私が探す話、尋ね人は精霊帝王 パート③
休憩になり、私はガゼルを呼び出した。
向こうも私が手綱を放したことを怒りたいらしく、大人しく2人で集団から離れた。
「お前!手綱を放すとはどういうことだ!」
「あー、すみません。流石にあからさまに放すのはダメですよね」
「…何?」
実は、手綱はまったく力を入れずに掴んでいた。
面倒だったし。それにガゼルの馬は賢いため私の意志通り動いてくれた。
私はガゼルの視線にへらっと笑って誤魔化す。
「ガゼルさんの話はそれだけですか?」
「…お前反省しているのか?」
「落ちませんからガゼルさんの心配は杞憂ですよ。私からの話をしていいですか?」
「何だ」
「…あのお二人、姫様と殿下ですね?」
「…なぜ分かった」
ガゼルは警戒を強めた。
私はため息を吐く。
「…お嬢様がお父様が賢者様と知り合いだと。相談に乗ってくれていると仰いました。賢者様が今現在相談を受けているのは学園長と陛下のみです。学園長のお子様はあんなに若くはありませんから」
「…姫様…」
ガゼルもため息を吐く。
私たちは顔を見合わせて困ったことになったな、とお互いに思った。
「…ん?お前、賢者様とお知り合いなのか?」
「えぇ。賢者様は現在学園で教鞭を取っていらっしゃいます。そこそこの交流はありますよ」
「なるほどな…先程から悪かったな。あんな場所から出てきたため警戒せざる負えなかったんだ」
「いえ。というか警戒して頂かなくては困りますよ。明らかな不審者だったんですから」
「まぁ、そうだな」
さてと。今から対応を変えるのは不自然だ。だから今まで通り接しよう。だた、魔獣に対する警戒は強めなければ。
疲れた顔のガゼルさんの肩を叩き、私とガゼルさんは戻った。
フェリアには大したこともなく到着した。
どうやら精霊たちが守ってくれていたようだ。
うーん、あの王子様のどこに好く要因があったのだろう。
…あ、魔力量か!確かにハルトには劣るけど結構な魔力量だったもんなぁ。
まぁ、根はいい人なのかもしれないけど。
「同行させて頂いてありがとうございました」
「いいや、お前がいて助かった。…料理が上手いんだな」
「意外って顔に出さないでください。あなたがたの料理は適当すぎるんですよ。お嬢様、お世話になりました」
「いいえ。楽しかったわ。わたくしたちはこのままセェルリーザに向かいます。またアルテルリアで会いましょう」
「そうですね」
お嬢様は会うことはないと分かっていてその言葉を口にした。
だが、きっと会うことになるだろう。
私にはその未来が簡単に予想できた。
お嬢様たちと別れ、私もセェルリーザに向かう。
正しくは、セェルリーザとアルテルリアの間にある森へ。
王都を出発してから四日が経過していた。
結構早い日程だったなぁ…
結局、これまでの旅で精霊帝王には会わなかった。
ただし、見られている気配は感じとれた。
「あー、疲れた」
馬に乗るのは結構疲れる。
というか、お尻痛いし…お嬢様もよく文句言わなかったよなぁ。私が文句言いたかったわ!
「…虹雨花頑張れよー…」
異空間に仕舞っておいた苗を取り出した。
虹雨花には私の魔力を与えているため比較的元気ではあるのだが、最近ちょっと元気がない。
なぜ虹雨花を頼んだのかと言えば、精霊帝王が虹雨花が大好きだからだ。
…え?何その単純な理由って?
