私が探す話、尋ね人は精霊帝王 パート④
ご指摘があり、改稿しました!
マイナス1000℃→マイナス200℃
この世界は魔法がありますが、基本的に物理法則はこちらの世界と同じです。
絶対零度はマイナス273.15℃となっております!
ご指摘本当にありがとうございます(^^)/
虹雨花の花弁は一センチほどで小さく、二枚使って一つの耳飾りを作った。
先ずは樹液に花弁を入れて固める。樹液は琥珀のような固まりになるものだが、無色透明だ。
それから樹液に穴を開け銀の飾りを付け、ピアスに加工。
これで一つが完成した。
それともう一つ同じものを作って終わりである。
私が作っている間、精霊帝王は興味深そうに眺めていた。
「できた!」
「へぇ…こんなふうに作るんだ」
「んー、私の作り方は特殊かな。この樹液はミルミの木から採れる樹液で、最低でも50年は経たないと樹液は固まらない。だけど、1000℃で加熱してからマイナス200℃で冷やすと固まる。そんなことできるの今の所私かヴェルトだけだし。あ、多分精霊帝王にもできるよ」
「ふぅん…」
私から渡された耳飾りを楽しそうに眺め、精霊帝王は耳に付けた。
あ、痛っ。その耳飾りで穴開けるなよ!
「うわー…痛そう」
「痛いけど死ぬほどじゃないし。そうだ。僕のこと精霊帝王ってやめてくれる?長いし。エレンって呼んで」
「分かった。私はキリヤ。よろしくね、エレン」
私は精霊帝王…エレンに手を出す。
エレンは首を傾げ、私の手をまじまじと見た。
「…握手って分かる?」
「握手?…あぁ」
エレンも手を出してきたので、その手を握って軽く上下に揺すった。
「人間って不思議だよね。どうして手を握りあうわけ?」
「さぁ?私日本人だったから分かんない。しいて言うなら安心するんじゃない?」
「安心?」
「うん。触れることって嫌な相手にはしたくないでしょ?触れることができるってことは嫌いじゃないってことだからね」
「…ふぅん。面白いね」
握手か…
あんまり考えたことはなかった。
きっともっと大切な意味があるんだろう。
でもそれは人それぞれだから、私にとっての握手とはコミュニケーションで、相手を認めるということだ。
「ねぇエレン、エルフの里に転移できる?」
「ん?里?もちろん。あそこは僕のための場所だから」
「じゃあ行こっか」
「…は?」
「よーし、let's go!」
私はエレンの腕をつかみ、エレンの記憶を使ってエルフの里へと転移した。
「お前ら、何者だ!」
「侵入者だ。子供を避難させろ!」
「女もだ!誰か王と親衛隊を呼んでこい!」
私たちが転移した先はエルフの里のド真ん中で、エルフが多くいる場所だった。
公園らしく、芝生が敷かれ花が咲き乱れている。
「…あーあ。君ってバカなの?」
「…すみませんね、バカで」
呆れたような顔でエレンに見上げられ、私は苦々しい思いでエレンを見返す。
周りを囲むのはエルフの男たち。
女子供はみな逃げたらしくこの場には居なかった。
「長老!このような場に…!」
背後から声が上がり、一つの気配がゆっくりとこちらに歩いてきた。
私とエレンは振り返った。
歩いてきていたのはエルフの女だった。
外見は周りと変わらない、20代に見える。
だが気配は他を圧倒的に凌駕するものだ。
「…あんたたちは…」
「あー、不法侵入?してすみません…まさかこんなに混乱されるとは思わなくて…」
「…いいや。お前たち、警戒を解きな。この方々は敵じゃないよ。それにねぇ、精霊様が守ってくださってる里に入れる奴がいると思うのかい?」
女性の発言で、私たちを囲んでいた男たちが不安そうな顔をしながらも警戒を解いた。
うーん、やっぱ信頼度が高い人の発言は覿面だね!
「さて、サフラに会いにきたんだろう?あたしが案内するさ。お前たちは里の者に加護持ちが来たと伝えな」
女性の言葉を聞いた彼らはハッとした顔で私たちを見たあと、それぞれ八方へ走り去った。
「ついといで」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いいってことさ。神殿で何かが起きてるのは分かってる。あんたたちが解決してくれるなら歓迎するさ。精霊様の加護も受けてるみたいだしね」
先に歩き出した女性の後を追う。
まだ事情を伝えていなかったエレンが怪訝そうな顔でこちらを見ていたが女性が全て知ってるとは限らない。
後で話すと視線で伝え、改めて女性を見た。
女性は20代後半の容姿、エルフのイメージに合った金髪に新緑の瞳。
ただし、顔立ちは可愛らしい。
…なんだろう、気配は圧倒的なのにこの外見…
ギャップ萌えか!
「…なんだろうね、今寒気がしたよ」
気のせいですよー。
…おい、なんでエレンそんな目で見てくるんだよ。その冷たい目!!
「…僕はエレン。このバカの付き添い、かな」
「そうかい。あたしはアルル。里で一番高齢だから長老って呼ばれてる」
「私はキリヤです。サフラさんとは里の外で知り合いました」
「サフラとねぇ。じゃああんたは賢者の知り合いかい?」
「はい。賢者様の付き人です」
「…あんたは神殿で何が起きてるか知ってるんだね?」
「まぁ、大体は。アルルさんたちは知らされていないんですよね?」
「…まぁ、ね。あたしには教えてくれてもいいと思ったんだけどねぇ。サフラは王だからね。迂闊なことは出来ないんだろうさ」
少し寂しそうな顔をしたアルルさんは軽く頭を振って気持ちを切り替えたようだ。
しばらくは無言で歩いた。
(…ねぇ)
(うわ!?エレンか!!何、エレンってテレパシー使えるの!?)
(てれぱしー?これは念話って言うんだけど?)
(ほー。うん、覚えた。多分使えるようになった!)
急に頭の中に声が響いたと思うとエレンと目が合った。
多分、エレンとは今後も念話?が使えると思う。
(で、神殿で何が起きてるの?)
(んー…御子様が手足と中身を奪われてる。あ、中身っていうのは内臓とかのことね?意識はあるのか知らないけど…その状態で生きてるらしいよ)
(…僕が来ない間に色々あったんだね)
(みたい。エレンはいつからここに来てないの?)
(前に来たのは子供が産まれた時だから…八年前かな?)
エルフは子供が少ない種族だ。
長命なことと、精霊に守られていることの反動だろう。
エレンは子供に加護を与えるために子供が産まれると里に来るらしい。
(なるほど…御子様がそうなってたのは五年前だから。エレンが知らなくても不思議じゃない、か?)
(…けどハウエルに何かあれば僕が気付くはずなんだけどね)
(じゃあ、これは罠かもしれないね)
(罠?)
(そう。私と賢者様とあわよくばエレンを誘き出す、罠)
「あんたたち、着いたよ」
声をかけられて顔を上げれば、目の前には蔦の絡まる白亜の建物が建っていた。




