私が聴く話、来るは妖精の王 パート③
サフラは料理をもぐもぐと口に頬張りながらここに来た経緯を話す。
「いやさぁー、もぐ、オレって森育ちじゃん?だから王宮とかのあの、もぐ、堅苦しい感じムリなんだよねー。で、精霊に聞いたら賢者が、もぐ、ここにいるって言うからオレも来たってわけ。この料理旨いよー!キリヤちゃんすげぇ」
「テメェは喋るか食うかどっちかにしろ。森に返すぞ」
「わー、待って待って!ちゃんと用があるんだってば」
何だろう、チャラ男みたいな雰囲気の漂うエルフだな…
見た目あんなに綺麗なのに。
彼とヴェルトは知り合いらしく、昔の話をしたりヴェルトもなんだかんだ言って楽しそうである。
「よし、本題に入ろう!」
「遅ぇよ」
「ホント冷たいよなぁ賢者って。ね、キリヤちゃん!」
「そうですね」
サフラはとりあえず楽しそうだ。
彼は私を凝視し、たまにヴェルトをチラチラと見ているからヴェルトが青筋を立てている。
「ねぇキリヤちゃん。もっと砕けた口調でいいよー」
「…分かった。で?本題は?」
「キリヤちゃんも冷たい…二人ってさ、いつ結婚すんの?」
「…」
「…」
「冷たい冷たい!ちょ、魔法で冷たい空気だすのやめて!なんで隠す必要があるの?あの会議に出席してたやつはみんな気付いてたと思うけど」
「残念だが俺らはそういう関係じゃねぇからな」
サフラは驚いた表情で私を見た。
すまないがそうなんです。
私が頷くと、サフラがヴェルトを引っ張って部屋の隅に移動した。
しばらく何か話して二人は帰ってきた。
何故か2人とも落ち込んでいたが。
「…サフラさん。ちゃんと本題に入ろうよ。落ち込むのは後でもできるし」
「…うん、そうだね…」
シクシクと本当に泣きそうなサフラだったが、立ち直って真剣な表情をした。
「二人に、エルフの里に来て貰いたい」
「…おい。それはヤベェだろ。俺は迷いこんだから許されたが本来ならエルフ以外入ったらいけねぇんだろ?」
「え、ヴェルト入れたの!?」
「あぁ?」
「…キリヤちゃん?どうして…」
サフラの視線が、明らかに警戒を帯びたものになった。
その確信を帯びた視線に私も視線を鋭くした。
「…どうしてエルフ以外が里に入れないことをキリヤちゃんが知ってるのかなぁ?」
「…サフラさんこそ。確かにエルフなら里にエルフ以外が入れないことを知ってるだろうけど、その理由は御子様しか知らないはずだよね?」
「…何故御子様の存在を知っている!」
殺気が部屋を覆った。
精霊術の気配が高まっている。
「…賢者様に勝てないサフラさんが私には勝てないよ。…御子様に何があったの?」
私はサフラの用意していた精霊術を消し去り、代わりに冷ややかな目を向けた。
「さぁ、話して」
「…オレは御子様…ハウエルの弟で、王だから御子様に会うことが許されていた。王は定期的に御子様に会わなきゃいけないし、肉親は自由に会うことができていたんだ。五年前、王として御子様に会う時のことだった。神殿に行って、御子様を探したよ」
その時のことを思い出すかのように、サフラは視線を宙にさまよわせた。
あれから、一触即発の空気は私がサフラを圧倒したことで決着が着いた。
魔力で屈服させた、というほうが正しい。
「神殿はそこまで広くないのに、御子様が見つからない。だからオレは神殿の神官たちと一緒に里中を探しまくった。…御子様が見つかったのは次の日の朝」
サフラはそこで言葉を切った。
口に出すことすらおぞましいのだろう。
「…生きてはいたよ。でも、あれくらいなら死んでたほうがマシだった。…御子様は両足両手を失っていて、中身も無かった。それでも生きてたよ」
視線を床に落とす。
生きていたのか、その状態で。
「幸いに見つけたのはオレだったからさ。神殿に運んで神官たちと相談して。…生かすことに決めた」
ヴェルトが頭に手を乗せた。
ヴェルトは私が神様並みの知識を有していることを知っている。
だから、私がその事態をどうにかできることも知っている。
「…頼む。キリヤちゃんなら、助けれるんだろ…?」
私は顔をあげた。
「…エルフの里に行こう。ヴェルト」
「…そうか。分かった」
「本当か!?」
「サフラさん。助けられるかは分からない。それに、今の私は里には入れない。里に入れるようになる前に御子様が死ぬかもしれない…それでも、待ってられる?」
「…大丈夫、だ。待ってる!だから頼む…!御子様を…兄さんを元に戻してくれ…!」
…名前から予想はしてたけど、御子様って男なんだなぁ…
サフラのお兄さんだから綺麗なんだろうとは思うんだけど…
「…じゃ、賢者様とサフラさんは先に行っててね」
「おう、分かった」
「…いや待てよ。どうして俺まで先に行ってなきゃいけねぇんだ」
「…あ、そっか。賢者様は里に入るために必要な条件を知らないんだっけ」
簡単そうで面倒なんだよなぁ…
「ね、何でキリヤちゃんは知ってるの?オレは兄さんから聞いたからなんだけど…」
「んー…ま、いっか。神様から知識を貰ってるんだ。賢者様助けるためなんだって」
「え、すげぇ!じゃあキリヤちゃんって斎様なんじゃん!」
「えー…ちょっと違うと思う…」
「おい。テメェら俺の分からねえ話を堂々と目の前ですんな。どうしてキリヤは里に入れねぇんだ?斎ってなんだよ」
疎外感を感じたらしいヴェルトが質問をぶつけてきた。
そうだよね、ヴェルトはそこらへん知らないんだよね…
「斎っていうのは神様が遣わしたとされる存在で天啓を受けることができる女性のこと。男性なら厳っていう字になる。両方とも“いつき”って読む」
天啓は神様からのお知らせ、みたいな感じのもの。
一方的だから、私やヴェルトと厳や斎はちょっと違う。
「で、エルフの里に入る条件は」
そこで、神様からの通信が入った。
あ、八年ぶりか?
今回のお話の中でのヴェルトとサフラの密談(?)
***
「おい、マジで!?」
「あぁ、マジだよ」
サフラに隅まで連れて行かれ、肩を組まれた。
そう、マジだ。
本当にキリヤとは何もない。
キリヤは始めは少し意識したのか挙動不審な行動もあったが、今は全くそういう気配はない。
「…んじゃあ賢者の片思いか?」
「そうなるな」
「そーか…だから会議であれだけ眼とばしてたんだな」
「…」
確かに、キリヤを見た連中を睨んではいた。
あの中でライバルが増えるとは思わないが、利用しようと考えるやつがいるだろうと思ってのことだ。
…流石にキリヤにくっつかれた学園長を本気で睨んだのは失敗だとは思う。
「いつからだ?片想い」
「…少なくとも五年前だな」
「あー、うん。人間嫌いの賢者がそこまで大切にするなんて…」
「うるせぇよ。あいつは俺の唯一だからな」
「…」
サフラは俺の言葉にぐっと手を握ってきた。
男に触られる趣味はない。
手を振り払って、サフラと俺は席に戻って行った。
***
ヴェルト、頑張れ!( ^^)/