これがしかし結構大切なことだったりする。 精霊帝王から加護を受けるには気に入られなければならないため、ご機嫌伺いにとても重要なのだ。
「やっぱり現れないかー…」
「何が?」
「精霊帝王が」
「あぁ…居るよ」
「え、本当に!?」
「うん」
…あれ?今の声って…
「だって、僕が精霊帝王だから」
ハッと振り返れば、そこには少年が立っていた。
少年は白髪で黒の瞳で、いわゆるショタ…あ、やべ睨まれた、美少年である。
「やぁ」
「…少年?」
「うん?そうだよ」
「…三年くらい前は女の人じゃなかったっけ?」
「…え、何、君、僕のストーカー?」
「違う、精霊達から聞いたの」
「ふーん…それで?君は一体何者なのかな?」
途端に精霊帝王 から殺気が放たれた。
精霊帝王 は一瞬で私の背後に回り、精霊術で私を拘束した。
精霊帝王 は、
「ねぇちょっとショタってやめてくれる!?僕に恨みでもあるの!?」
「…だってショタじゃん!」
「うるさいよ!じゃあ大人になればいいのか!?」
「それもなぁ…ショタって登場してないからいいと思う。キャラ被らないし!」
「…」
私は彼?の精霊術を破り、異空間から虹雨花を取り出した。
ぐったりしていた彼は、虹雨花を見ると顔色を変えた。
「それ…」
「うん、虹雨花。どうか私に加護を与えて頂けませんか?」
「…君が何者か分かったらね。返答次第では殺すことも考えるよ」
薄ら笑いを浮かべたショ…精霊帝王からは先程よりも濃い殺気が放たれる。
「…私のどこが怪しい?何者って聞かれても人間としか答えようがないんだけど…」
「まずは君の魔力かな。封じているそのブレスレットから神様の気配がする。斎か神子かと思ったけどそういうものでもなさそうだしね」
「なるほど…じゃあ、歩きながら話そっか」
精霊帝王は渋々了承して私と並んで歩き始めた。
「話すと長くなるんだけどね」
「短くして」
「私は神様並み」
「…ちょっと待って何をどう短くしたの!?」
あぁ、彼は弄り甲斐があって楽しいな。
私が楽しそうにしているのが分かったのだろう、彼はふてくされた様子で見上げてきた。
「神様から話聞いてない?」
「聞いてないな。僕はここ50年神様に会ってない」
「夢とかに…ってそれもないか。精霊帝王は寝なくてもいいもんね」
「で、詳しく話してくれないの?」
「じゃあ、最初から話すね。遡ること18年前、私は地球の日本で殺されて、神様に転生させて貰って、今に至ります」
「…何が神様並みなのか全然分からないけど」
「神様の話によると、私の魂も器も神様並みなんだって」
訝しげにこちらを見上げていた精霊帝王は大きく目を見開いた。
それから、ガシッという効果音が響きそうなほどの勢いで手を握られた。
「その魂ちょうだい!」
「なんでやねん!」
思わず関西弁で突っ込んでしまった。
いや別に関西人じゃないけど!
ちょうだいって…あげたら私死ぬでしょ。
「羨ましい…!その魂さえあれば僕だって神様の直ぐ側で毎日お仕えするのに…!」
「…どういうこと?」
「僕の魂は神様より格段に劣るんだよ。だから側にいると劣化が早いんだ」
「劣化するの!?」
「天使という存在は神様に仕えることでその魂を浄化するんだけど、僕の魂は元々浄化された綺麗な魂なんだ。その綺麗な魂が神様の側に長くいると逆に劣化してしまうんだ」
「そうなんだ…」
流石にその知識はおじいちゃんとおばあちゃんは持っていなかった。
ただ、神様の側は心地良いということだけは記憶にある。
てっきり遊び歩いてたんだと思ってた、すみません。
「残念だけど、あげるわけにはいかない」
「…まぁ、そうだろうね。神様だってそんなこと望んでないだろうし。それで、加護だっけ?」
「うん。虹雨花はどうする?なんなら花弁をネックレスとかにしてあげようか?」
「加護は…よし、渡った。へぇ、虹雨花をネックレスとかにできるんだ。そうだな…耳飾りがほしい」
「了承しました」
私の体がふわりと何かに包まれた感じがした。
精霊帝王は加工という言葉に興味深そうに聞いてきた。
私は少し笑って虹雨花の花弁を一枚千切った。




