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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が探る話 パート②

 

 

 


サフラに案内され、私、ヴェルト、エレンは地下に向かっていた。

ヴェルトが捕らわれていた部屋に隠し階段があり、そこから延々と地下に向かっている。


「そろそろだな」

「…キリヤちゃん、本当に大丈夫?」

「うん。怖かったらヴェルト盾にするし」

「おい」


サッとヴェルトの後ろに隠れる真似をすると、ヴェルトに軽く頭を叩かれた。

お返しに背中を殴っておいたが。

じゃれ合いの直ぐ後、私たちの前に扉が現れた。

サフラの視線に頷き返すと、扉は開かれた。

部屋の中は意外にも明るかった。

ちゃんと人の住めるような部屋になっていて、キッチンのような物やお風呂もあるようだ。

奥にもう一つ、扉が見えた。

私は迷わずそこへ向かった。

予感がしている。

見たら、引き下がることは出来ない。

見れば、これは私の問題になる。

扉を開けた。


「…」


私は無言でそちらに向かった。

目の前はベッドで、そこには男性が一人、座っているように見えた。

服が彼の身体を隠しているが、腕と足が無いことは明白だった。

彼の首が動いた。


「…なる程。これはヴェルトたちが心配するはずだ」


彼…ハウエルは私を見上げていた。

美しかったであろう瞳は収まるべき場所には存在せず、そこには闇があった。

鼻は削ぎ落とされたようになく、唇はひび割れ、歯は1、2本しかない。

頬は痩け、髪は老人のように少なく艶がない。


(…はじめまして、ハウエルさん)


ダメ元で、念話をしてみた。

エレンがハウエルと繋がりがあるなら、念話をしたことがあるだろうと思ったのだ。


(…はじめまして。君は誰かな?私は目が見えていなくてね…あぁ、分かりきってることかな)


返事がきた。

よかった、返事ができるなら魂はまだここにある。


(そうですね。確かに見たら分かります。私はキリヤです。精霊帝王の頼みで貴方を助けに来ました)

(帝王様の…!?そうか、君が神の子の…キリヤちゃん、でいいかな?)

(…まぁ。すみません、服を脱がせてもいいですか?)

(は?…構わないが…そういう趣味が…?)

(違います)


この人、天然なのか…?

私はハウエルに近づいて布団をはぎ取り、服を脱がせた。

誰かが息を飲む音が聞こえた。

身体は干からびたように痩せていた。

腕と足のあった場所から、中が見えた。

サフラの話の通り、中身はない。

あるのは骨と筋肉と血管などの管。

腕のあった場所から肋骨と背骨が見え、細かい血管が見て取れる。

性器も臓器の一つだからか、その場所からも中が見えた。

私はハウエルの身体を一通り確認を終えると、丁寧に服を着せ、布団を被せた。


(すみませんでした、ハウエルさん)

(いや、構わないよ。それよりも君に申し訳ないものを見せた。悪かったね)

(…いいえ。ハウエルさんの方がお辛いと思います。私が絶対に何とかします。それまで、もう少し、耐えてください)

(…ありがとう)


私はハウエルから離れ、みんなと共に部屋を後にした。






絨毯の部屋に戻り、私たちは暫く無言で外を眺めた。


「…オレがさ、最初見つけた時はもっと肌とか髪とかも綺麗でさ。顔も、目とか鼻とか、あったんだ」


ぽつりと、サフラが零すように言葉を漏らした。


「…歯も、あって、ちゃんと話せて…誰に襲われたんだって聞いたら、分からないって。神殿の、祭壇で祈ってたら、気づいたら森にいたって。それから…段々、無くなっていったんだ。最初は歯だった。それで話せなくなって。喉の、声帯も無くなってた。次は目で、それから鼻で…怖くて、恐くて、オレは兄さんを地下に幽閉みたいに扱った」


罪の意識があるのだろう。血を吐くような告白にエレンが唇を噛むのが見えた。

サフラは王として、エレンは精霊帝王として責任を感じている。

エレンにも、こんな事例は初めてに違いない。

自分の預かり知らぬところで保護下の存在に害がなされているなど。


「サフラさん、自分を責めてるようだけど、逆に褒めたほうがいいよ」

「…は?」


手に爪が食い込んで血が出るまえに、サフラに声をかけた。


「地下に隠したおかげで、ハウエルさんが生きてると言っても過言じゃない。土の精霊がハウエルさんを守ってた。そのためかハウエルさんの状態はとてもゆっくり悪化してる。地下に隠してなければ今、ハウエルさんはいないよ」

「…え?本、当に?」

「うん。エレンも責任感じてるみたいだけど、感じてる必要はないよ。ハウエルさんに掛かってる術は神様ですら見つけるのが困難なものだから」


エレンがハッとした表情でこちらを見た。

そう。

この術は人間が作り出した、この世界最大の禁忌だからだ。

余りにも過激で恐ろしい術だったため、始原の魔女が全て封じたはずだった。

だが、封じきれていなかったのだろう。

私は曾々おじいちゃんと曾々おばあちゃんの記憶を探る。

黒髪に赫と金の瞳。

月色の狼と黒い鴉を従え、少し、憂いを含んだ表情は、世界に絶望しているように見えた。


「…会いに行こう。始原の魔女に」


 

 

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