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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が探す話、尋ね人は精霊帝王 パート②

 

 

 

 

外套を脱ぎ、私は地面に降り立った。

精霊が兄妹喧嘩にそわそわしている。

彼らは善良なのか、精霊たちは彼らを気に入ってるみたいだが喧嘩というのは険悪だから精霊たちは嫌いなのだ。

周りの精霊たちを撫で、落ち着かせながら気配を出して彼らに気付いて貰う。


「…何者だ!」


最初に気付いたのは護衛の一番位の高そうなおっさん。

五メートルは距離があるのに、まさか気づくとは。

彼は思ったより手練れなのかもしれない。


「えーっと、怪しい者じゃありません」

「…」


彼らの前に姿を見せると、彼らは警戒して手を柄に持って行った。

なる程、そこそこ鍛えられているのか。

おっさんは私の言葉に顔をひきつらせている。

…そうだよね、怪しい奴ってみんなそう言うよな。


「みなさんはセェルリーザに向かってるんですか?」


おっさんに話しかける。

他に話しかけても無駄だろうから。


「何だお前。俺を誰だと…」

「若!これが何者かは分かりません。口を開いてはいけない」


おっさんに怒られたお偉いさんの兄…坊ちゃんって呼ぼう…は、不機嫌そうに鼻を鳴らし馬車に戻ってしまった。

…おいおい、妹ちゃんを馬車に乗せろよ!

私は呆れて坊ちゃんを見送った。

逆に、妹ちゃんは震えながらも毅然とした態度をしている。


「お嬢様、どうか馬車へ」

「…いいえ。兄が居ない今はわたくしが立ち会うべきですわ」

「しかし…」


妹ちゃんの視線におっさんは負けたようにこちらに振り返った。

うん、妹ちゃんえらいなぁ。


「私、今セェルリーザに向かってるんですよ。よろしかったら混ぜて貰えません?一人旅はなかなか大変で…」

「お前が何者であるか分からない以上、共に行くことなどできない」

「アルテルリアの魔術学園の生徒ですよ。里帰り中なんです」

「…魔術学園だと?」


私は学園長から貰っていた学園の紋章をおっさんに投げた。

おっさんはそれを上手にキャッチする。

学園の紋章は生徒にしか配られない。

卒業や退学時に学園に返すので、盗まれてさえいなければ紋章を持っているのは生徒だけだ。

紋章は毎年少しずつ代わるし、裏には年が彫られるから偽造はそこそこ難しい。

それに、今年はまだ一つも盗まれてはいない。


「本物だな…」

「この人数に流石に一人で挑みませんよ。それに紋章を偽造したら死罪ですよ。儲かりそうでもないのにそんな利益のないことしません」


紋章の偽造が分かればどの国にいようが死罪である。

それに、紋章を持っているからと言って利益なんてない。

学園に通っていることが証明できるだけだ。


「里帰りか。里はどこだ」

「アルテルリアの端です。セェルリーザとの間にある森の側の街ですよ」

「フェリアか…いいだろう。ただし、何か怪しい動きをすれば直ちに切り捨てる」

「切り捨てるのが私だといいですね」


フェリアは街の名前である。

私は「あんたの部下にも注意しろよ」と言外に言った。

おっさんは少し驚き、苦笑いを滲ませる。


「…お前、名前は?」

「キリヤです。あなたは?」

「俺はガゼルだ。先程の青年とこちらのお嬢様の護衛隊長を務めている。お二人は名前を伏せて旅をなさっている」


おっさんは言外に「2人の名前は聞くな」と言った。

私は快く頷いた。

それからお嬢様に視線を向け、恭しく一礼した。

あ、驚いた顔してる。

年相応な感じで可愛いなぁ…


そうして、私はこの集団に混じったのである。




 


 

私はガゼルから馬を借り、お嬢様と2人乗りをしていた。

あれからお嬢様をどうしようかという話になり、坊ちゃんは絶対に乗せてくれなさそうな感じだったのでお嬢様が自分から馬に乗ると言った。

ガゼルと2人乗りするのかと成り行きを見ていれば、お嬢様が指名したのはまさかの私。

いやいやいや…!

自分で言うのもあれだが私怪しいからな!?

ガゼルが説得をするもお嬢様は無視。

あれー…


「お嬢様、疲れてませんか?」

「平気です。キリヤこそ平気かしら?」

「平気ですよ。可愛いお嬢様と一緒ですから」


お嬢様は私の言葉に微かに笑った。

お嬢様はとりあえず可愛いに尽きる。

多分14、5歳だろう、ウェーブ掛かった髪は亜麻色で、瞳は青と緑の中間の色をしている。

質素だが可愛いピンクのワンピースを身につけ、華奢な体は本っ当に飢えた男には目に毒だろう。

大きな二重のアーモンド型の目を囲うまつげは長く、頬は微かな桃色。

…うん、ヤバいね!


「お嬢様も大変ですね。女性の護衛も居ればいいのに」

「お兄様は女性が嫌いなの。妹のわたくしも含めて。今回の旅はお兄様が主体だから女性の護衛は入れられなくて…」

「面倒なお兄様ですね。将来どうするんだろ」

「ふふ。お兄様がダメならわたくしがいるもの。わたくしの子どもが跡を継ぐんだわ」

「でもお嬢様がどこかに嫁いだらダメでしょう?」

「そうね。だから男児を2人は産まなくては」


諦めたようなお嬢様の様子を見て眉を顰める。


「それで子どもは幸せですか。母親から引き離されて」

「でも…」

「お嬢様は偉い。いい子です。なら分かるはず。子どもを大人の利益のために巻き込んじゃいけない。それに坊ちゃんが子どもを持たないならそんな血筋は消えればいいってことなんですよ」


私はにっこり笑って毒吐いた。

お貴族様の考え方は嫌いだ。


「…キリヤは不思議ね」

「そうですか?」

「何だか、賢者様みたい」

「…賢者様?」

「そう、賢者様。わたくしのお父様がお知り合いなの。賢者様はお父様の相談に乗って下さってるんですって」


私は思わず頭を抱えた。

ガゼルが後ろから何か言っているが、聞こえていない。


…こいつら、まさか王子様とお姫様か…!!




 

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