もありません。そろそろ身体の方も進行が始まると思います」

「…なるほど。キリヤ、壊すと言ったが本当にそれは可能なのか?」

「はい。ただ、レィティアさんにも手伝って貰いたくて」

「…いいだろう。何をする?」


それから私たちはこの事件を解決するための会議をして、ハーブティーが空になるまで話し込んだ。




 


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